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- コロナ禍における労働市場の動向-失業率の上昇が限定的にとどまる理由
2021年02月26日
1――コロナ禍における労働市場の概観

失業率、有効求人倍率ともに2020年末にかけて悪化に歯止めがかかりつつある。ただし、2020年12月の失業者数は204万人と直近のボトム(2019年12月の152万人)よりも50万人以上多く、有効求人数は直近のピーク(2018年12月)よりも2割以上少ない。
また、就業者数は緊急事態宣言が発令された2020年4月に前年同月差▲80万人と7年4ヵ月ぶりに減少に転じた後、12月まで9ヵ月連続で減少している。産業別には、医療・福祉が増加傾向を維持しているが、製造業、卸売・小売業など幅広い産業で減少しており、特に新型コロナウイルス感染症の影響を強く受けている宿泊・飲食サービスの減少幅が大きい(図表2)。雇用形態別には、正規雇用は女性を中心に増加を続けている一方、パート・アルバイト、派遣社員などの非正規雇用は女性を中心に大きく減少している(図表3)。
2―失業率の上昇が限定的にとどまる理由
(非労働力化の進展)
2020年4月の緊急事態宣言下で失業率の上昇が小幅にとどまった一因は、仕事を失った人の多くが職探しを行わずに非労働力化したことである。労働力人口は女性、高齢者を中心に長期にわたって増加傾向が続いていたが、緊急事態宣言や学校の臨時休校の影響から高齢者や女性、学生アルバイトの一部が非労働力化したことで、2020年4月には前月差▲99万人の大幅減少となった。このため、就業者数が同▲107万人の大幅減少となったにもかかわらず、失業者数は同6万人の増加(失業率は0.1ポイントの上昇)にとどまったのである。仮に、非労働力化した人の全てが求職活動を行っていたとしたら、4月の失業率は4%程度まで上昇していた(実際の失業率は2.6%)。
2020年4月の緊急事態宣言下で失業率の上昇が小幅にとどまった一因は、仕事を失った人の多くが職探しを行わずに非労働力化したことである。労働力人口は女性、高齢者を中心に長期にわたって増加傾向が続いていたが、緊急事態宣言や学校の臨時休校の影響から高齢者や女性、学生アルバイトの一部が非労働力化したことで、2020年4月には前月差▲99万人の大幅減少となった。このため、就業者数が同▲107万人の大幅減少となったにもかかわらず、失業者数は同6万人の増加(失業率は0.1ポイントの上昇)にとどまったのである。仮に、非労働力化した人の全てが求職活動を行っていたとしたら、4月の失業率は4%程度まで上昇していた(実際の失業率は2.6%)。
(雇用調整助成金の拡充を背景とした休業者の増加)
緊急事態宣言発令に伴う経済活動の停止によって仕事を失った人の多くが、雇用調整助成金の拡充を背景に、就業者の内訳である休業者1にとどまったことも失業率の上昇を抑制した。
休業者数は、緊急事態宣言が発令された20年4月に597万人(前年差420万人増)と過去最多となった後、5月以降は徐々に減少し、12月には202万人(前年差16万人増)となった。
政府は雇用調整助成金による雇用維持を雇用対策の柱として位置付け、段階的に助成率の引き上げ、対象労働者の拡大等を行ってきた。この結果、2020年度の雇用調整助成金の支給決定件数は262万件、支給決定金額は2.9兆円(2021/2/19までの実績)となり、いずれもリーマン・ショック後の3年間(2009~2011年度)の実績を上回っている(図表6)。
景気の悪化が長期化すれば、休業者の多くが失業者として顕在化する可能性もあるが、前月の休業者が当月にどの就業状態に移行したかを確認すると、休業者にとどまる者の割合が56.7%、従業者2への移行が32.3%、失業者への移行が2.6%、非労働力人口への移行が8.4%(いずれも2020年5~12月の平均)となっている(図表7)。休業状態から失業する人の割合は低く、現時点では、雇用調整助成金の拡充が失業者の増加に歯止めをかける役割を果たしていると評価できる。
緊急事態宣言発令に伴う経済活動の停止によって仕事を失った人の多くが、雇用調整助成金の拡充を背景に、就業者の内訳である休業者1にとどまったことも失業率の上昇を抑制した。
