コラム
2018年12月27日

ESG投資について振り返る-単なる流行に終わらせないために考えてみる

金融研究部 研究理事 年金研究部長 兼 年金総合リサーチセンター長   德島 勝幸

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1――はじめに

日本のESG投資の流れは、GPIF(年金資金運用管理積立行政法人)の積極化に加えて、金融庁や東京証券取引所が二つのコード(スチュワードシップ及びコーポレートガバナンス)を提唱したことで、一気に拡大しつつある。その流れに抗するべきではないものの、個々の企業・団体では、どう流れに乗るかを考える必要がある。また、極めて日本的な発想ではあるが、周囲がどのように動いているかにも眼を配る必要があるだろう。ESG投資に対して強い確信を有する企業や団体は、より積極的に推進する姿勢を示すだろうし、周囲の様子を見ながら進めようとする一般的な多くの企業や団体は、少しずつ進み続けることだろう。

果たしてESG投資が、すべての企業や団体にとって是認されるものなのか。一律の回答は難しいものと思われる。ESG投資においてE・S・Gの3要素のどれに力点を置くかで、また、異なる答えが生じるのかもしれない。現在の強いESG投資の流れの中でも、時に、立ち止まって考えることも必要なのではないか。考えないといけないのは、狂信的な主張や行動に乗ってしまうと後から冷静になって振り返った結果、しばしば悔悟の念を産むことである。ESG投資が今後もますます重要視されると確信すればこそ、時々、立ち止まってみる必要もあるのではないか。

2――ESG投資は収益性を否定しない

海外においては、ESG投資が超過収益の源泉になるという分析結果も見られるが、日本の株式投資においては、なかなか強固な効果は確認されていない。一方で、GPIFの発想は、ESG要素を意識することで、投資先の長期的な観点での継続性を担保することにある。サステイナブル投資と言い換えられる色彩も濃い。年金運用が長期資金であるという本来の特性に立つのならば、ESG投資は適合した概念であろう。しかし、短期的な運用パフォーマンスのみを考える運用においては、もしかしたらESG投資は収益獲得と矛盾する行動になる場合がある。

年金運用者は、アセットオーナーもアセットマネジャーも、受益者に対するフィデューシャリーデューティーを負っていると考えられる。投資の際に意識されるべきは、受益者に対する年金給付の確実性と収益還元である。ESG要素が中長期的な投資のサステイナビリティを担保するものならば、年金運用において意識されるべきものである。しかし、収益性を犠牲にしても、ESG要素を追求するべきものだろうか。短期的な観点と中長期的な観点とで、相反する行動を誘引する可能性が高い。年金がESG投資を推進する場合には、世間の流れに乗るのではなく、自らのESG投資に関する方針を確立し、それに合致した行動を採ることが望ましいと考えられる。そうでなければ、ESG投資に際しての判断が一貫性を欠き、迷走することになりかねない。

近年では、ESG投資が株式の領域から、他の資産領域にも拡大する傾向がある。確かに、インフラ投資などエクイティ性を有する資産の投資においては、株式投資と同様にESG要素を考えることが馴染む。一方で、債券の領域にまでもESG投資が拡大されつつある。投資の収益性が損なわれなければ、債券投資においてESG要素を考慮することは誰も反対しない。しかし、ESG投資を意識しているからと言って、割高な水準で債券を購入することは、必ずしもフィデューシャリーデューティーと合致しないだろう。最近の日本における債券の発行市場を見ると、様々な名目で「環境債」や「グリーンボンド」といった形のものが募集されている。しかし、元々フィックストインカムである債券においては、グリーンボンドだからと言って、割高な水準で購入されるべきではない。そもそも、「お金に色はない」のだから、グリーンボンドで調達した資金が、その名目とされる対象にのみ充当されるということはフィクションに過ぎない。厳密なグリーンボンドにするならば、特約等を付して使途を厳しく限定することを考えるべきだろう。現状で多発されているグリーンボンドは、発行体の売らんかなの姿勢と、ESG投資を訴求する投資家の打算的な合意の上にあるものとしか見えない(それを「ウィンウィン」の関係と呼ぶこともできるのであるが)。

3――ESG投資をキャンペーンに貶めるな

実は、ESG投資の根本にあるかもしれないのが、「言ったもの勝ち」の行動である。化石燃料を使わないことで、原子力発電は環境に優しいと言われなかったか。石炭火力発電が二酸化炭素だけでなく煤塵等を大量に発生することがダメだとして、石油や天然ガスを燃料とする火力発電は無条件に肯定されるのか。クラスター爆弾は条約で禁止される非人道的兵器であり、その製造企業への投資がESG判断に適わないとするならば、ミサイルや戦車、艦艇、戦闘機等を少しでも製造している企業への投資はESG判断に適うのか。燃料電池車やPHV車を開発・販売しているからと言って、ガソリン自動車の売上が過半を占める自動車メーカーへの投資は、ESG判断に適うのだろうか。更には、企業統治に問題があるとされる企業の年金や、ガバナンス体制に問題のあると考えられる年金が、投資先にガバナンスを求めることは矛盾していないだろうか。

ESG投資の流れが強くなるにつれて単なる流行となり、時に、魔女狩りにも比すべき排除行動になってはならない。特に、ネガティブリストに基づくダイベストメントのみを強調するのは危険だし、企業の一部分のみを捉えて肯定的にインベストメントを強調することにも危険性があるだろう。ある程度は、常識として判断すべきこともあるだろうし、一部のみならず企業全体を見ることも必要で、グループ会社も含めた集団として考えることも必要だろう。

結局のところ、ESG投資は投資家にとって、中長期的な投資の本質そのものに根差すとも考えられ、投資に対する根本的な姿勢を強く示すものである。周囲に流されず、一時の流行と考えることなく、フィデューシャリーデューティーを遂行するという観点から、改めてESG投資への取組み方を見直してはいかがだろうか。
 
 

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金融研究部   研究理事 年金研究部長 兼 年金総合リサーチセンター長

德島 勝幸 (とくしま かつゆき)

研究・専門分野
年金・債券・クレジット・ALM

(2018年12月27日「研究員の眼」)

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