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ESGへの取組みは不可避である
金融研究部 取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長 兼 ESG推進室長 德島 勝幸
日本においてESG投資を強く推進する動きの契機となったのは、年金積立金管理運用独立行政法人(以下、GPIF)が、国連PRI原則に署名し、積極的なESG投資推進を打ち出したことであるのは否定できない。その一方で、金融庁および東京証券取引所は、投資家にスチュワードシップコードの受入れを求めるとともに、企業側にはコーポレートガバナンスコードを受入れることを求めた。このような動きは、決して日本独自のものではなく、海外、特に欧州の機関投資家は、以前からESG投資を強く意識しており、中でも、環境面での配慮が強く叫ばれて来た。やや過剰反応のように見えることも少なくないが、新しい物事を動かし、人々の意識を変革するためには、過剰に見えるくらいが適切なのだと考えられる。
日本の年金アセットオーナーのESGへの取組み状況を見ると、公的年金はGPIFの作った流れに従いESG投資を強く打ち出しているが、GPIFのように専任担当者を複数配置できるほど人的資源に余裕があるはずもなく、組織対応という面では劣位している。それでも、2020年度からはESG投資を意識する対象の資産クラスを、株式のみならず、すべての運用資産に拡大することとしている。様々な公的年金の運用主体が規模や組織の面で、GPIFとまったく同じように取組むことが出来ないのは当然であり、協働して取組むと良いものもあるだろうし、先行者に後からついて行くのも自然な取組みだろう。
企業年金については、規模の大きな一部の基金や意識の高い基金で、スチュワードシップコードを率先して受け入れている例もあるが、ESG投資全般に対しては、慎重な取組み姿勢から脱却しきれていないことが多い。様々なアンケート調査の結果等を見ると、多くの年金基金がESG投資の実践に向けた意識を強く持っているようであるが、積極的な体制構築や取組みに躊躇しており、様子見の姿勢となっている基金が多いようである。当然、GPIFのような組織体制を確立することは不可能であり、各々が置かれた状況で取組むしかないだろう。
一方、企業年金の母体である企業側の取組みを見ると、ESG経営に向けた高い意識が確認できる規模の大きな企業であれば、専門の部署を設置して投資家への対応に務めていることが一般的であり、ESGに関するレポートを有価証券報告書と別個に開示していることや統合レポートを作成・公表していることも決して珍しいことではなくなっている。
母体企業が海外の機関投資家を意識して積極的にESG経営と情報開示に取組んでいる中で、当該企業を母体とする企業年金がESG投資へ消極的にしか取組んでいないというのは、あまりに組織分断的な状況であり、早晩、両サイドを統合した動きが開始されるのではないか。母体企業でESGを率先している担当者の視点から自社の企業年金基金の取組みを検証してみると、ESG投資の実践に向けた課題や取組みの端緒が容易に見出せるものと期待される。
ところで、ESG投資とは、そんなに難しいものだろうか。委託運用が主体となっている日本の年金にとっては、アセットマネジャーがESG要素をしっかり意識して取り組んでいることを確認することに、ほとんどが尽きる。もし母体企業からESG投資への取組みが見えないと批判されるのを回避するためならば、株式においてはESG投資を標榜するファンドを採用すれば、最初のステップとしては充足できるだろうし、他の資産クラスにおいても、グリーンボンド等SDGs債券を主な投資対象と謳うファンドに運用を委託すれば、十分に対応可能である。


03-3512-1845
(2021年07月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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