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2017年1月の法改正により創設された「第3の企業年金」と呼ばれるリスク分担型企業年金は、企業年金の運用リスクを労使で分担する制度である。事業主(企業)が労使で取り決めたリスクへの対応分を含む固定の掛金(リスク対応掛金)を拠出した後は、標準掛金のみの掛金拠出を負担することになる。財政バランスが崩れた場合のリスクは従業員(加入者)が負うことになっている(給付減額で対応することになる)。リスク対応掛金の額は労使の話し合いにより決定することになっており、運用についても加入者の代表が必ず参画することが規定されている。リスク分担型企業年金は、リスク対応掛金の拠出をもって追加的な拠出の義務から解放されたとみなし、企業会計上の退職給付(企業年金・退職一時金)に係る債務がバランスシート上からオフバランスになる点に特徴がある。また確定拠出年金制度と異なり、制度の運営は企業側が行うため、従業員に対する投資教育の必要性がないことも特徴である。
こうした財務面や投資教育のコストの点でのメリットがある一方で、初期のリスク対応掛金やその後の運用方針について、労使での取り決めが必要なため、創設後、すぐには導入する企業はなかった。2019年4月時点で導入企業は9社と少ないものの、多数の加入者、受給者を抱える企業を中心に導入が進んでいる。2018年6月には富士通が、2019年4月に日立が同制度の導入を行った。この2社は、日本でも有数に従業員数が多い企業であり、かつ多額の退職給付に係る債務負担が他社と比べても相対的に大きい企業である。
図表1は、富士通、日立、トヨタ、ソフトバンクグループの連結従業員数と保有している企業年金制度の状況である。各社の従業員数をみると、富士通、日立、トヨタの従業員数は、ソフトバンクグループと比較してかなり多いことが分かる。富士通、日立も旧制度や既契約分の関係もあり、全ての制度をリスク分担型企業年金へと移行したわけではない。日本の企業年金制度は複数の制度が入り組んでおり、相当複雑化していることがうかがえる。確定拠出、キャッシュバランス、退職一時金などの多様な形で構成されている。ソフトバンクグループのような新興の企業については、確定拠出年金制度のみ、となっている。
その一方で今後懸念されることは、同制度のガバナンスである。制度運営については企業側が責任を負っているとはいえ、追加拠出が終われば企業側は運用リスクから解放される。運用リスクを負っていない企業の制度運営への関心低下が予想される。参画した加入代表者が制度運営に如何にコミットしていくことが重要になる。リスク分担型企業年金制度は、確定拠出とは異なり個々の運用責任ではなく、制度全体の運用リスクを従業員が負っている。制度運営に参画した加入者の専門知識がどの程度であるのか(そもそも、加入者の誰が代表者になるのか?)、運用方針をどのように考えるのかが、問われることになる。
加入者の代表者の意思決定が、他の加入者(受給者も含む)に与える影響を考えれば、運用方針を巡って加入者同士の利害の衝突が表面化する可能性もある。こうした問題が内在するリスク分担型企業年金制度において「最適なガバナンスとは何か」を労使一体となって考えていく必要がある。リスク分担型企業年金制度を導入した結果、労使関係だけでなく、従業員同士の利害衝突が生じれば、企業価値の低下、社会的な損失を生じさせることになる。
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静岡県立大学 経営情報学部
上野 雄史
研究・専門分野
(2019年08月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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