2021年09月07日

男性の育休取得の現状-2020年は過去最高で12.7%、5日未満が3割、業種で大きな差

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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■要旨
 
  • 厚生労働省「雇用均等基本調査」によると、2020年の民間企業に勤める男性の育児休業取得率は過去最高の12.7%を示した。前年からの上昇幅は+5.2%ptと大きく、「働き方改革」などによる意識の高まりやコロナ禍による価値観変容の影響があるのだろう。一方、取得期間は5日未満が28.3%を占め、女性の育休とは大きな違いがある。
     
  • 業種別には、圧倒的に「金融業、保険業」(31.0%)で高く、このほか「情報通信業」(14.8%)や「製造業」(14.1%)、「学術研究、専門・技術サービス業」・「宿泊業、飲食サービス業」(各13.6%)などでも全体平均を上回る。背景には、戦略的に男性の育休取得を促進する企業が多いことや正規雇用者が多いこと、裁量労働制など柔軟な勤務制度が浸透していることなどがあげられる。
     
  • 男性の育休取得期間は必ずしも育休取得率の高い業種で長いわけではない。取得期間が5日未満の割合は「金融業、保険業」では64.0%を占めるが、「情報通信業」や「学術研究、専門・技術サービス業」では1割前後である。なお、後者では、1ヶ月以上6カ月未満が4~5割を占める。
     
  • 事業所規模別には、100人以上で育休取得率が高く、取得期間は長い傾向があり、男性の育休取得の進む大企業傘下の事業所が取得率を押し上げている様子がうかがえる。一方で日本・東京商工会議所の調査によると、男性の育休取得義務化には中小企業の約7割が反対しており、人手不足感の強い運輸業や建設業、介護・看護業で高い。
     
  • 本来は育休取得率が高く、取得期間が長ければ良いというわけではない。例えば、夫婦で裁量労働制や時間短縮勤務制度、週休三日制度などを組み合わせることで、必ずしも育休を取らずとも仕事と家庭を両立できるケースもあるだろう。また、家庭によって事情も様々だ。一方で取得率の向上は短期間であっても、家事や育児の負担が圧倒的に妻側に偏る現状では価値観の変容を促す「はじめの一歩」としての意義がある。
     
  • 今年6月に「育児・介護休業法」が改正され、男性版産休とも言われる「出生時育休制度」が創設された。男性の育休取得促進に一層、弾みがつくことに期待したい。すでに政府有識者会議等では継続的に議論が進められているが、今後とも育休取得率の高い企業や組織の工夫等のベストプラクティスを共有するとともに、障壁となる要因を丁寧に把握し制度設計を工夫していくという息の長い取り組みが求められる。


■目次

1――男性の育休取得率は過去最高で12.7%だが政府目標におよばず、取得期間は5日未満が約3割
2――業種別に見た育休取得状況~男性の育休取得率が高い業種でも取得期間には温度差
  1|育休取得率~男性では圧倒的に金融・保険で31%、男女とも高いのは情報通信業
  2|育休取得期間(男性で5日未満の割合~郵便局や金融・保険で短く、学術研究や情報通信で
   月単位
3――事業所規模別に見た育休取得状況~中小企業では人手不足で
4――おわりに~2025年30%に向けて男性版産休(「出生時育休制度」)に期待

(2021年09月07日「基礎研レポート」)

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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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