2021年09月30日

東南アジア経済の見通し~年内は活動制限の影響により経済停滞、来年はウィズコロナ下での経済回復が続く

経済研究部 准主任研究員   斉藤 誠

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2.各国経済の見通し

2-1.マレーシア
マレーシア経済は昨年、新型コロナウイルスの感染拡大を背景に急速に景気が悪化した。4-6月期は国内外で実施された活動制限措置の影響が本格的に現れて成長率が▲17.2%と急減した(図表7)。その後は感染状況に応じて行動制限の緩和を進めたことで成長率は次第に持ち直し、今年1-3月期が▲0.5%まで回復、そして4-6月期が前年同期比+16.1%と急上昇した。

4-6月期の成長率上昇は前年の実質GDPが大幅に減少した反動(ベース効果)の影響が大きい。マレーシアは今年4月に感染第3波が到来した。政府は5月に全国で厳格な活動制限令を実施して州間移動を禁止、6月から全国規模の都市封鎖を実施、一部業種を除く社会経済活動を禁止したため、経済活動に急ブレーキがかかり、民間消費は前期比▲10.7%、総固定資本形成が同▲7.5%と急落した。なお、財貨輸出は前期比+5.0%となり、医療用手袋や電気電子製品の出荷が順調だった。

先行きのマレーシア経済は、年末にかけて景気の下押しが徐々に和らぐようになり、来年は回復ペースが強まる展開を予想する。現在マレーシアは新規感染者数が1日2万人弱と高止まりしているが、ワクチン接種は高めの水準(完全接種率は人口の6割)に達している。政府は9月10日に首都圏をコロナ禍からの復興の道のりを4段階で示した「国家回復計画」の第2期に移行し、都市封鎖を約3カ月ぶりに解除した。10月には首都圏を国家回復計画の第3期に移行すると共に、国内観光も再開する見込みである。今後もウイルスとの共生に向けた経済活動の再開が進むが、制限解除は段階的に進められるため、当面は家計消費が停滞して投資や輸出にも悪影響が及ぶだろう。

来年は更なるワクチン普及と医療崩壊リスクの後退により経済再開が進み、対面型サービス業の持ち直しが続くと予想する。政府は政府債務残高(GDP比)の法定上限を現在の60%から65%に引き上げる方針を示しており、新型コロナ対策や景気刺激策による歳出拡大は来年度も継続して景気回復を後押しするとみられる。このほか、マレーシアでは昨年3月に発足したムヒディン前政権が感染対策の失敗を糾弾されて8月にイスマイルサブリ政権が誕生したが、新内閣の陣容は前政権から代わり映えのない顔ぶれとなった。国王の勧告により与野党の対立は一時的に緩和したが、新政権の政治的基盤は依然脆弱であり、政権運営の足を引っ張る可能性があるだろう。

金融政策は、マレーシア中銀が昨年4会合連続の利下げ(計▲1.25%)を実施した後、7会合連続で政策金利を1.75%で据え置いている(図表8)。先行きのインフレ率は制限解除が進むにつれて下げ止まり、来年は景気回復が続くなかで上向くだろう。中銀は来年後半に金融緩和の程度を正常化していくため、利上げを実施すると予想する。

実質GDP成長率は21年が+4.0%(20年:▲5.6%)、22年が+5.3%に上昇すると予想する。
(図表7)マレーシアの実質GDP成長率(需要側)/(図表8)マレーシアのインフレ率・政策金利
2-2.タイ
タイ経済は昨年、新型コロナウイルスの感染拡大を背景に急速に景気が悪化、4-6月期は国内外で実施された活動制限措置の影響が本格的に現れて成長率が▲12.1%と急減した(図表9)。タイ政府は早期の感染収束に成功して段階的に制限措置を緩和したが、年末年始には感染第2波が到来するなど本格的な経済活動の再開には至らず、実質GDPは今年1-3月期までマイナス成長が続いた。

