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- J-REIT市場の動向と今後の収益見通し。5年間で12%成長を見込む~今年は横ばいも、来年以降回復に向かう見通し
2021年03月08日
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1――新型コロナ感染拡大による急落から1年。現在、J-REIT市場は2019年末の9割水準を回復
もっとも、J-REITの業績に対する過度な懸念が和らぐ一方で、収益の源泉となる不動産賃貸市場は先行き不透明感が高い。運用資産の4割を占めるオフィス市場は昨年から調整局面に入り、ホテル市場は人の移動制限によって宿泊需要が蒸発し、厳しさを増している。もちろん、前回のリーマン・ショック時のように分配金水準が3割強減少する事態は避けられそうだが、このまま直ちに元の水準まで回復するとの見方はやや楽観的過ぎるかもしれない。
そこで、以下では最初に、現在のコロナ禍におけるJ-REITの収益環境を確認する。次に、各種シナリオ(オフィス賃料見通し、物件取得要件、金利見通しなど)を設定し、今後5年間の分配金見通しを試算したい。
そこで、以下では最初に、現在のコロナ禍におけるJ-REITの収益環境を確認する。次に、各種シナリオ(オフィス賃料見通し、物件取得要件、金利見通しなど)を設定し、今後5年間の分配金見通しを試算したい。
2――保有不動産は物流施設の比率が高まる。1口当たり分配金(DPU)はひとまずピークアウト
J-REITは、エクイティ資金及び借入金を調達して賃貸不動産に投資し、そこから得られる賃貸事業収益(Net Operating Income、以下NOI)を原資に、利益のほぼ全額を分配する金融商品である。J-REITは主に、(1)保有不動産の収益力を高める「内部成長」、(2)不動産を取得する「外部成長」、(3)金融コストを低減する「財務戦略」を通じて、1口当たり分配金(Distributions Per Unit、以下DPU)の成長を図る。
まず、2020年12月末時点の運用不動産はJ-REIT全体で約4,200棟、金額にして約22.9兆円である(図表―3)。アセットタイプ別の保有額は、オフィスビル(9.3兆円、41%)、物流施設(3.9兆円、17%)、商業施設(3.4兆円、15%)、住宅(3.4兆円、15%)、ホテル(1.8兆円、8%)、底地など(1.0兆円、4%)の順となっている。また、過去5年間の取得額(約7.6兆円)の内訳をみると、物流施設の比率(30%)が拡大しており、物流施設の保有額が商業施設を抜いて第2位となった。
まず、2020年12月末時点の運用不動産はJ-REIT全体で約4,200棟、金額にして約22.9兆円である(図表―3)。アセットタイプ別の保有額は、オフィスビル(9.3兆円、41%)、物流施設(3.9兆円、17%)、商業施設(3.4兆円、15%)、住宅(3.4兆円、15%)、ホテル(1.8兆円、8%)、底地など(1.0兆円、4%)の順となっている。また、過去5年間の取得額(約7.6兆円)の内訳をみると、物流施設の比率(30%)が拡大しており、物流施設の保有額が商業施設を抜いて第2位となった。
次に、業績動向を確認する。2020年は、新型コロナウィルス感染拡大を受けて、施設売上などに連動して受け取る変動賃料の減少や固定賃料の減免などにより予想DPUの下方修正が相次いだ(図表―4)。J-REIT各社の業績修正は2020年8月までに一巡し、「▲10%以上の下方修正」が9社(占率15%)、「▲10%未満の下方修正」が11社(18%)、全体で20社(32%)が業績の下方修正を発表した。この結果、市場全体の予想分配金水準は2020年3月のピーク水準から一時▲9%低下した。
しかし、その後に発表された実績DPUは上振れて着地している。2020年下期(7月~12月期)における事前予想に対する上振れ率は+4.1%となった(図表―5)。コロナ禍の影響を保守的に見積っていたことに加えて、不動産売却益の計上などにより実績DPUが増加し、市場全体の分配金水準は上向き傾向にある。
しかし、その後に発表された実績DPUは上振れて着地している。2020年下期(7月~12月期)における事前予想に対する上振れ率は+4.1%となった(図表―5)。コロナ禍の影響を保守的に見積っていたことに加えて、不動産売却益の計上などにより実績DPUが増加し、市場全体の分配金水準は上向き傾向にある。
3――シナリオを設定し、今後のDPU成長率を試算する
2|保有オフィスビルのNOI成長率は今後5年間で+3%の見通し
ニッセイ基礎研究所は国内6都市(東京・大阪・名古屋・札幌・仙台・福岡)のオフィス賃料予測を公表した1。今後5年間(2020年~2025年)の賃料変動率は、標準シナリオで東京が▲6%、大阪が▲2%、名古屋が▲3%、札幌が▲12%、仙台が+2%、福岡が▲10%となっている(図表―8)。このうち、「東京都心Aクラスビル賃料は当面横ばいで、2023年以降弱含みで推移する」見通しである。
この賃料予測並びに一定の空室率上昇(一律2%上昇)を前提条件(稿末に記載)として、保有ビルのNOI成長率(今後5年間)を計算すると+3%となった(図表―9)。収益ベースで7割を占める東京のオフィス市況が弱含みで推移したとしても、現在の賃料ギャップ(▲7%)が収益にプラス寄与し、保有ビルのNOIは底堅く推移する見通しである。
ニッセイ基礎研究所は国内6都市(東京・大阪・名古屋・札幌・仙台・福岡)のオフィス賃料予測を公表した1。今後5年間(2020年~2025年)の賃料変動率は、標準シナリオで東京が▲6%、大阪が▲2%、名古屋が▲3%、札幌が▲12%、仙台が+2%、福岡が▲10%となっている(図表―8)。このうち、「東京都心Aクラスビル賃料は当面横ばいで、2023年以降弱含みで推移する」見通しである。
この賃料予測並びに一定の空室率上昇(一律2%上昇)を前提条件(稿末に記載)として、保有ビルのNOI成長率(今後5年間)を計算すると+3%となった(図表―9)。収益ベースで7割を占める東京のオフィス市況が弱含みで推移したとしても、現在の賃料ギャップ(▲7%)が収益にプラス寄与し、保有ビルのNOIは底堅く推移する見通しである。
(2021年03月08日「基礎研レポート」)
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03-3512-1858
経歴
- 【職歴】
1993年 日本生命保険相互会社入社
2005年 ニッセイ基礎研究所
2019年4月より現職
【加入団体等】
・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
・日本証券アナリスト協会検定会員
岩佐 浩人のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/03/21 | J-REIT市場の動向と収益見通し。財務負担増加が内部成長を上回り、今後5年間で▲7%減益を見込む~シナリオ別のレンジは「▲20%~+10%」となる見通し~ | 岩佐 浩人 | 基礎研レポート |
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