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エンゲージメント活動はリターンを生むのか?

静岡県立大学 経営情報学部 上野 雄史
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SCは、2015年6月に適用が開始されたコーポレートガバナンス・コードと対になる形になっており、中長期的な視点に立った建設的な対話を通じて、企業価値ならびにリターンの向上を達成することを実現することを目指している(図表1参照)。SCでは、スチュワードシップ責任を果たすための活動としての有効な手段の一つとして、企業との直接的な目的を持った対話、エンゲージメントが強調されている。エンゲージメントにおいては、企業の経営者と直接的な対話を行い、企業戦略、ESG課題に関する意見交換を通じて、株主総会における議決権行使を通じて、企業の意思決定に影響を与えることが期待されている。
わが国における調査では、GPIFが2024年5月に公表した「エンゲージメントの効果検証」2がある。同報告書では、エンゲージメント活動の効果についての現状とその効果が明らかにされている。同報告書の調査では、2017年度から2022年度(2022年度は12月末まで)におけるGPIFの国内株式運用委託先延べ21ファンドによる26,792回、延べ48,077テーマに関するエンゲージメントについての実態分析と効果に関する因果分析が実施されている。その結果として、「気候変動」「取締役構成・評価」をテーマにした対話では、PBRなどの企業価値評価指標と、脱炭素目標の設定や独立社外取締役人数などの非財務のKPIが共にエンゲージメント非対象企業(対照群)と比べて改善していることが確認された。GPIFの運用委託先と投資先企業との対話は、投資先の企業価値向上に加えて、脱炭素への取組みやダイバーシティ向上など持続可能性向上にも貢献している可能性が高いことが示されている。
エンゲージメント活動により、投資対象の企業価値ならびにリターンの向上が期待されるものの、実際に企業年金基金が実効的なエンゲージメント活動を行う場合には課題は多い。エンゲージメントの成功には、投資企業への継続的は働きかけが必要であり、人材の確保が必要となる。企業年金基金には、エンゲージメント活動を行うための専門的な人材が確保されていないことが多いと考えられる。エンゲージメント活動の成功には、相応のリターンがあることを考えれば、人材の確保に資金を投じることは企業年金基金にとって回収できる投資と認識して行うことが求められる。
1 Dimson, E., Karakaş, O., & Li, X. (2015). Active Ownership. Review of Financial Studies, 28(12), 3225–3268.
2 GPIF. (2024). 「エンゲージメントの効果検証」https://www.gpif.go.jp/esg-stw/project_report/engagement.html
※本稿は、科学研究費補助金(課題番号:23K01674)による成果の一部である。
(2024年07月03日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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