2021年09月03日

日銀「政策修正」後の変化と残された課題

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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2. 日銀金融政策(8月):開催なし

(日銀)現状維持(開催なし)
8月はもともと金融政策決定会合が予定されていない月であったため会合は開催されず、必然的に金融政策は現状維持となった。次回会合は今月21~22日に開催される予定。
 
(今後の予想)
今後の金融政策に関しては、しばらく現状維持が続くと予想される。物価目標達成が見通せない一方で追加緩和余地が乏しく身動きが取りづらいうえ、デルタ株を中心とするコロナの感染動向やワクチン接種の普及ペースと効果、それが景気に与える影響等を見定めるべく、日銀は様子見姿勢に徹すると見込まれるためだ。「強力な金融緩和を粘り強く続けていく」という建前を掲げながら、現状維持を続けるだろう。金利の膠着が長期化するなど、副作用の緩和が十分に見られない場合には、政策をさらに微調整する可能性が出てくるが、緩和の大枠に影響はない。

なお、3月の政策修正の一環として、長短金利引き下げの影響を緩和するための「貸出促進付利制度」が導入されたが、同制度によって金利引き下げ時の副作用(金融機関収益への悪影響)を全て吸収できるわけではないため、長短金利引き下げのハードルは引き続き高い。引き下げは円高が大幅に進む場合などに限られるだろう。

3. 金融市場(8月)の振り返りと予測表

3. 金融市場(8月)の振り返りと予測表

(10年国債利回り)
8月の動き 月初0.0%台前半でスタートし、月末も0.0%台前半に。
月初、デルタ株の世界的拡大等を受けた米長期金利の低下や入札・日銀オペで良好な需給が確認されたことを受けてやや低下し、4日に0.0%を付ける。その後は高値警戒感や米雇用統計ほか雇用関連統計の改善に伴う米金利上昇を受けて上昇に転じ、11日には0.0%台半ばをうかがう水準に。しかし、翌12日には予想を下回る米CPI発表に伴う米長期金利低下を受けて再び低下、以降は米金利が方向感を欠く中で0.0%を若干上回る水準での小動きが続いた。月終盤に行われたジャクソンホール会議でのパウエルFRB議長講演も無難に通過し、月末も0.0%台前半で終了した。
日米長期金利の推移(直近1年間)/日本国債イールドカーブの変化
日経平均株価の推移(直近1年間)/主要国株価の騰落率(8月)
(ドル円レート)
8月の動き 月初109円台後半でスタートし、月末も109円台後半に。
月初、米国でのコロナ感染拡大を受けてドルが売られ、4日に109円に下落したが、雇用統計ほか米経済指標の改善やFRB高官によるタカ派発言、米上院でのインフラ投資法案可決を受けてドル買いが活発化し、11日には110円台後半まで上昇した。その後は米物価指標や消費者心理指標の予想割れなどを受けて再びドルが下落し、16日に109円台に戻った後は109円台を中心とする横ばい圏での推移が継続。月終盤には米国でのワクチン普及期待に伴うリスク選好の円売りによって110円に乗せる場面もあったが、ジャクソンホール会議でのパウエルFRB議長講演がややハト派的と受け止められたことでドルが弱含み、月末は109円台後半で終了した。
ドル円レートの推移(直近1年間)/ユーロドルレートの推移(直近1年間)
(ユーロドルレート)
8月の動き 月初1.18ドル台後半でスタートし、月末は1.18ドル台前半に。
月の上旬は、雇用統計ほか米経済指標の改善が相次いだことを受けてユーロが下落基調となり、10日には1.17ドル台前半まで低下。その後、米物価指標や消費者心理指標の予想割れなどを受けて一旦持ち直したものの、米緩和縮小観測に加え、中国の景気減速懸念・アフガン情勢の悪化に伴ってリスク回避的なドル買いも入り、20日には1.16ドル台に下落した。下旬は1.17ドル台での推移が続いたが、終盤にはパウエルFRB議長講演がハト派的と受け止められたことでドルがやや売られ、月末は1.18ドル台前半に持ち直した。
金利・為替予測表(2021年9月3日現在)
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2021年09月03日「Weekly エコノミスト・レター」)

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