- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 年金 >
- 年金資産運用 >
- 「長期投資」って何年間?-資産・投資期間ごとの元本毀損確率
「長期投資」って何年間?-資産・投資期間ごとの元本毀損確率

名古屋市立大学 経済学研究科 臼杵 政治
このレポートの関連カテゴリ
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
一方、Investment Company Instituteによる米国401(k)プランの資産配分(2016年)をみると、元本確保型に相当する商品は保険(GIC)契約とマネーファンドで計10%に過ぎない。他方、株式投信が43%、ターゲットデートファンドを含むバランス型投信が25%を占めている。米国で株式への配分が高い根拠の一つは、投資期間の長さにある。加入者が20歳代で制度に参加した場合、最初の拠出から給付受け取りまでは約40年ある。このような長期投資には、株式などリスク資産での運用が相応しいというのだ。ハイリスクハイリターンの関係を前提にすると、株式への配分を増やせば運用収益の嵩上げや購買力の改善が期待できる。
もちろん、株式投資の収益率は時期(タイミング)によってはマイナスになり、債券や預金を大きく下回る。ただし、このリスク(確率)は投資期間が長くなるほど小さくなる。高リターンと低リターンがランダムに出現すれば、長期になるほどそれらが打ち消しあうのだ。統計的には毎期のリターンが同じ対数正規分布(独立同一分布)に従う場合、投資期間がn倍になれば、1期間あたりに直した標準偏差は

とは言え、1990年のバブル崩壊以降リーマンショックまで、日本では株価低迷が続いた。日経平均株価は1989年末の高値3万9千円をまだ回復していない。そのため「長期投資なら株式のリスクが低くなる」など信じられない、という声もありそうだ。そこで1980年以降の内外株式のリターンデータを用いて、実際にどのくらい長期の投資ならリスクがなくなったのか、その割合(確率)を検証した。リスクの基準は、(1)投資した名目元本が毀損されたか(損失の有無)、(2)物価上昇を考慮した実質元本が毀損されたか、(3)収益率が定期預金を上回ったか、の3つとする。検証対象資産(ポートフォリオ)は、A.日本株100%、B.外国株100%、C.内外債券株式4資産等配分ポートフォリオ、D.定期預金(1年以上2年未満)の4つとし、投資期間は1年、10年、20年、30年、さらに毎月一定額を20年間積立てたケースを含めた。
検証結果は右上表の通りである。まず、今回の検証期間の1980年1月から2020年12月までの41年間の平均収益率は、国内株式が7.4%、外国株式が11.0%であり、定期預金に対して十分なリスクプレミアムを獲得できていた。また(表にはないが)バブルの崩壊以降の1990年以降31年間でも、国内株式の平均収益率は2.6%のプラスであった。物価を考慮した実質収益率もプラス2.1%であり、同じ期間の定期預金の平均収益率(0.8%)をも上回っていた。
以上から確定拠出年金の加入者が投資にあたり注意すべき点をまとめると、第1に株式投資において名目・実質の元本毀損を避けたいのなら少なくとも20年程度の運用期間を想定する必要がある。第2に日本株・外国株・4資産ポートフォリオの比較が示すように、日本株だけの投資よりグローバル株式や複数の資産クラスへの分散投資の方が損失の確率が小さくなる。第3に定期預金(元本確保型)でも、20年までの投資期間では物価を考慮した実質元本が毀損される可能性を無視できなかった。
(2021年04月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)
このレポートの関連カテゴリ
名古屋市立大学 経済学研究科
臼杵 政治
研究・専門分野
臼杵 政治のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2022/11/04 | 企業年金による代替資産投資の評価にトライする | 臼杵 政治 | ニッセイ年金ストラテジー |
2022/04/05 | 企業型確定拠出年金の制度設計と商品選択 | 臼杵 政治 | ニッセイ年金ストラテジー |
2021/11/04 | エンダウメントの運用モデルは成功したのか | 臼杵 政治 | ニッセイ年金ストラテジー |
2021/04/05 | 「長期投資」って何年間?-資産・投資期間ごとの元本毀損確率 | 臼杵 政治 | ニッセイ年金ストラテジー |
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2025年02月18日
ドロップアウトの活用-均等に鍛えるには? -
2025年02月18日
関税と日銀利上げの思惑で揺れる円相場、次の展開は?~マーケット・カルテ3月号 -
2025年02月18日
2024~2026年度経済見通し(25年2月) -
2025年02月18日
ふるさと納税、事務負荷の問題-ワンストップ特例利用増加で浮上する課題 -
2025年02月18日
中国版iDeCo、全国実施へ【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(67)
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【「長期投資」って何年間?-資産・投資期間ごとの元本毀損確率】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
「長期投資」って何年間?-資産・投資期間ごとの元本毀損確率のレポート Topへ