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- 米国におけるESG 投資の動向について
2019年08月05日
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近年、世界的にESG投資の裾野が広がりつつある。売上高や利益といった従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)といった要素も考慮した投資の考え方で、年金基金など大きな資産を超長期で運用する機関投資家を中心に、企業経営のサステナビリティを評価する概念が普及するなかで、気候変動などを念頭においた長期的なリスクマネジメントや、企業の新たな利益創出の機会を評価する視点として、ESGが注目されている。
ESG投資が注目されるようになったのは、2006年に国連によって発足されたPRI(国連責任投資原則)を通じて、機関投資家が投資分析と意思決定プロセスにESG課題を組み込むことなどが、当時のアナン国連事務総長によって提唱されたことが契機とされる。PRIに賛同する署名機関数は、PRI発足以来一貫して増加、足元では2,300を超えるまでに達しており(図表1)、それに伴ってESGという言葉も世界的に認知されるようになっている。
PRIに署名する機関数が国別で最も多いのは米国で、足元では420以上の機関がPRIに署名している。PRIに署名する機関の一つとして名を連ねているのが、カルパース(カルフォルニア州職員退職年金基金)である。米国最大の公的年金基金であるカルパースは、2006年にPRIに署名して以降、ESG投資を積極的に推進し、2012年には全ての投資判断にESGを組み込む投資原則を採用するなど、米国におけるESG投資の普及を主導している。
カルパースを中心にESG課題にいち早く取り組んできた米国においては、ESG投資の普及という面で一見、進展しているように見える。実際、米調査機関Callanの2018年のリサーチによれば、米国でESG要素を投資意思決定に組み込んでいる、あるいは、ESG投資を志向する商品を採用している機関投資家(DCプランスポンサーを含む)の割合は、2013年の22%から2018年には43%にまで高まっている。
ところが、機関投資家のタイプ別では、財団や大学基金、公的年金においては、2018年時点において調査対象のそれぞれ64%、56%、39%がESG要素を投資プロセスに組み込み、2013年から導入割合が大きく高まっているのに対して、民間の企業年金においてはESG投資を組み入れるプランスポンサーの割合は2018年時点で20%に留まっている(図表2)。
ESG投資が注目されるようになったのは、2006年に国連によって発足されたPRI(国連責任投資原則)を通じて、機関投資家が投資分析と意思決定プロセスにESG課題を組み込むことなどが、当時のアナン国連事務総長によって提唱されたことが契機とされる。PRIに賛同する署名機関数は、PRI発足以来一貫して増加、足元では2,300を超えるまでに達しており(図表1)、それに伴ってESGという言葉も世界的に認知されるようになっている。
PRIに署名する機関数が国別で最も多いのは米国で、足元では420以上の機関がPRIに署名している。PRIに署名する機関の一つとして名を連ねているのが、カルパース(カルフォルニア州職員退職年金基金)である。米国最大の公的年金基金であるカルパースは、2006年にPRIに署名して以降、ESG投資を積極的に推進し、2012年には全ての投資判断にESGを組み込む投資原則を採用するなど、米国におけるESG投資の普及を主導している。
カルパースを中心にESG課題にいち早く取り組んできた米国においては、ESG投資の普及という面で一見、進展しているように見える。実際、米調査機関Callanの2018年のリサーチによれば、米国でESG要素を投資意思決定に組み込んでいる、あるいは、ESG投資を志向する商品を採用している機関投資家(DCプランスポンサーを含む)の割合は、2013年の22%から2018年には43%にまで高まっている。
ところが、機関投資家のタイプ別では、財団や大学基金、公的年金においては、2018年時点において調査対象のそれぞれ64%、56%、39%がESG要素を投資プロセスに組み込み、2013年から導入割合が大きく高まっているのに対して、民間の企業年金においてはESG投資を組み入れるプランスポンサーの割合は2018年時点で20%に留まっている(図表2)。
公的年金と企業年金の調査対象には、確定給付型年金と確定拠出型年金が含まれるが、公的と民間を合わせた確定給付型年金では、全体の40%がESG投資を採用しているのに対して、確定拠出型年金ではESG投資の採用は全体の13%に留まっている。ESG課題への取り組みには偏りがあり、必ずしも順調にESG投資が普及しているとは言えない面もありそうだ。