4-6月期の成長率は前年同期比+7.5%に急上昇した。この成長率上昇は前年の実質GDPの水準が落ち込んでいたことによる反動(ベース効果)の影響が大きい。タイでは今年4月に変異株の流行に伴う感染第3波が生じ、1日あたりの新規感染者数は3月末の100人未満から6月末には5,000人程度まで増加した。タイ政府は首都バンコクなどで店内飲食の禁止や商業施設の営業時間の制限など規制を次第に強化した。実質GDPは輸出と政府支出を支えに小幅ながらプラス成長(前期比+0.4%)を確保したが、活動制限強化に伴い人流が減少するなど経済の回復が妨げられた。

タイ経済の先行きは、感染第3波と活動制限措置の影響を受けて当面は景気下押し圧力の強い状況が続くだろう。タイ政府はデルタ株の猛威が続く第3波への対応として7月に首都バンコクを含む10都県(全77都県)を対象に不要の外出を禁止する事実上の都市封鎖措置を発令すると、8月には封鎖地域を29都県に拡大するなど追加措置を講じた。1日あたりの新規感染者数は8月中旬の約2万3,000人をピークに改善に転じ、足元では1万人程度まで減少している。政府は9月から封鎖地域の店内飲食や商業施設の営業の制限などを一部緩和したほか、外国人旅行者の受け入れ拡大など段階的に制限解除を進めていく考えだ。従って7-9月期はバンコク首都圏などにおける都市封鎖の影響により実質GDPが前期比で減少するが、10-12月期は制限緩和によって対面型サービス業の落ち込みが和らぎ、景気が上向くだろう。

来年はワクチン接種の加速やコロナとの共存を見据えた制限措置の見直しにより景気回復が続く展開を予想する。足元のワクチンの完全接種率は19%程度と依然として遅れているが、来年の国産ワクチン供給開始によって接種ペースが加速、ワクチンの普及に伴う経済活動の正常化が徐々に進み、景気回復ペースが安定すると予想する。対面型サービス業の持ち直しや雇用所得環境の改善によって民間消費が回復するほか、企業業績の回復によって設備投資が改善するとみられる。一方、輸出は世界経済の回復や外国人旅行客の受け入れ拡大により増加傾向を維持するが、2021年と比べて伸び率は鈍化しそうだ。

金融政策は、タイ銀行(中央銀行)が昨年3度の利下げを実施して以降、11会合連続で政策金利を0.5%で据え置いている(図表10)。インフレ率は前年に落ち込んだ反動増で今年4月に前年比+3.4%に上昇したが、今後は経済再開が進むにつれて下げ止まるだろう。物価の安定や経済の本格回復に時間がかかるため、政策金利は来年末にかけて据え置かれると予想する。

実質GDP成長率は21年が+1.2%(20年:▲6.1%)、22年が+3.7%と上昇すると予想する。
(図表9)タイの実質GDP成長率(需要側)/(図表10)タイのインフレ率と政策金利
2-3.インドネシア
インドネシア経済は昨年、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を背景に景気が減速、4-6月期は国内外で実施された活動制限措置の影響を受けて成長率が前年同期比▲5.3%に急減した(図表11)。その後も感染第1波が長引き、インドネシア政府が活動制限を継続したため、今年1-3月期までマイナス成長が続いたが、4-6月期は実質GDPが前年同期比7.1%増のプラス成長に転じた。

4-6月期の成長率の急上昇は実体経済の持ち直しとベース効果の両方が影響したとみられる。インドネシア政府は今年3月に自動車奢侈税の減免措置を時限的に導入するなど景気刺激策を打ち出したほか、6月上旬まで感染状況が比較的落ち着いていて人流が増加していたことも消費(前年同期比5.9%増)の回復に繋がった。また投資(同7.5%増)は外需の顕著な回復が追い風となって消費を上回る伸び率となった。さらに前年同期の実質GDPが落ち込んだことによる反動(ベース効果)が働き、成長率(前年同期比)が大きく押し上げられる結果となった。

先行きのインドネシア経済は、当面は感染第2波の影響を受けて景気回復ペースが鈍化するだろう。インドネシアでは7月中旬に新規感染者数が1日5.6万人に達した第2波への対応として、政府が7月以降ジャワ島とバリ島に緊急活動制限(PPKMダルラット)を実施、出社を原則禁止するなど人の移動を大幅に制限したため、7-9月期は内需を中心に景気の低迷が避けられない。しかし、活動制限が奏功して感染状況が改善に転じたため、政府は8月から出社制限の緩和や商業施設の営業再開など慎重に経済再開を進めている。足元の新規感染者数は1日1,000人台で推移しており、感染再拡大の兆しはみられない。従って、10-12月期は経済活動の再開によって対面型サービス業が回復するほか、自動車奢侈税の減免措置が年内まで続くため、消費を中心に回復するだろう。

