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2021年07月05日
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ESG(環境・社会・ガバナンス)を重視した投資の意欲が、企業年金運用においても高まっている。日本経済新聞社と格付投資情報センター(R&I)が実施した企業年金実態調査(2020年8月から10月にかけて実施)によると、今後ESG投資を採用したいと回答した企業年金は前年から倍増し、4割に達した。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)はESG指数に連動する投資を行っており、選定したESG指数の3年間(2017年4月から2020年3月)のパフォーマンスは、市場平均を上回る結果となった。政策的な後押しに加えて、好調な運用成績もESG投資採用への追い風になっていると推測される。
日本政府は2020年10月の臨時国会で、成長戦略の柱に経済と環境の好循環を掲げ、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」の実現を目指すことを宣言した。さらに2030年に向けた温室効果ガスの削減目標について、気候サミットにおいて2021年4月22日、菅義偉首相が演説し、2030年度の温室効果ガス削減目標を「2013年度から46%削減し、さらに50%の高みに向け挑戦を続けていく」と宣言した。当初26%削減としたものを大幅に引き上げた。一層、政府はESG投資を促進していくと予想される。
ESG投資促進が期待されているのは確定給付企業年金である。企業型確定拠出年金でも、母体企業が投資先の選択肢として、ESG関連の投資信託を用意することは出来る。しかしながら、加入者が個別に運用先を決める確定拠出とは異なり、一括で運用を行う確定給付企業年金の方がESG投資のインパクトが期待できる。ESG投資評価の方法として図表1のような7つの代表的な方法がある。これを大別すれば、特定の基準に基づきスクリーニングをして投資対象を絞り込む方法、特定のテーマに基づいて投資対象を決定する方法、その他の手法(ESG統合型、エンゲージメント型)の3つに分類することができる。
日本政府は2020年10月の臨時国会で、成長戦略の柱に経済と環境の好循環を掲げ、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」の実現を目指すことを宣言した。さらに2030年に向けた温室効果ガスの削減目標について、気候サミットにおいて2021年4月22日、菅義偉首相が演説し、2030年度の温室効果ガス削減目標を「2013年度から46%削減し、さらに50%の高みに向け挑戦を続けていく」と宣言した。当初26%削減としたものを大幅に引き上げた。一層、政府はESG投資を促進していくと予想される。
ESG投資促進が期待されているのは確定給付企業年金である。企業型確定拠出年金でも、母体企業が投資先の選択肢として、ESG関連の投資信託を用意することは出来る。しかしながら、加入者が個別に運用先を決める確定拠出とは異なり、一括で運用を行う確定給付企業年金の方がESG投資のインパクトが期待できる。ESG投資評価の方法として図表1のような7つの代表的な方法がある。これを大別すれば、特定の基準に基づきスクリーニングをして投資対象を絞り込む方法、特定のテーマに基づいて投資対象を決定する方法、その他の手法(ESG統合型、エンゲージメント型)の3つに分類することができる。
特定の方法だけを用いるということではなく、いくつかの方法を組み合わせて投資対象を決めるのが一般的であろう。例えば、GPIFは、ESG評価の高い銘柄をポジティブスクリーングにより選別した上で、企業のESGを評価化し、ガバナンス体制・利益相反体制も加味した上でESG指数を選定している。どういった手法を採用するにせよ、ESG投資評価を行う際には、確定給付企業年金の運用責任者は一定の基準を設けて、投資対象を決める必要がある。その際には、投資方針と企業の方針とを擦り合わせ、最終受益者である加入者・受給者の利害を損なわれないように留意しなければならない。その事が明記されたのが2020年3月のスチュワードシップ・コード再改訂である。企業年金のコード受入れを促進する改訂が実施され、企業年金に求められる役割が明確化されている。その象徴的な原則が1-3である。
1-3 アセットオーナーは、最終受益者の視点を意識しつつ、その利益の確保のため、自らの規模や能力等に応じ、運用機関による実効的なスチュワードシップ活動が行われるよう、運用機関に促すべきである。
原則1-3では、アセットオーナーとしての責任が明記されている。企業年金制度のステークホルダーは、母体企業と加入者・受給者である。母体企業の方針でESG投資を行うことになったとしても、それにより資産運用のボラティリティが高まることは避ける必要がある。確定給付企業年金で重要なことは、企業外部に資金拠出することで年金原資を確実に確保すること、将来の年金給付の源泉としてのリターンを確保すること、の2点にある。例えば、リスクの高いインパクト型投資を行うとすれば、加入者・受給者への相応のアカウンタビリティをアセットオーナーとしての母体企業は果たさなければならないであろう1。
アセットオーナーとしての母体企業の責任は、2021年4月6日に公表された「コーポレートガバナンス・コードと投資家と企業の対話ガイドラインの改訂について」でも明記されている。「原則2-6 企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮」では、企業年金の積立金の運用が、従業員の安定的な資産形成、自らの財政状態にも影響を与えていることを踏まえて、運用の専門性を高めて、適切な人材の登用・配置を行い、その取り組み内容を開示することが求められている。さらに母体企業と企業年金の受益者の間に生じ得る利益相反が適切に管理されているかについても留意する必要があることも言及されている。
ESG投資を先行して行っているセコム企業年金基金、キッコーマン企業年金基金は、スチュワードシップ・コードの受け入れだけでなく、ESG要因を投資判断に取り込む国連責任投資原則(PRI:Principles for Responsible Investment)に署名し、自社の年金資産の運用に関する基本方針に、組み込んでいる。ただし、国際的な投資原則に準拠している企業年金制度は国内ではまだごく少数である。国内外の原則に準拠した形で基本方針の作成を行うことは、必然的に企業年金制度内のガバナンスを高めることにも繋がる。ESG投資が、スチュワードシップ・コードを含めた諸原則への準拠を促進し、企業年金制度のガバナンスを高めることを期待したい。
1 スチュワードシップ・コードの原文および現在の受け入れ機関投資家リストは金融庁「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会(https://www.fsa.go.jp/singi/stewardship/index.html)から入手できる。
ESG投資を先行して行っているセコム企業年金基金、キッコーマン企業年金基金は、スチュワードシップ・コードの受け入れだけでなく、ESG要因を投資判断に取り込む国連責任投資原則(PRI:Principles for Responsible Investment)に署名し、自社の年金資産の運用に関する基本方針に、組み込んでいる。ただし、国際的な投資原則に準拠している企業年金制度は国内ではまだごく少数である。国内外の原則に準拠した形で基本方針の作成を行うことは、必然的に企業年金制度内のガバナンスを高めることにも繋がる。ESG投資が、スチュワードシップ・コードを含めた諸原則への準拠を促進し、企業年金制度のガバナンスを高めることを期待したい。
1 スチュワードシップ・コードの原文および現在の受け入れ機関投資家リストは金融庁「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会(https://www.fsa.go.jp/singi/stewardship/index.html)から入手できる。
(2021年07月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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