その背景として指摘されるのが、規制当局によるESGに対する見解の影響である。企業年金を所管する米国労働省は、2016年に投資方針や議決権行使にESGの要素を考慮することがエリサ法上の受託者責任に違反するものではないとの解釈を明らかにした。しかしながら、当該解釈に対する質問への回答として2018年に公表された解釈では、ESG要素については安易に取り扱ってはならず、受益者の経済的な利益が損なわれることがないように慎重に判断するよう要求している。
つまり、2018年に発出された米国労働省のESG投資に消極的な見解が、エリサ法が適用されない公務員向けの公的年金とは異なり、民間の企業年金におけるESG投資の普及を妨げている可能性が指摘されているのである。特に、加入者が自らの意思で運用商品を選択する確定拠出型年金においては、スポンサーが提供する選択肢が加入者による厳しい目に晒される分だけ、ESG投資を選択肢とすることについて慎重な対応を迫られている可能性がある。結局のところ、環境や社会課題を意識することでリスク・リターン特性が改善されることについての合理的な説明の難しさが、企業年金におけるESG投資の普及を妨げているとも捉えられる。
しかしながら、ESG投資は環境や社会を意識した企業経営を後押しすることを通じて、世界的な課題への対応を目指すものであることを踏まえると、ESG課題の重要性を国民一人ひとりが認識し、環境や社会的な課題を意識した消費行動が個々人の価値観として定着することが必要だろう。こう考えると、確定拠出型年金は、ESG課題への理解を促す機会を提供するものであり、ESG課題への対応を推進する上でも重要な役割を担っていると言える。
米国においては、確定給付型年金から確定拠出型年金への移行が進み、確定拠出型年金の企業年金における位置づけが高まっている。こうしたなか、確定拠出型年金におけるESG投資の取り扱いは、将来的な米国、ひいては、日本のESG課題への取り組みを左右しかねない。引き続き、米国の確定拠出型年金におけるESG投資を巡る動向が注目される。
その背景として指摘されるのが、規制当局によるESGに対する見解の影響である。企業年金を所管する米国労働省は、2016年に投資方針や議決権行使にESGの要素を考慮することがエリサ法上の受託者責任に違反するものではないとの解釈を明らかにした。しかしながら、当該解釈に対する質問への回答として2018年に公表された解釈では、ESG要素については安易に取り扱ってはならず、受益者の経済的な利益が損なわれることがないように慎重に判断するよう要求している。
つまり、2018年に発出された米国労働省のESG投資に消極的な見解が、エリサ法が適用されない公務員向けの公的年金とは異なり、民間の企業年金におけるESG投資の普及を妨げている可能性が指摘されているのである。特に、加入者が自らの意思で運用商品を選択する確定拠出型年金においては、スポンサーが提供する選択肢が加入者による厳しい目に晒される分だけ、ESG投資を選択肢とすることについて慎重な対応を迫られている可能性がある。結局のところ、環境や社会課題を意識することでリスク・リターン特性が改善されることについての合理的な説明の難しさが、企業年金におけるESG投資の普及を妨げているとも捉えられる。
しかしながら、ESG投資は環境や社会を意識した企業経営を後押しすることを通じて、世界的な課題への対応を目指すものであることを踏まえると、ESG課題の重要性を国民一人ひとりが認識し、環境や社会的な課題を意識した消費行動が個々人の価値観として定着することが必要だろう。こう考えると、確定拠出型年金は、ESG課題への理解を促す機会を提供するものであり、ESG課題への対応を推進する上でも重要な役割を担っていると言える。
米国においては、確定給付型年金から確定拠出型年金への移行が進み、確定拠出型年金の企業年金における位置づけが高まっている。こうしたなか、確定拠出型年金におけるESG投資の取り扱いは、将来的な米国、ひいては、日本のESG課題への取り組みを左右しかねない。引き続き、米国の確定拠出型年金におけるESG投資を巡る動向が注目される。
(2019年08月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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経歴
- 【職歴】
1988年 日本生命保険相互会社入社
1995年 ニッセイアセットマネジメント(旧ニッセイ投信)出向
2005年 一橋大学国際企業戦略研究科修了
2009年 ニッセイ基礎研究所
2011年 年金総合リサーチセンター 兼務
2013年7月より現職
2018年 ジェロントロジー推進室 兼務
2021年 ESG推進室 兼務
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