2018年08月03日

企業年金基金はESG投資にどう向き合えばよいのか?

静岡県立大学 経営情報学部   上野 雄史

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日本においてもESG投資の拡大機運が出てきた。ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の要素を考慮した投資のことである。ESG投資は、欧米、特に欧州で先行して拡大している。2016年時点で、欧州で1兆3,244億円 1、アメリカが9,595億円に対して、日本はわずか521億円である。ESG投資額は、欧米と比べて極めて小規模にとどまっている。

1 1ドル=110円にて算出
この流れを大きく変えようとしているのが我が国の公的年金の運用機関であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)である。GPIFは、2017年7月に日本株のESG指数を選定し、同指数に連動したパッシブ運用を開始した。GPIFの保有総資産額は160兆円以上であり、世界最大の運用機関である。その巨額の運用資金の一部がESG投資に振り分けられることで国内でのESG投資が一気に加速する可能性もある。また、日本政府はESG投資を促す枠組みを積極的に作り出そうとしており、企業年金基金もその影響を受けている。厚生労働省は、「確定給付企業年金に係る資産運用関係者の役割及び責任に関するガイドライン」の見直しを2018年4月1日に行った。その中で「スチュワードシップ・コードの受け入れや取組み、ESGに対する考え方を運用受託機関の選任・評価の際の定性評価項目とすることを検討することが望ましい」という項目が新たに追加された。あくまでガイドラインであり、拘束力のある文言ではないものの、ESG投資に対する取り組みが求められていることが読み取れる。

ESG投資尺度は確立されたものがあるわけではない。そのため、企業年金基金の運用担当者はどのようにESG投資に対応すべきかが問題となる。図表はESG投資の考え方についてまとめたものである。
図表:ESG投資の考え方
ESG投資の考え方は必ずしも1つの方法に依らなければならない訳ではなく、現実的には複数の投資手法を組み合わせることになろう。ただし、いかなる手法を用いたとしても、リスク・リターンを度外視することは出来ない。そもそも企業年金基金は、従業員(加入者)から預かった資産を、将来の年金給付に備えて、運用する機関である。過剰にリスキーな投資を行うことは好ましくなく、確実なリターンを見込まなければならない。

では、ESG投資が他の投資に比べてより多くのリターンを見込めるのであろうか。これについて先行研究による評価は分かれており、研究結果からは、現段階でESG投資対象企業のリターンがそうでない企業と比べて確実に高いとは言えない3

3例えば、Fatemi et al.(2017)における先行研究の結果を参照されたい。A. Fatemi, M. Glaum and S. Kaiser(2017), “ESG performance and firm value: The moderating role of disclosure,” Global Finance Journal(forthcoming).
このバラついた評価は、ESG投資の多様性がもたらしているともいえる。元来、ESG投資は短期的と言うよりは中長期的な視点で、かつ非財務情報を評価して行われるものである。どのような考えで行うかどうかは運用機関に依拠するところが大きく、どのような投資信念の下、どの企業を対象として投資するのかについて考え方が統一されているわけではない。

内外のESG投資の一例を見てみよう。先述のGPIFのESG指標においては、MSCI 日本株女性活躍指数(愛称、WIN)を採用しており、女性活躍推進法により開示される女性雇用に関するデータに基づき、多面的に性別多様性スコアを算出、各業種から性別多様性スコアの高い企業を選別して指数を構築したものを用いている。これは現政府の働き方改革の意向を強く組んだものと解釈できる。

国外ではカリフォルニア州公務員退職年金基金であるカルパーズ(CalPERS)もESG投資を行なっている。同基金は欧州のESG投資に広がっている化石燃料関連企業からの投資引き上げは行わず、投資を通じて環境問題への配慮を関連企業に促していく姿勢を取っている4。こうした柔軟姿勢を示す一方で、2018年の投資先企業とのエンゲージメント計画を発表し、取締役会のダイバーシティ確保と気候変動対応に重点的に取り組み、投資信念(Investment Beliefs)に基づき、投資先企業約11,000社に対し議決権を行使することを表明している。
 
4 カルパーズの投資信念やESGに関する考え方については、同社のWEBサイト(https://www.calpers.ca.gov/)や以下の記事も参照されたい。日経ビジネスオンライン「米最大の年金基金「ESG投資で日本に注目」 議決権を積極行使、年率7.5%の高リターン狙う」、2016年3月10日
国内で先行してESG投資に積極的に取り組むことを表明しているのは、セコム企業年金基金である。同基金は他基金に先駆けて2011年3月に国連の責任投資原則(PRI)に署名した。PRIとは2006年4月にアナン国連事務総長(当時)によって提唱された6つの原則である。この署名を反映させる形で同基金は投資原則に「運用受託機関に対して、ESG投資の成果を高めるよう議決権の行使を行うことを求めます」との文言を明記している。参考までに、母体企業のセコム(株)は、CSR活動を企業戦略の中に取り込んでおり、SUSTAINA ESGレーティングでAA+と高格付けとなっている。

企業年金基金はリスク・リターンを慎重に見極めて運用しなければならない。一方で、ESG投資では、投資信念を構築し、資産運用を行うことが求められる。投資信念とリスク・リターンのバランスを取りながら、ESG投資を如何に運用に織り込むかが鍵になる。
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静岡県立大学 経営情報学部

上野 雄史

研究・専門分野

(2018年08月03日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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