2021年07月05日

ESGへの取組みは不可避である

金融研究部 取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長 兼 ESG推進室長   德島 勝幸

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近年の年金運用において、ESG投資を意識することは、もはや避けて通ることは不可能であろう。古くから株式投資の世界では、ESG要素は超過収益の源泉の一つとして意識されて来たものであり、必ずしも財務諸表に反映のされない要素として研究が行われて来た。しかし、昨今のESGへの取組みは、単なる超過収益の源泉となる可能性といった議論を飛び越えて、年金に限らず資産運用者がすべからく取組むべきものとして意識されるようになっている。

日本においてESG投資を強く推進する動きの契機となったのは、年金積立金管理運用独立行政法人(以下、GPIF)が、国連PRI原則に署名し、積極的なESG投資推進を打ち出したことであるのは否定できない。その一方で、金融庁および東京証券取引所は、投資家にスチュワードシップコードの受入れを求めるとともに、企業側にはコーポレートガバナンスコードを受入れることを求めた。このような動きは、決して日本独自のものではなく、海外、特に欧州の機関投資家は、以前からESG投資を強く意識しており、中でも、環境面での配慮が強く叫ばれて来た。やや過剰反応のように見えることも少なくないが、新しい物事を動かし、人々の意識を変革するためには、過剰に見えるくらいが適切なのだと考えられる。

日本の年金アセットオーナーのESGへの取組み状況を見ると、公的年金はGPIFの作った流れに従いESG投資を強く打ち出しているが、GPIFのように専任担当者を複数配置できるほど人的資源に余裕があるはずもなく、組織対応という面では劣位している。それでも、2020年度からはESG投資を意識する対象の資産クラスを、株式のみならず、すべての運用資産に拡大することとしている。様々な公的年金の運用主体が規模や組織の面で、GPIFとまったく同じように取組むことが出来ないのは当然であり、協働して取組むと良いものもあるだろうし、先行者に後からついて行くのも自然な取組みだろう。

企業年金については、規模の大きな一部の基金や意識の高い基金で、スチュワードシップコードを率先して受け入れている例もあるが、ESG投資全般に対しては、慎重な取組み姿勢から脱却しきれていないことが多い。様々なアンケート調査の結果等を見ると、多くの年金基金がESG投資の実践に向けた意識を強く持っているようであるが、積極的な体制構築や取組みに躊躇しており、様子見の姿勢となっている基金が多いようである。当然、GPIFのような組織体制を確立することは不可能であり、各々が置かれた状況で取組むしかないだろう。

一方、企業年金の母体である企業側の取組みを見ると、ESG経営に向けた高い意識が確認できる規模の大きな企業であれば、専門の部署を設置して投資家への対応に務めていることが一般的であり、ESGに関するレポートを有価証券報告書と別個に開示していることや統合レポートを作成・公表していることも決して珍しいことではなくなっている。

母体企業が海外の機関投資家を意識して積極的にESG経営と情報開示に取組んでいる中で、当該企業を母体とする企業年金がESG投資へ消極的にしか取組んでいないというのは、あまりに組織分断的な状況であり、早晩、両サイドを統合した動きが開始されるのではないか。母体企業でESGを率先している担当者の視点から自社の企業年金基金の取組みを検証してみると、ESG投資の実践に向けた課題や取組みの端緒が容易に見出せるものと期待される。

ところで、ESG投資とは、そんなに難しいものだろうか。委託運用が主体となっている日本の年金にとっては、アセットマネジャーがESG要素をしっかり意識して取り組んでいることを確認することに、ほとんどが尽きる。もし母体企業からESG投資への取組みが見えないと批判されるのを回避するためならば、株式においてはESG投資を標榜するファンドを採用すれば、最初のステップとしては充足できるだろうし、他の資産クラスにおいても、グリーンボンド等SDGs債券を主な投資対象と謳うファンドに運用を委託すれば、十分に対応可能である。
ESG投資を殊更に難しく考える必要はないだろう。実は、ESGの大きな要素は、外向けのプレゼンテーションにあり、悪く言えば、“キレイごと”にあることも珍しくない。水素ガスを使った燃料電池車は環境に優しいと言われるが、その水素をどうやって作ったのか? 化石エネルギーを燃焼する火力発電で作った電力で水を電気分解したのでは、本末転倒の誹りを免れない(電気自動車も同様である)。また、現在の主力である化石燃料から水素を取出す方法でも、二酸化炭素が副産物として発生している。更に言えば、どんなに出版社や新聞社が環境保護を訴えても、多くの樹木を伐採した結果である大量の紙を消費し書籍、雑誌や新聞を作成・販売しているのであれば、必ずしも一気通貫した姿勢でないことが明らかである。このように、完璧なESGに取組むことは不可能に近い。企業も投資家も、ESGの本質を理解しながらも、表層のみに捉われることなく、限界と意義を理解して取組むべきである。
このようにESGという概念が限界を内在していることを理解すれば、真面目にひたすら突き詰めることなく、しかし、真摯な姿勢を持って、少しずつESGに取組むことが出来るのではないか。ESGは、決して投資家のためだけではなく、企業のためだけでもなく、地球上に生活するすべての人間と生物全般のために、地球環境や社会全般を慮る行動である。小さな努力でも構わない。少しずつの努力を皆が持ち寄り積み重ねることで、一歩ずつでも前進することが望ましい。完璧なESGが存在しないと考えることによってこそ、ESG投資への取組みがより簡単に始められるだろう。ESGへの取組みに、おそらく誤ったものは存在しないし、時代とともに変遷する“悪者意識”に留意すべきと思われる。すべての二酸化炭素の排出が悪いというのなら、動物の呼吸そのものが悪であるし、地球上に人間が存在してはいけないという極論に至る。“適度なESG(Moderate ESG)”を意識することが重要であり、現状よりも少し高い程度に目線を置くことが適切なのではないか。
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金融研究部   取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長 兼 ESG推進室長

德島 勝幸 (とくしま かつゆき)

研究・専門分野
債券・クレジット・ALM

(2021年07月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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