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コラム
2018年02月28日
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厚生労働省の資料によれば、大正時代(1920年)の夫の現役引退後の生活期間は1年、妻は5年というのが平均的な姿であった。しかし、2009年時点では、夫の現役引退後の生活期間は16年、妻は23年まで長期化している。65歳男性で19.6歳、女性で24.4歳と、平均余命が足元にかけて伸び続けていることを踏まえると、現役引退後の生活期間は今後更に長期化していく可能性もある。高齢期の生活のために、より多くの資金が必要となっていくことが想定される。
しかしながら、公的年金はマクロ経済スライドという仕組みによって、現役世代の人口減少や年金受給世代の平均余命の伸びに応じて、実質的な給付水準が徐々に引き下げられていく見込みである。物価の上昇に応じて年金額を増やすというのが公的年金の基本的な仕組みだが、今後は物価が上がっても、物価上昇ほどには年金額が増えず、毎年の年金で消費可能な商品やサービスの量を減らさざるを得ない状況が続くことになる。終身にわたる年金支給が保障される公的年金は、高齢期の生活における基盤であることに変りはないが、それだけでは十分とは言えない状況になりつつある。
かつて退職後の生活を支えてきた企業年金は、2012年に適格退職年金が廃止され、2014年から施行されている法改正により厚生年金基金の実質的な役割も縮小されている。企業年金を導入する企業の割合や企業年金によってカバーされる民間サラリーマンの割合は、この10年で大きく減少している。更に、現在、企業年金の柱となっている確定給付企業年金では、10年、20年といった有期年金の割合が8割強と圧倒的に多く、終身年金を支給する確定給付企業年金の割合は2割弱に留まるという実態もある。確定給付企業年金が導入される企業に勤務する従業員の多くも、とりわけ長生きリスクへの備えという点では確定給付企業年金を当てにすることはできない。
結局のところ、余命の伸びに対しては、自らで備える必要がある。企業型DCの運用指図を今一度見直したり、自助努力をサポートするために創設されたiDeCoやつみたてNISAなどを積極的に活用したりしながら、退職後に向けて資産を効果的に積み立てる努力はもちろんのこと、退職後も生活資金を効果的に増やしながら、長生きリスクにも備えなければならない。生活費として当てにできる収入や資金の減少により経済的な困窮に陥る危険性を抑制する工夫が個々人に求められるのである。
長生きリスクに備える上で検討したいのが、公的年金の受給開始年齢の先送りと資産取り崩し期における資産運用である。公的年金の受給開始年齢は65歳が原則となっているが、70歳まで受給開始を先送りできことになっており、先送りした場合には月当たり0.7%年金額が増額される。65歳開始の年金額を100万円とすると、1年先送りすることで年金額は8.4万円(=100万円×0.7%×12カ月)増え、108.4万円になる。5年先送りすると42万円(=100万円×0.7%×60カ月)増え、142万円になる。この増額率は生涯にわたり適用されるため、受給開始年齢の先送りは公的年金以外の生活原資が減少した際の保障を手厚くし、長生きリスクへの備えを充実できるメリットがある。ただし、受給開始までの生活資金を別途手当てする必要があり、所得収入が限られる場合は、資産を取り崩す必要がある点には注意も必要である。
資産取り崩し期の運用に関しては、米国でよく知られる4%ルールから示唆が得られる。これは、高齢期に資産を初めて取り崩す際の金額を資産額の4%とする資産取り崩しの考え方である。取り崩し前の資産額が500万円だとすると、初めて取り崩す際の金額を4%に相当する20万円とし、翌年以降はこの20万円に毎年の物価上昇分を上乗せした額を取り崩すという単純なルールである。それにも関わらず注目されるのは、物価の変動に応じて取り崩す額を変えることで、取り崩す額の実質的な価値(消費生活の水準)を維持しつつも、30年間にわたり資産の枯渇を抑制できるとしている点にある。
この例で、初回の取り崩し額20万円は当初資産額500万円の25年分に相当する。物価上昇に応じて取り崩し額を増やすにも関わらず、30年間にわたり資産枯渇のリスクを抑制できるのは、資産を株式50%・債券50%で運用することを前提としているためである。長生きリスクに備える上では、計画的な資産の取り崩しが欠かせないが、同時に、高齢期に使える資金の拡充を図ることの重要性も窺い知ることができる。資産の50%を生涯にわたり株式に投資し続けるというのはやや極端かもしれないが、資産取り崩し期における資産運用においても、適度にリスクを取ることを選択肢として認識しておく必要はありそうだ。
高齢期の生活の安心を確保するためには、日々の生活に使える資金を増やすことが何より求められる。そのためには、より長く働き続けることも大切だろう。ただ労働参加以外にも生活の安定度を高めるためにできる事はあろう。高齢期には想定外の支出を迫られる機会が増える可能性もあるが、だからこそ高齢期の経常的な生活資金については、安定的な確保に向けた計画が不可欠とも言える。人生100年時代の到来を控えるなか、現役引退前のできるだけ早いうちに、高齢期の資金計画をイメージしておくことが大切である。
