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- 米国における企業年金の財政状態をみる:金利上昇が与えた変化
2023年07月05日
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2022年は資産運用という観点からみると厳しい年であった。各国の中央銀行は、インフレの影響を抑制する目的で、コロナ禍で行っていた大量の金融緩和政策を転換し、上半期から米国がハイペースな形で政策(短期)金利を上げ始めた。2022年4月時点で米国の政策金利が0.5%、ユーロ0%、英国0.75%であったものが、ハイペースで利上げをし、2023年5月23日現在、米国5.0%、ユーロ3.5%、英国4.5%となっている。政策金利の値上げは、長期国債の上昇も招いた。こうしたショックは企業年金財政にどういった影響をもたらしたのであろうか。今後の母体企業にもたらす影響も含めて考察していく。
図表1の企業年金の財政状態の状況は、アメリカにおける確定給付企業年金の資産額上位100社の法定開示のデータに基づいたものである。2022年の予測給付債務(Projected Benefit Obligation:以下、PBO)は、前年比520.8百万ドル減の1,327.5百万ドル、年金資産も同じく減少し、前年比461.5百万ドル減の1,318.8百万ドルとなった。PBO、年金資産ともに縮小していることが分かる。「PBO減少額>年金資産減少額」であったことから、積立不足額は59.3百万ドル減の8.7百万ドルとなった。PBOを年金資産で割った積立率は、前年比3.0%増の99.3%となっており、100%に近い数値にまで上昇した。
図表1の企業年金の財政状態の状況は、アメリカにおける確定給付企業年金の資産額上位100社の法定開示のデータに基づいたものである。2022年の予測給付債務(Projected Benefit Obligation:以下、PBO)は、前年比520.8百万ドル減の1,327.5百万ドル、年金資産も同じく減少し、前年比461.5百万ドル減の1,318.8百万ドルとなった。PBO、年金資産ともに縮小していることが分かる。「PBO減少額>年金資産減少額」であったことから、積立不足額は59.3百万ドル減の8.7百万ドルとなった。PBOを年金資産で割った積立率は、前年比3.0%増の99.3%となっており、100%に近い数値にまで上昇した。
PBOの減少は、割引率の上昇によってもたらされている。2022年の割引率は、前年比2.45%上昇の5.18%となり、債務が縮小した。企業年金のような超長期の期間に及ぶ債務は、割引率の変化により算定額が大きく変化する。2022年は、年金資産の減少は生じたものの、割引率の上昇に伴い、企業年金財政が改善された結果となった。では、次に、企業年金の財政状態を個別企業から確認してみよう。企業年金資産の規模が大きい100社のうち、上位3社のGeneral Electric(以下、GE)とGeneral Motors(以下、GM)、Ford Motor Co.(以下、Ford)を取り上げる。
図表2は、3社の企業年金の財政状態である。基本的に図表1で確認した通りの状況が確認できる。各社とも、PBO、年金資産が前年と比較して大幅に減少している。ただし、傾向には差がある。「PBO減少額>年金資産減少額」なのは、GE、GMの2社で、Fordは「PBO減少額<年金資産減少額」となっている。その結果、積立不足額(超過額)については、GEは前年比942百万ドル減の3,141百万ドル、GMは前年比371百万ドル減で84百万ドルの積立超過となった一方で、Fordの積立超過は前年比966百万ドル減の55百万ドルとなった。
積立率は、GEが前年比0.25%低下の93.47%、GMが前年比0.66%上昇の100.19%、Fordが2.1%低下の100.17%となり、GMとFordは100%を超えている。積立率が低下したGEについても、積立不足額は前年と比べて減少しているため、貸借対照表に計上される負債額は小さくなった。割引率をみると、GEは前年比2.59%上昇の5.53%、GMは前年比2.69%低下の5.47%、Fordが前年比2.60%上昇の5.51%ととなり、軒並み5.5%台まで引き上げている。こうした割引率の変更に伴うPBOの再計算の結果、2022年に大幅に債務が減少したことが分かる。
図表2は、3社の企業年金の財政状態である。基本的に図表1で確認した通りの状況が確認できる。各社とも、PBO、年金資産が前年と比較して大幅に減少している。ただし、傾向には差がある。「PBO減少額>年金資産減少額」なのは、GE、GMの2社で、Fordは「PBO減少額<年金資産減少額」となっている。その結果、積立不足額(超過額)については、GEは前年比942百万ドル減の3,141百万ドル、GMは前年比371百万ドル減で84百万ドルの積立超過となった一方で、Fordの積立超過は前年比966百万ドル減の55百万ドルとなった。
積立率は、GEが前年比0.25%低下の93.47%、GMが前年比0.66%上昇の100.19%、Fordが2.1%低下の100.17%となり、GMとFordは100%を超えている。積立率が低下したGEについても、積立不足額は前年と比べて減少しているため、貸借対照表に計上される負債額は小さくなった。割引率をみると、GEは前年比2.59%上昇の5.53%、GMは前年比2.69%低下の5.47%、Fordが前年比2.60%上昇の5.51%ととなり、軒並み5.5%台まで引き上げている。こうした割引率の変更に伴うPBOの再計算の結果、2022年に大幅に債務が減少したことが分かる。
2022年は、米国の企業年金財政はPBO、年金資産の総額が縮小し、全体的な傾向として「PBO減少額>年金資産減少額」となり、積立不足額が縮小した。かつ、企業年金財政の規模が縮小した。こうした変化は、母体企業にはプラスの影響をもたらす。Rauh (2006)2、Campbell et al.(2012)3は、積立不足の増大が投資の減少に関連することを示唆する結果を示している。Rauh (2006)は、積立不足の増加に伴い、強制的な拠出額が増加し、投資に使う内部資金の減少を引き起こすことを実証している。Campbell et al. (2012)は、投資の減少が、企業年金の拠出額増加による資本コストの上昇が関係していることを示している。企業年金財政の改善は母体企業の資金的な余裕を生み、内部資金の増加をもたらす。年金債務額が小さくなったことで、バイアウトなどの積極的な負担削減に乗り出しやすい環境が整ったともいえよう。今後の米国における企業年金の運営の変化に注目したい。
1 Milliman(2023) ,2023 Corporate Pension Funding Study.
https://www.milliman.com/en/insight/2023-corporate-pension-funding-study
3 Campbell, J. L., D.S. Dhaliwal, J.W.C. Schwartz "Financing Constraints and the Cost of Capital: Evidence from the Funding of Corporate Pension Plans,"The Review of Financial Studies,25(3), p.868-912.
(2023年07月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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