2024年06月20日

物価安定とSDGs、中央銀行が抱える新たな二律背反

日本生命保険相互会社 執行役員/PRI(国連責任投資原則)理事 木村 武

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■要旨
 
  • 企業がSDGs達成に貢献すべく、サステナビリティ経営を推進していくもとでは、外部不経済の内部化に伴うコストプッシュ・ショックが発生し、インフレ圧力が高まる。
     
  • このインフレ圧力に対して、中央銀行が金融を引き締めれば、SDGs達成に必要な設備投資が削減されるなどして、企業による外部不経済の内部化も抑制される結果、SDGsの達成が遠のくことになる。SDGsが未達成に終わり、環境・社会の持続可能性が損なわれれば、全ての企業の事業基盤が毀損し、金融システムの不安定化と制御不能なインフレを招く可能性が高い。
     
  • したがって、中央銀行は、物価安定とSDGs達成の間のトレードオフに直面する。SDGs達成というチャネルを通して、中央銀行は「今日」の物価安定と「将来」の物価安定の間の異時点間トレードオフに直面していると言い換えることもできよう。
     
  • 2030年までのSDGs達成に向けて、今後、機関投資家も企業もギアをあげていく中で、中央銀行は物価安定とSDGs達成の二律背反にどう向き合っていくべきか、難しい舵取りを迫られることになろう。
 
* 本レポートは、NIKKEI Financial(2024/5/9)への寄稿を、日本経済新聞社の許可を得て転載したものである。


■目次

1―― 事業基盤脅かすシステムレベル・リスク
2―― 金融のノルムの変化
3―― 外部不経済の内部化に伴うコストプッシュ・ショック
4―― SDGs達成に向けた機関投資家の行動
5―― 石油ショックより手ごわいSDGsショック
6―― 物価安定とSDGs達成、二正面の難路
7―― 新たなマインドセットを

(2024年06月20日「基礎研レポート」)

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