2021年04月05日

「長期投資」って何年間?-資産・投資期間ごとの元本毀損確率

名古屋市立大学 経済学研究科 臼杵 政治

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2020年末現在で確定拠出年金の加入者は933万人(うち企業型が752万人)、運用資産は約16兆円に達している。ここで運営管理機関連絡協議会の『確定拠出年金統計資料』から、加入者の運用対象(2020年3月末)を見ると企業型では資産の52%、個人型で54%が元本確保型と呼ばれる保険や預貯金に充てられている。また、企業型・個人型とも預貯金が36%を占める。

一方、Investment Company Instituteによる米国401(k)プランの資産配分(2016年)をみると、元本確保型に相当する商品は保険(GIC)契約とマネーファンドで計10%に過ぎない。他方、株式投信が43%、ターゲットデートファンドを含むバランス型投信が25%を占めている。米国で株式への配分が高い根拠の一つは、投資期間の長さにある。加入者が20歳代で制度に参加した場合、最初の拠出から給付受け取りまでは約40年ある。このような長期投資には、株式などリスク資産での運用が相応しいというのだ。ハイリスクハイリターンの関係を前提にすると、株式への配分を増やせば運用収益の嵩上げや購買力の改善が期待できる。

もちろん、株式投資の収益率は時期(タイミング)によってはマイナスになり、債券や預金を大きく下回る。ただし、このリスク(確率)は投資期間が長くなるほど小さくなる。高リターンと低リターンがランダムに出現すれば、長期になるほどそれらが打ち消しあうのだ。統計的には毎期のリターンが同じ対数正規分布(独立同一分布)に従う場合、投資期間がn倍になれば、1期間あたりに直した標準偏差はになる。そのため株式投資から損失を計上したり、その収益率が預金や債券を下回ったりする確率は、投資期間が長いほど低下する。

とは言え、1990年のバブル崩壊以降リーマンショックまで、日本では株価低迷が続いた。日経平均株価は1989年末の高値3万9千円をまだ回復していない。そのため「長期投資なら株式のリスクが低くなる」など信じられない、という声もありそうだ。そこで1980年以降の内外株式のリターンデータを用いて、実際にどのくらい長期の投資ならリスクがなくなったのか、その割合(確率)を検証した。リスクの基準は、(1)投資した名目元本が毀損されたか(損失の有無)、(2)物価上昇を考慮した実質元本が毀損されたか、(3)収益率が定期預金を上回ったか、の3つとする。検証対象資産(ポートフォリオ)は、A.日本株100%、B.外国株100%、C.内外債券株式4資産等配分ポートフォリオ、D.定期預金(1年以上2年未満)の4つとし、投資期間は1年、10年、20年、30年、さらに毎月一定額を20年間積立てたケースを含めた。

検証結果は右上表の通りである。まず、今回の検証期間の1980年1月から2020年12月までの41年間の平均収益率は、国内株式が7.4%、外国株式が11.0%であり、定期預金に対して十分なリスクプレミアムを獲得できていた。また(表にはないが)バブルの崩壊以降の1990年以降31年間でも、国内株式の平均収益率は2.6%のプラスであった。物価を考慮した実質収益率もプラス2.1%であり、同じ期間の定期預金の平均収益率(0.8%)をも上回っていた。
図表:過去の投資機関・投資対象ごとの元本毀損割合の比較
次に元本を毀損した割合(確率)をみると、どの資産でも投資期間が長いほど名目・実質元本の毀損割合が低かった。ただし日本株と外国株・4資産ポートフォリオの間には差があり、日本株では投資期間30年でも元本を毀損した例が名目値で全体の9%、実質値で17%あったのに対して、外国株では投資期間20年以上、4資産ポートフォリオでは投資期間10年以上なら名目・実質元本を毀損した例がなかった。また、日本株の収益率は投資期間30年でも22%が定期預金を下回ったが、外国株では投資期間20年以上(積立を含む)、4資産ポートでは期間10年以上で全て定期預金を上回った。一方、定期預金は期間20年までは10%以上の例で実質元本を毀損していた。最後に日本株へ20年間、毎月定額を積立てた結果をみると、同じ20年の一括拠出のケースに比べて名目・実質元本を毀損する確率が高かった。これは積立型において投資金額が大きくなる後半期にマイナスのリターンが多かったことによる。

以上から確定拠出年金の加入者が投資にあたり注意すべき点をまとめると、第1に株式投資において名目・実質の元本毀損を避けたいのなら少なくとも20年程度の運用期間を想定する必要がある。第2に日本株・外国株・4資産ポートフォリオの比較が示すように、日本株だけの投資よりグローバル株式や複数の資産クラスへの分散投資の方が損失の確率が小さくなる。第3に定期預金(元本確保型)でも、20年までの投資期間では物価を考慮した実質元本が毀損される可能性を無視できなかった。
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名古屋市立大学 経済学研究科

臼杵 政治

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(2021年04月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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