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株式以外のESG投資~ESG投資を全資産で考える~
金融研究部 取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長 兼 ESG推進室長 德島 勝幸
1――はじめに
2――ESG投資は伝統的な資産配分の枠組みにそぐわない
残念ながら、ESG投資は、少なくとも短期的な超過収益源にならない可能性があるし、仮に超過収益が得られるならば、銘柄選択効果だったり、より多くの投資家が取り組んだために得られた価格釣上げ効果だったり、他の複数の要因によるものと考えられる。株式投資におけるESG要素の効果は、中長期的に発現することが期待されるものであって、四半期や一年といった単位で計測すること自体が、ESG投資の根本的な理念を理解していないことの証左であると考えている。
ESG投資を一つの資産クラスとして資産配分を考えてはどうか、という意見も耳にすることがある。これに対しては、根本的な資産クラスの立て方次第であろうと、考えざるを得ない。保有資産全体がESG投資を行うものであると考えるならば、ESG投資という独立した資産クラスに意味はない。また、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のアロケーションに代表される、内外債券及び株式の四区分とそれ以外をオルタナティブ資産とする伝統的な資産クラスの分け方では、ESG投資は独立した資産クラスとして成立しない。資産クラスをファクター別に管理するなど伝統的なアプローチと異なった観点から細分化するならば、ESG投資を1つの資産区分として立てることも可能であるが、実効性は乏しいかもしれない。
3――ESG投資は資産全体に適用できる
これらの資産クラスの特性として、投資のタイムホライズンが長めであることを指摘できるかもしれない。ESG投資は、必ずしも短期的な超過収益を目的とするものではないと考えられるが、むしろショートターミズムを緩和して、長期的な視点での投資を実現するための重要な視座ともなり得る。
中長期的な観点ではなく短期的な視点から収益の獲得を目指すヘッジファンド投資において、ESG要素は考慮されるべきだろうか。そもそも、不動産やインフラストラクチャー投資と並んで、ヘッジファンドをオルタナティブ投資に含めるのは、伝統的な資産クラスへの投資以外という意味でしかなく、“オルタナティブ”という語義以上のものを含意していない。また、必ずしもグローバルマクロのようなもののみがヘッジファンドの投資手法ではなく、様々な資産間や銘柄・手法間の裁定取引による極短期の収益獲得を狙ったもの等もある。一部のヘッジファンドの採用する運用手法においては、株式等の銘柄選択に際してESG要素の介在する余地はあるだろう。ただし、ヘッジファンドとESG投資とでは、投資の時間軸が大きく異なると考えられることから、必ずしもヘッジファンド投資において重要な役割を果たすものではないと考えられる。
1 GPIF投資原則(5)「長期的な投資収益の拡大を図る観点から、投資先及び市場全体の長期志向と持続的成長を促す、スチュワードシップ責任を果たすような様々な活動(ESGを考慮した取組を含む。)を進める。」
4――債券領域におけるESG投資への取組み
エクイティ領域でESG投資によって期待される効果は、企業によるESG経営に向けた努力とそれに見合った中長期的な業績の安定性・サステイナビリティの向上の結果として得ることのできる、長期タイムホライズンにおけるリターンの向上と整理することができる。一方、債券領域においては、資産特性からリターンの上方硬直性が存在するため、株式と同様のESG投資に関する発想は、単純には馴染まない。
債券投資から得られる投資利回りに上方硬直性があり、一方で、「お金には色がない」中では、グリーンボンド等特定のSDGs債券を、そうでない債券よりも割高に購入することに対しては、フィデューシャリーデューティーの観点から疑義が呈される。特に、SDGs債券の曖昧な認定基準・運用の中においては、グリーニアム等と呼ばれる不合理な割高さについては容認されるべきではない。
しかし、市場参加者に認められた適正な基準運用が行われるようになった場合には、グリーニアムの存在を肯定できる可能性も否定しない。1つには、ESG要素もしくはSDGsを意識した経営を行う企業については、株式での安定的なリターンが期待できると考えるから、同様に、債券においても、経営の安定性から信用リスクの振れ幅が小さいと考えられる。その結果、スプレッドが縮小すると考えることが可能である。しかし、特定のプロジェクトに限定した資金調達のグリーンボンド等については、発行体による十分な情報開示が行われない限り、投資家によるトレースが容易でないことや、「お金に色がない」ことを考えると、ESGもしくはSDGsを意識した経営を行っている発行体の債券全般がグリーンボンド等SDGs債券であると考えるしかないのではなかろうか。また、昨今のように、日本銀行による強力な金融緩和によって、ゼロ近傍にある金利水準だけでなく、社債のスプレッドさえもが潰されている中では、SDGs債券によるスプレッドの圧縮効果は限りなく小さくなっているだろう。
一方で、地方公共団体や政府関係機関の場合には、発行する債券に限定されることなく、発行体の機能・役割そのものが社会性を有していることは自明である。極論すれば、基準に合致し認定さえ得られれば全てがソーシャルボンドなのであり、債券の割高や割安といったプライシングに関して議論する余地がないとも考えられる。
結局のところ、特定のプロジェクトに対応した特定の回号の社債だけを、グリーンボンド等SDGs債券と認定し、当該債券のみが割高になるということは、市場実態を考えても難しいだろう。最終的には、「お金に色がない」の中では、どうしてもESGやSDGsに適合し難い企業の社債のみに対して、スプレッドの上乗せが要求されるという将来になるのかもしれない。
5――資産全体にかかるESG投資の意味合い
自らの運用の基本的な理念にESG要素を織り込んでいるのであれば、投資している資産全体がESG要素を考慮したものであると主張できるし、むしろ、すべてのアセットオーナーが“全資産の運用でおいてESG要素を考慮している”と胸を張って言えるようになれば良いのではないか。そうなれば、ESG投資は普遍的なものとなって、殊更に言及する必要はなくなってしまうだろう。そのような未来が近いうちに到来するものと期待したい。
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03-3512-1845
- 【職歴】
・1986年 日本生命保険相互会社入社
・1991年 ペンシルバニア大学ウォートンスクールMBA
・2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社に出向
・2008年 ニッセイ基礎研究所へ
・2021年より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
・日本ファイナンス学会
・証券経済学会
・日本金融学会
・日本経営財務研究学会
(2021年07月12日「基礎研レター」)
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