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- 国内の企業年金基金のPRI署名はなぜ進まない?
2022年07月05日
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国内外においてESG(環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G))投資が活気を帯びてきている一方で、国内の企業年金基金の国際的な規準への準拠は遅れている。本レポートはその状況を概観し、ESG投資に関する今後の課題を明示していく。
ESG投資に関連する機関投資家のためのフレームワークとしては、国内には日本版スチュワードシップ・コード(以下、SC)があり、国際的なものとしては国連責任投資原則(Principles for Responsible Investment:以下、PRI)がある。SCは、機関投資家に責任をもった投資判断を促すための指針である。2020年3月改訂で、運用戦略に応じて、サステナビリティに関する課題を検討、考慮し、投資先企業との対話においても組み入れることが示唆されている(原則1、原則4)。PRIは、2006年に国連の主導で発足したプラットフォームである。PRIでは、実効的なESG投資を行う為の6つの原則への準拠を、署名を通じて約束(コミット)しなければならない。PRIは、ESG課題の投資への組み込み、投資対象に対する働きかけ、活動状況の報告などが求められており、SCと比較して具体的なアクションが求められている。
図表1はSCを受け入れている基金の母体企業・機関の内訳である。PRI署名基金の数が限られているため、個別の基金名と母体企業名を挙げている1。現在、SCの受け入れ表明を行っているのは77基金、PRI署名は5基金である。2022年5月1日時点で確定給付企業年金(基金型)数は700あることを考えればSC受け入れ基金は少数であるが、PRI署名基金は極端に少な2 。
ESG投資に関連する機関投資家のためのフレームワークとしては、国内には日本版スチュワードシップ・コード(以下、SC)があり、国際的なものとしては国連責任投資原則(Principles for Responsible Investment:以下、PRI)がある。SCは、機関投資家に責任をもった投資判断を促すための指針である。2020年3月改訂で、運用戦略に応じて、サステナビリティに関する課題を検討、考慮し、投資先企業との対話においても組み入れることが示唆されている(原則1、原則4)。PRIは、2006年に国連の主導で発足したプラットフォームである。PRIでは、実効的なESG投資を行う為の6つの原則への準拠を、署名を通じて約束(コミット)しなければならない。PRIは、ESG課題の投資への組み込み、投資対象に対する働きかけ、活動状況の報告などが求められており、SCと比較して具体的なアクションが求められている。
図表1はSCを受け入れている基金の母体企業・機関の内訳である。PRI署名基金の数が限られているため、個別の基金名と母体企業名を挙げている1。現在、SCの受け入れ表明を行っているのは77基金、PRI署名は5基金である。2022年5月1日時点で確定給付企業年金(基金型)数は700あることを考えればSC受け入れ基金は少数であるが、PRI署名基金は極端に少な2 。
PRI署名基金(括弧内は署名日)
・セコム企業年金基金(2011年3月30日) 母体企業:セコム
・年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)(2015年9月25日)
・エーザイ企業年金基金(2019年12月20日)母体企業:エーザイ
・企業年金連合会(2016年5月13日)
・肥後銀行企業年金基金(2021年9月13日)母体企業:九州フィナンシャルグループ
SC受け入れ基金の母体企業・機関の内訳は、一般事業会社26、銀行関連22、職業団体18、公的機関4、外資系3、保険2、学校法人2となっている。企業に限定してみれば、50基金がSCを受け入れている。PRI署名基金は5基金に留まっており、そのうち企業年金は3基金である。わが国で最初にPRIに署名したキッコーマン企業年金基金(母体企業:キッコーマン)は、2021年4月27日付で脱退している。
PRIでは、資産規模に応じた年会費に加えて、毎年の英語による報告書の作成が義務付けられており、6段階(A+からE)の評価が付与される。2018年からPRIへの署名機関のうちアセットオーナーと運用会社に対して最低履行要件を導入されており、資産総額の50%を超える運用をカバーする責任投資ポリシーの制定とその実施、経営陣のコミットメントと説明責任、といった最低履行要件を果たすことが求められる。要件を満たしていない企業は、2年間のエンゲージメント期間で履行できない場合は除名となる。
PRI署名のためには、基金内に対応できる人材を確保し、かつ財政的に余裕がなければならない。PRI署名の3基金は、いずれも連結財務諸表上で、年金資産が確定給付債務を上回る積立超過の状態であり、比較的余裕を持った資産運用を行うことが出来る状態にある。わが国としてPRIの署名を促進するのであれば、人材面でのサポートするための環境整備に加えて、財政面でのメリットを明示することが必要になろう。具体的には、PRI署名を通じて国際的な規準に準拠してESG投資を行っていくことが、分散投資効果やポートフォリオの効率性の観点からプラスの効果があることが実証されていければ、積立不足の状態にある基金においてもPRI署名を積極的に行う動機づけが生じると考えられる。
・セコム企業年金基金(2011年3月30日) 母体企業:セコム
・年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)(2015年9月25日)
・エーザイ企業年金基金(2019年12月20日)母体企業:エーザイ
・企業年金連合会(2016年5月13日)
・肥後銀行企業年金基金(2021年9月13日)母体企業:九州フィナンシャルグループ
SC受け入れ基金の母体企業・機関の内訳は、一般事業会社26、銀行関連22、職業団体18、公的機関4、外資系3、保険2、学校法人2となっている。企業に限定してみれば、50基金がSCを受け入れている。PRI署名基金は5基金に留まっており、そのうち企業年金は3基金である。わが国で最初にPRIに署名したキッコーマン企業年金基金(母体企業:キッコーマン)は、2021年4月27日付で脱退している。
PRIでは、資産規模に応じた年会費に加えて、毎年の英語による報告書の作成が義務付けられており、6段階(A+からE)の評価が付与される。2018年からPRIへの署名機関のうちアセットオーナーと運用会社に対して最低履行要件を導入されており、資産総額の50%を超える運用をカバーする責任投資ポリシーの制定とその実施、経営陣のコミットメントと説明責任、といった最低履行要件を果たすことが求められる。要件を満たしていない企業は、2年間のエンゲージメント期間で履行できない場合は除名となる。
PRI署名のためには、基金内に対応できる人材を確保し、かつ財政的に余裕がなければならない。PRI署名の3基金は、いずれも連結財務諸表上で、年金資産が確定給付債務を上回る積立超過の状態であり、比較的余裕を持った資産運用を行うことが出来る状態にある。わが国としてPRIの署名を促進するのであれば、人材面でのサポートするための環境整備に加えて、財政面でのメリットを明示することが必要になろう。具体的には、PRI署名を通じて国際的な規準に準拠してESG投資を行っていくことが、分散投資効果やポートフォリオの効率性の観点からプラスの効果があることが実証されていければ、積立不足の状態にある基金においてもPRI署名を積極的に行う動機づけが生じると考えられる。
1 文中では都合上、基金と表記しているが、規約型でSCの受け入れを表明しているケースもある(5規約)。SC受け入れを表明したリストは、金融庁の以下のWEBサイト(2022年5月20日時点)から入手し、受け入れ基金の母体企業・機関の分類を筆者が行った。
https://www.fsa.go.jp/singi/stewardship/list/20171225.html(2022年6月8日確認)
PRI署名機関のリストについては、サステナ株式会社の以下のWEBサイト(2022年6月3日時点)から入手した。
https://www.sustaina.org/ja/links/pri/(2022年6月8日確認)
2 企業年金連合会の以下のWEBサイト(2022年5月1日時点)から入手した。
https://www.pfa.or.jp/gaiyo/meibo/files/meibo_kaiin.pdf(2022年6月8日確認)
(2022年07月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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