足元のワクチンの完全接種率は2割程度と依然遅れているが、来春に国産ワクチンの使用が始まると接種ペースが加速しそうだ。ワクチンの普及に伴う経済活動の正常化が徐々に進み、景気回復ペースが安定すると予想する。また政府と中銀は財政赤字を分担するバーデン・シェアリング政策を来年も実施することで合意しており、2022年も国家経済復興プログラムを継続して景気を下支えるものとみられる。もっとも来年は自動車奢侈税の減免措置の期限切れに伴う反動減が消費の回復に水を差すほか、基本的な感染防止策は続けられるため経済の本格回復までは時間がかかりそうだ。

金融政策は、インドネシア銀行(中央銀行)が昨年2月以降に6度の利下げを実施した後、7カ月連続で政策金利を3.50%で据え置いている(図表12)。消費者物価上昇率は+1%台で推移しているが、経済再開が進むにつれて上昇して来年は中銀の物価目標圏(+2~4%)まで上昇しよう。中銀は来年後半に資本流出の抑制とルピア下支えため、緩やかな利上げに舵を切ると予想する。

実質GDP成長率は21年が+3.5%(20年が▲2.1%)、22年が+5.2%に上昇すると予想する。
(図表11)インドネシア実質GDP成長率(需要側)/(図表12)インドネシアのインフレ率と政策金利
2-4.フィリピン
フィリピン経済は昨年、新型コロナウイルスの感染拡大を背景に急速に景気が悪化、4-6月期はウイルスの封じ込めを目的に国内外で実施された活動制限措置の影響が本格的に現れて成長率が▲17.0%と落ち込んだ(図表13)。その後も感染第1波の長期化によりフィリピン政府が外出制限を延長したため、今年1-3月期までマイナス成長が続いた。

4-6月期の実質GDPは前年同期比+11.8%の大幅なプラス成長に回復した。4-6月期の成長率上昇は昨年の実質GDPが低水準だったことによる反動(ベース効果)の影響が大きい。フィリピンでは今年3月からデルタ株の流行に伴い感染第2波が到来、各自治体が制限措置の再強化に舵を切り、同月29日にはマニラ首都圏と周辺4州において外出・移動制限措置が最高水準に引き上げられた。首都圏の厳しい規制は4月半ばから段階的に緩和されたが、4-6月期は人流が減少したため、消費や設備投資が落ち込んで実質GDPは前期比1.3%減(季節調整値)と低迷した。

先行きのフィリピン経済は、当面は感染状況の改善が遅れて景気回復が鈍い状況が続きそうだ。フィリピンでは感染第2波が沈静化する前に政府が行動制限を緩和したため、7月下旬に第3波が到来した。政府は首都圏・周辺州の外出・移動制限措置を最も厳しい水準に2週間引き上げたが、感染の抑え込みに苦戦して8月末には新規感染者数が1日2万人台に達した。政府は9月中旬から従来の外出・移動制限を見直し、マニラ首都圏では外出・移動制限措置の警戒レベルを据え置く一方、ワクチン接種者の制限緩和や外出制限の実施範囲の細分化を決定した。コロナとの共生を目指す内容に制限措置を見直したことにより、今後は広範囲の厳格な制限措置は実施されにくくなり、一定の制限が維持されるとみられる。従って、対面型サービス業の回復は鈍くなるが、消費は海外出稼ぎ労働者の本国送金が下支えとなり底堅く推移すると予想する。外需は輸入が伸び悩む一方、海外経済の回復による輸出拡大が追い風となり、外需の成長率寄与度はプラスとなるだろう。

来年はワクチンの普及に伴う経済活動の正常化が進むにつれて回復ペースが強まると予想する。足元のワクチンの完全接種率は2割程度と依然遅れているが、早ければ来年4月に国産ワクチンの供給が始まって接種ペースが加速しそうだ。このほか、来年5月には統一国政・地方選挙が予定される。選挙期間中は公共事業が停止される一方、消費需要と感染リスクが高まる展開が予想される。