しかしながら、公的年金はマクロ経済スライドという仕組みによって、現役世代の人口減少や年金受給世代の平均余命の伸びに応じて、実質的な給付水準が徐々に引き下げられていく見込みである。物価の上昇に応じて年金額を増やすというのが公的年金の基本的な仕組みだが、今後は物価が上がっても、物価上昇ほどには年金額が増えず、毎年の年金で消費可能な商品やサービスの量を減らさざるを得ない状況が続くことになる。終身にわたる年金支給が保障される公的年金は、高齢期の生活における基盤であることに変りはないが、それだけでは十分とは言えない状況になりつつある。
かつて退職後の生活を支えてきた企業年金は、2012年に適格退職年金が廃止され、2014年から施行されている法改正により厚生年金基金の実質的な役割も縮小されている。企業年金を導入する企業の割合や企業年金によってカバーされる民間サラリーマンの割合は、この10年で大きく減少している。更に、現在、企業年金の柱となっている確定給付企業年金では、10年、20年といった有期年金の割合が8割強と圧倒的に多く、終身年金を支給する確定給付企業年金の割合は2割弱に留まるという実態もある。確定給付企業年金が導入される企業に勤務する従業員の多くも、とりわけ長生きリスクへの備えという点では確定給付企業年金を当てにすることはできない。
結局のところ、余命の伸びに対しては、自らで備える必要がある。企業型DCの運用指図を今一度見直したり、自助努力をサポートするために創設されたiDeCoやつみたてNISAなどを積極的に活用したりしながら、退職後に向けて資産を効果的に積み立てる努力はもちろんのこと、退職後も生活資金を効果的に増やしながら、長生きリスクにも備えなければならない。生活費として当てにできる収入や資金の減少により経済的な困窮に陥る危険性を抑制する工夫が個々人に求められるのである。
長生きリスクに備える上で検討したいのが、公的年金の受給開始年齢の先送りと資産取り崩し期における資産運用である。公的年金の受給開始年齢は65歳が原則となっているが、70歳まで受給開始を先送りできことになっており、先送りした場合には月当たり0.7%年金額が増額される。65歳開始の年金額を100万円とすると、1年先送りすることで年金額は8.4万円(=100万円×0.7%×12カ月)増え、108.4万円になる。5年先送りすると42万円(=100万円×0.7%×60カ月)増え、142万円になる。この増額率は生涯にわたり適用されるため、受給開始年齢の先送りは公的年金以外の生活原資が減少した際の保障を手厚くし、長生きリスクへの備えを充実できるメリットがある。ただし、受給開始までの生活資金を別途手当てする必要があり、所得収入が限られる場合は、資産を取り崩す必要がある点には注意も必要である。
資産取り崩し期の運用に関しては、米国でよく知られる4%ルールから示唆が得られる。これは、高齢期に資産を初めて取り崩す際の金額を資産額の4%とする資産取り崩しの考え方である。取り崩し前の資産額が500万円だとすると、初めて取り崩す際の金額を4%に相当する20万円とし、翌年以降はこの20万円に毎年の物価上昇分を上乗せした額を取り崩すという単純なルールである。それにも関わらず注目されるのは、物価の変動に応じて取り崩す額を変えることで、取り崩す額の実質的な価値(消費生活の水準)を維持しつつも、30年間にわたり資産の枯渇を抑制できるとしている点にある。
この例で、初回の取り崩し額20万円は当初資産額500万円の25年分に相当する。物価上昇に応じて取り崩し額を増やすにも関わらず、30年間にわたり資産枯渇のリスクを抑制できるのは、資産を株式50%・債券50%で運用することを前提としているためである。長生きリスクに備える上では、計画的な資産の取り崩しが欠かせないが、同時に、高齢期に使える資金の拡充を図ることの重要性も窺い知ることができる。資産の50%を生涯にわたり株式に投資し続けるというのはやや極端かもしれないが、資産取り崩し期における資産運用においても、適度にリスクを取ることを選択肢として認識しておく必要はありそうだ。
高齢期の生活の安心を確保するためには、日々の生活に使える資金を増やすことが何より求められる。そのためには、より長く働き続けることも大切だろう。ただ労働参加以外にも生活の安定度を高めるためにできる事はあろう。高齢期には想定外の支出を迫られる機会が増える可能性もあるが、だからこそ高齢期の経常的な生活資金については、安定的な確保に向けた計画が不可欠とも言える。人生100年時代の到来を控えるなか、現役引退前のできるだけ早いうちに、高齢期の資金計画をイメージしておくことが大切である。
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(2018年02月28日「研究員の眼」)
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03-3512-1849
経歴
- 【職歴】
1988年 日本生命保険相互会社入社
1995年 ニッセイアセットマネジメント(旧ニッセイ投信)出向
2005年 一橋大学国際企業戦略研究科修了
2009年 ニッセイ基礎研究所
2011年 年金総合リサーチセンター 兼務
2013年7月より現職
2018年 ジェロントロジー推進室 兼務
2021年 ESG推進室 兼務
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