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- 東南アジア経済の見通し~年内は活動制限の影響により経済停滞、来年はウィズコロナ下での経済回復が続く
2021年09月30日
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1.東南アジア経済の概況と見通し
(経済概況:感染再拡大もベース効果により成長率が急上昇)
東南アジア5カ国の経済は昨年、新型コロナウイルス感染拡大と各国の活動制限措置の影響が直撃した4-6月期に急速に悪化し、ベトナムを除く4カ国(マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン)がマイナス成長に落ち込んだ(図表1)。その後、各国が制限措置を段階的に解除すると共に、財政・金融政策による支援を続けたことから、昨年後半から景気回復が続いた。2021年4-6月期は東南アジア地域でデルタ株が蔓延して感染再拡大が生じたため、各国政府は厳しい活動制限措置の実施を迫られ、実体経済が停滞した国が多かったが、成長率(前年同期比)は昨年の実質GDPが大幅に減少した反動(ベース効果)により大きく上昇した。
東南アジア5カ国の経済は昨年、新型コロナウイルス感染拡大と各国の活動制限措置の影響が直撃した4-6月期に急速に悪化し、ベトナムを除く4カ国(マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン)がマイナス成長に落ち込んだ(図表1)。その後、各国が制限措置を段階的に解除すると共に、財政・金融政策による支援を続けたことから、昨年後半から景気回復が続いた。2021年4-6月期は東南アジア地域でデルタ株が蔓延して感染再拡大が生じたため、各国政府は厳しい活動制限措置の実施を迫られ、実体経済が停滞した国が多かったが、成長率(前年同期比)は昨年の実質GDPが大幅に減少した反動(ベース効果)により大きく上昇した。

4-6月期の各国の実質GDPの内訳をみると、総じて外需は世界各国の厳しい出入国規制によってインバウンド需要が消失してサービス輸出が低迷しているものの、引き続きデジタル化関連製品や一次産品の出荷が増加し、財貨輸出を中心に持ち直した。また内需は感染再拡大に伴い各国政府が活動制限措置を厳格化したため、民間消費と総固定資本形成は前期比では停滞したが、ベース効果により前年同期比の伸び率は高かった。
(新型コロナ感染状況:活動制限強化により改善に転じる)
東南アジア地域の新型コロナ感染動向は足元で改善の動きがみられる(図表2)。4月以降、東南アジア各国で感染再拡大の動きが続き、昨年はウイルスの封じ込めに成功してきたタイとベトナムで感染拡大に歯止めがかからなくなり、またインドネシアとフィリピン、マレーシアでは医療体制が逼迫する事態となった。しかし、各国の厳しい活動制限措置が1~2ヵ月実施されたことにより、インドネシアでは7月、タイでは8月、マレーシアでは9月に新型コロナ感染がピークアウトし、またフィリピンとベトナムでは足元で感染拡大ペースが鈍化するようになっている(図表3)。
各国政府は感染状況の改善の動きがみられると早いタイミングで首都圏の制限緩和に舵を切った。インドネシアは7月、マレーシアは8月、タイは9月、フィリピンとベトナムが9月後半に相次ぎ首都圏の制限措置を解除している。各国は感染力の強いデルタ株の出現や厳しい活動制限措置による経済活動の制限、ワクチン接種の進展、医療体制の改善など様々な要因を考慮してウィズコロナ(新型コロナウイルスとの共存)を前提とする柔軟な感染対策をとるようになってきている。
東南アジア地域の新型コロナ感染動向は足元で改善の動きがみられる(図表2)。4月以降、東南アジア各国で感染再拡大の動きが続き、昨年はウイルスの封じ込めに成功してきたタイとベトナムで感染拡大に歯止めがかからなくなり、またインドネシアとフィリピン、マレーシアでは医療体制が逼迫する事態となった。しかし、各国の厳しい活動制限措置が1~2ヵ月実施されたことにより、インドネシアでは7月、タイでは8月、マレーシアでは9月に新型コロナ感染がピークアウトし、またフィリピンとベトナムでは足元で感染拡大ペースが鈍化するようになっている(図表3)。
各国政府は感染状況の改善の動きがみられると早いタイミングで首都圏の制限緩和に舵を切った。インドネシアは7月、マレーシアは8月、タイは9月、フィリピンとベトナムが9月後半に相次ぎ首都圏の制限措置を解除している。各国は感染力の強いデルタ株の出現や厳しい活動制限措置による経済活動の制限、ワクチン接種の進展、医療体制の改善など様々な要因を考慮してウィズコロナ(新型コロナウイルスとの共存)を前提とする柔軟な感染対策をとるようになってきている。

東南アジア5カ国の消費者物価上昇率(以下、インフレ率)は昨春、新型コロナ感染拡大に伴う活動制限措置やエネルギー価格の下落を受けて低下した後、デフレ圧力が働いて低水準で推移した(図表4)。年明け以降は昨年の落ち込みからの反動増や国際商品価格の上昇が物価の押し上げ要因となっている、コロナ禍でサービス消費が抑制されており、物価上昇は限定的となっている。
国別にみると、まずフィリピンは昨年の大型台風による作物被害やアフリカ豚熱の影響により、今年2月にかけて食品価格を中心に上昇すると、その後も中銀の物価目標圏(+2~4%)を上回る高めの水準で推移している。またマレーシアとタイ、ベトナムはそれぞれ今年3~4月にかけて昨年急低下した反動によって急上昇したが、一時的な動きにとどまり、足元では再び鈍化している。一方、インドネシアは大きな変動が見られないが、コロナ禍の需要の落ち込みを反映して停滞している。
先行きのインフレ率は、年内は前年の落ち込みからの反動増や国際商品市況の上昇が引き続きインフレ圧力となる一方、経済活動制限が物価の押し下げ圧力となって横ばい圏で推移する国が多いだろう。来年はワクチン普及による経済活動の正常化が進むなかでインフレ率が緩やかに上昇すると予想する。
(金融政策:年内は据え置き、来年は引き締めモードに)
東南アジア5カ国の金融政策は昨年、新型コロナの世界的な感染拡大の影響が直撃すると、各国中銀が段階的な利下げを実施、その後も緩和的な金融政策が維持されている(図表5)。
東南アジア5カ国の金融政策は昨年、新型コロナの世界的な感染拡大の影響が直撃すると、各国中銀が段階的な利下げを実施、その後も緩和的な金融政策が維持されている(図表5)。

