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- 機能とリスク負担からみた企業年金制度の比較
確定給付型年金の第一の機能は老後のための貯蓄(資産の積立)である。日本の退職一時金、特に定年退職金は、引退後の生活の糧の一つとされてきた。ところが、社外に積立金を持たないまま事業主が倒産すると、退職一時金を支払うことが難しくなる。そこで事業主は適格退職年金(1962年創設)や厚生年金基金(1966年創設)を、この退職一時金の支払い準備として活用してきた。資産の積み立てによって不払いのリスクが減るだけでなく、従業員の立場から見れば、事業主からの掛け金を通じて、知らず知らずのうちに老後の貯蓄ができることになる。
第二が雇用管理、特に勤続のコントロールである。年功的な報酬には従業員の勤続を促して長期的に技能を身につけさせ、労働生産性を高める効果があるとされる。日本企業は戦後長く、勤続年数ごとの退職金額のカーブを賃金以上に年功的に(勤続にともなって増えるように)仕組むことで、退職金を長期雇用促進のための報酬制度の一つとしてきた。
第三の機能が年金基金を通じた、従業員から事業主への運用リスクの移転である1。確定給付型の場合、年金給付額を所与として保険数理により事業主の掛け金が決まる。実際の運用利回りが想定していた数値(予定利率)と異なる場合には、掛け金が増減する。その意味で実質的な運用リスクの負担が従業員個人から事業主及びその株主に移転する。
1この他、年金制度のリスクとして(1)インフレによる購買力喪失、(2)長生きによる積立水準低下、のリスクがある。ここでは日本で主に問題となっている資産運用リスクをとりあげる。
確定拠出型の運用リスク負担は確定給付型と正反対である。加入者(従業員)自ら運用商品を選択し、運用成果によって年金額が増減する。事業主の責任は加入者の利益を優先しつつ、(1)運営管理機関を通じた運用商品の選択、(2)年金制度や運用商品の情報提供、投資に関する基本的な知識の提供(投資教育)などに留まる。
実際には中間の制度も存在する。例えば、キャッシュバランス制度には個人ごとの勘定があり、国債利回りなど市場金利の水準に応じて給付額(個人勘定残高)が増減する。また昨年から導入された、リスク分担型の年金では、事業主が運用リスクをカバーするだけの掛け金を拠出し、運用資産の変動がそれを上回った場合には、給付が増減する。これらは確定給付型に分類されていても、従業員も運用リスクを分担する中間的な制度(ハイブリッドプラン)である。
一方、確定拠出型の資産運用プロセスに関しては、加入者の運用商品選択をサポートするように、事業主の関与を強める制度改革が内外で進められている。その一つが事業主によるいわゆるデフォルト(初期設定:加入者が自ら選択をしない場合に自動的に選ばれる選択肢)の活用である。例えば運用商品を選択できない加入者の掛け金を、内外の債券・株式などさまざまな資産クラスから構成される商品(バランス型ファンド)に自動的に投資するように設定する。
さらに事業主の関与を強める観点から、今後注目されるのは、加入者への中立的なアドバイスの提供であろう。ファイナンシャルプランナーなど外部の専門家によるコンサルティングの他、低コストの人工知能(ロボアドバイザー)を利用した、いくつかの簡単な質問による加入者のリスク許容度の判定とそれに基づいた投資対象を示すサービスの提供、などが考えられる。
まとめると、老後の準備という点で二つの制度の機能はあまり変わらない。勤続のコントロールの違いはまだ残っているものの、リスク負担に関する両者の違いについてはその溝を埋めるような制度・工夫が活用されつつあると言えよう(下図参照)。
(2018年11月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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