金融政策は、フィリピン中銀が7会合連続で政策金利を過去最低の2.0%で据え置いている(図表14)。足元の消費者物価上昇率は前年同月比4.9%増と、中銀の物価目標圏(+2~4%)の上限を上回って推移しているが、当面は食品インフレが和らいで物価目標の範囲内に落ち着くだろう。中銀は来年後半に景気回復や米金融緩和策の縮小に伴う資本流出の抑制を目的に利上げに舵を切ると予想する。

実質GDP成長率は21年が+4.5%(20年:▲9.6%)、22年が+6.3%に上昇すると予想する。
(図表13)フィリピンの実質GDP成長率(需要側)/(図表14)フィリピンのインフレ率と政策金利
2-5.ベトナム
ベトナム経済は昨年、新型コロナの感染拡大を受けて急減速し、4-6月期の成長率が前年同期比+0.4%に鈍化した(図表15)。もっともベトナム政府が水際対策を徹底して4月に全国的な社会隔離措置を適用すると、短期間で感染が収束して経済活動を再開したためプラス成長を保った。その後もウイルスの封じ込めに成功して経済の回復傾向は続いた。

4-6月期の実質GDP成長率は同+6.6%となった。今年4月末に第4波が広がり感染拡大に歯止めがかからない状況に陥ると、5月にベトナム政府が感染リスクの高い北部地域を中心に首相指示16号に基づく社会隔離措置を実施し、工業団地が一時操業停止となったが、前年同期の実質GDPが低水準だったことによる反動(ベース効果)の影響により高成長を維持した。実質GDPを産業別に見ると、第4波の拡大によりサービス業が同+4.3%(前期:同+3.6%)と上昇幅が抑えられたが、鉱工業・建設業が同+10.3%(前期:同+6.3%)と大きく上昇した。中国経済の回復や米中貿易戦争を背景とする生産移転、コロナ禍で在宅時間の増加が追い風となり、外資系メーカーを中心に電気電子製品の出荷が増加して製造業(同+13.8%)が高成長を記録した。

先行きのベトナム経済は、当面は感染第4波の長期化により景気の落ち込みが避けられないだろう。新型コロナの感染が南部を中心に全国的に広がった結果、7月上旬から中旬にかけて各地で社会隔離措置が導入され、事実上の都市封鎖に入り外出や他地域との移動が原則禁止になった。企業は感染対策として工場労働者の「労・食・住」を1カ所に集約する「工場隔離」が操業継続の条件となるなど厳しい制限が課された。1日あたりの新規感染者数は8月に1万人に達した後、徐々に改善の兆しが見え始め、9月下旬には1万人を割り込むようになってきている。首都ハノイは9月15日から、ホーチミン市は10月から規制緩和に舵を切り、製造業の操業規制やサービス業の営業規制の緩和を段階的に進めていく方針である。従って、ベトナム経済は製造業やサービス業の厳しい制限が課された7-9月期に落ち込み、制限解除が進む10-12月期に回復に転じるとみられる。

来年はワクチン普及に伴う経済活動の正常化が進むにつれて経済の回復ペースが強まると予想する。足元のワクチンの完全接種率は1割程度と依然遅れているが、年内に国産ワクチンの供給が始まると接種ペースが加速しそうだ。サービス業は対面型サービスの回復が進むと共に、製造業は海外経済の回復や米中対立の長期化を背景とする投資拡大によって堅調な拡大が見込まれる。

金融政策は、ベトナム中銀が政策金利を昨年▲2.0%引き下げて以降、4.0%で据え置いている。インフレ率は制限解除が進むなかで上昇するが、緩やかなドン高と政府の価格統制により+4%を下回って推移しよう(図表16)。景気回復が加速する来年に年1回の利上げを予想する。

実質GDP成長率は21年が+3.5%と、20年の+2.9%に続いて低成長となり、ワクチン接種の加速と制限解除が進む22年が+6.7%と大きく上昇すると予想する。
(図表15)(図表16)
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

(2021年09月30日「Weekly エコノミスト・レター」)

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