金融政策の先行きは、当面はインフレ率の持続的な上昇が見込みにくく、コロナ禍でダメージを受けた経済の回復を後押しするため、年内は各国の政策金利が据え置かれると予想する。しかし、来年以降はワクチン普及に伴う経済活動の回復が続いて受給面から物価上昇圧力が働くようになるほか、米国の金融緩和策の縮小に伴う資金流出が強まるなかで幾つかの中銀は利上げに踏み切るようになるだろう。国別にみると、インドネシアとフィリピンが年後半に2回、マレーシアとベトナムが年後半に1回の利上げを実施すると予想する。
(経済見通し:年内は活動制限の影響で経済回復が遅れるが、来年はワクチン普及により回復へ)
東南アジア5カ国の経済は、年内は活動制限措置の影響により経済活動が停滞するが、来年はワクチン接種の加速が見込まれ、ウィズコロナの対応が進むなかで景気動向が安定化するだろう。
7-9月期は東南アジア各国で感染拡大が続いたが、足元では改善の動きがみられるようになり、各国政府は厳しい活動制限措置を段階的に解除するようになってきている。このため、7-9月期は厳しい活動制限措置の影響により各国経済の落ち込みは避けられないが、10-12月期の経済活動は回復に転じるだろう。もっとも、マレーシアを除いてワクチン接種率は遅れており、各国政府は制限解除を緩やかに進めるものとみられ、10-12月期も活動制限措置に伴う経済活動の縮小は続くこととなりそうだ。
来年はワクチン普及による景気回復が見込まれる。タイとインドネシア、フィリピン、ベトナムでは来春までに国産ワクチンの供給が始まるほか、先進国で余ったワクチンの輸出拡大が予想され、遅れていたワクチン接種が加速するだろう。医療体制は次第に落ち着きを取り戻し、ウィズコロナを前提とした柔軟な感染対策と経済活動との両立が図られ、景気動向が安定化して経済回復が軌道に乗ると予想する。もっともソーシャルディスタンスの確保などの基本的な感染防止策は維持されるため対面型サービス消費が抑制されるほか、コロナ禍における倒産や失業、企業業績の悪化などが先行きの内需を押し下げる状況が続くとみられ、内需の回復に時間がかかることとなりそうだ。他方、政府部門は引き続き景気の下支え役となる。各国政府は財政赤字拡大を時限的に許容して消費喚起や投資拡大のための施策を打ち出すなど積極財政を続けるほか、緩和的な金融政策が続くことも景気回復をサポートするとみられる。
東南アジア5カ国の経済は、年内は活動制限措置の影響により経済活動が停滞するが、来年はワクチン接種の加速が見込まれ、ウィズコロナの対応が進むなかで景気動向が安定化するだろう。
7-9月期は東南アジア各国で感染拡大が続いたが、足元では改善の動きがみられるようになり、各国政府は厳しい活動制限措置を段階的に解除するようになってきている。このため、7-9月期は厳しい活動制限措置の影響により各国経済の落ち込みは避けられないが、10-12月期の経済活動は回復に転じるだろう。もっとも、マレーシアを除いてワクチン接種率は遅れており、各国政府は制限解除を緩やかに進めるものとみられ、10-12月期も活動制限措置に伴う経済活動の縮小は続くこととなりそうだ。
来年はワクチン普及による景気回復が見込まれる。タイとインドネシア、フィリピン、ベトナムでは来春までに国産ワクチンの供給が始まるほか、先進国で余ったワクチンの輸出拡大が予想され、遅れていたワクチン接種が加速するだろう。医療体制は次第に落ち着きを取り戻し、ウィズコロナを前提とした柔軟な感染対策と経済活動との両立が図られ、景気動向が安定化して経済回復が軌道に乗ると予想する。もっともソーシャルディスタンスの確保などの基本的な感染防止策は維持されるため対面型サービス消費が抑制されるほか、コロナ禍における倒産や失業、企業業績の悪化などが先行きの内需を押し下げる状況が続くとみられ、内需の回復に時間がかかることとなりそうだ。他方、政府部門は引き続き景気の下支え役となる。各国政府は財政赤字拡大を時限的に許容して消費喚起や投資拡大のための施策を打ち出すなど積極財政を続けるほか、緩和的な金融政策が続くことも景気回復をサポートするとみられる。

結果、21年は感染再拡大と厳しい活動制限措置の実施により経済活動は停滞するが、前年の大幅な落ち込みからの反動増により各国の実質GDP成長率は上昇し、22年はワクチンの普及に伴い景気動向が安定化して成長率が更に上昇すると予想する(図表6)。
(2021年09月30日「Weekly エコノミスト・レター」)
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03-3512-1780
経歴
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
斉藤 誠のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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