休業者数は、緊急事態宣言が発令された20年4月に597万人(前年差420万人増)と過去最多となった後、5月以降は徐々に減少し、12月には202万人(前年差16万人増)となった。
政府は雇用調整助成金による雇用維持を雇用対策の柱として位置付け、段階的に助成率の引き上げ、対象労働者の拡大等を行ってきた。この結果、2020年度の雇用調整助成金の支給決定件数は262万件、支給決定金額は2.9兆円(2021/2/19までの実績)となり、いずれもリーマン・ショック後の3年間(2009~2011年度)の実績を上回っている(図表6)。
景気の悪化が長期化すれば、休業者の多くが失業者として顕在化する可能性もあるが、前月の休業者が当月にどの就業状態に移行したかを確認すると、休業者にとどまる者の割合が56.7%、従業者2への移行が32.3%、失業者への移行が2.6%、非労働力人口への移行が8.4%(いずれも2020年5~12月の平均)となっている(図表7)。休業状態から失業する人の割合は低く、現時点では、雇用調整助成金の拡充が失業者の増加に歯止めをかける役割を果たしていると評価できる。
1 仕事を持ちながら,調査週間中に少しも仕事をしなかった者のうち、雇用者で給料・賃金の支払を受けている者又は受けることになっている者、自営業主で自分の経営する事業を持ったままで,その仕事を休み始めてから30日にならない者
2 調査週間中に収入を伴う仕事を1時間以上した者
(労働時間の大幅削減)
雇用調整助成金の拡充を背景に、企業がなるべく雇用を維持したまま労働時間の大幅削減(休業も含む)によって需要の急減に対応したことも失業率の上昇が限定的にとどまっている一因と考えられる。実質GDPと労働投入量(就業者数×総労働時間)の関係を確認すると、労働投入量の調整が主として労働時間の削減によって行われることは、リーマン・ショック時も今回も同様だが、今回は特に所定内労働時間を中心とした労働時間の減少幅が大きくなっている(図表8)。緊急事態宣言下の2020年5月の総労働時間は前年比▲9.5%の大幅減少となった。
ただし、需要の減少に対する労働投入量の削減幅は産業別に大きく異なっている。2019年10-12月期から2020年10-12月期までの産業別の活動水準と労働投入量の変化率を比較すると、製造業は活動水準と労働投入量の減少率がほぼ等しくなっており、卸売・小売業は活動水準が前年とほぼ同水準まで戻る中で労働投入量は▲1%程度の減少となっている。
一方、新型コロナウイルス感染症の影響を強く受けている運輸・郵便業、宿泊・飲食サービス業、生活関連サービス・娯楽業は、活動水準に比べて労働投入量の減少幅が小さい。特に、飲食・宿泊サービス業は就業者、労働時間ともに大きく減少しているにもかかわらず、活動水準の急速な落ち込みに比べると労働投入量の削減幅は小さい(図表9)。雇用調整にある程度目処がついた業種と雇用調整圧力が極めて強い業種に二極化している。
雇用調整助成金の拡充を背景に、企業がなるべく雇用を維持したまま労働時間の大幅削減(休業も含む)によって需要の急減に対応したことも失業率の上昇が限定的にとどまっている一因と考えられる。実質GDPと労働投入量(就業者数×総労働時間)の関係を確認すると、労働投入量の調整が主として労働時間の削減によって行われることは、リーマン・ショック時も今回も同様だが、今回は特に所定内労働時間を中心とした労働時間の減少幅が大きくなっている(図表8)。緊急事態宣言下の2020年5月の総労働時間は前年比▲9.5%の大幅減少となった。
ただし、需要の減少に対する労働投入量の削減幅は産業別に大きく異なっている。2019年10-12月期から2020年10-12月期までの産業別の活動水準と労働投入量の変化率を比較すると、製造業は活動水準と労働投入量の減少率がほぼ等しくなっており、卸売・小売業は活動水準が前年とほぼ同水準まで戻る中で労働投入量は▲1%程度の減少となっている。
一方、新型コロナウイルス感染症の影響を強く受けている運輸・郵便業、宿泊・飲食サービス業、生活関連サービス・娯楽業は、活動水準に比べて労働投入量の減少幅が小さい。特に、飲食・宿泊サービス業は就業者、労働時間ともに大きく減少しているにもかかわらず、活動水準の急速な落ち込みに比べると労働投入量の削減幅は小さい(図表9)。雇用調整にある程度目処がついた業種と雇用調整圧力が極めて強い業種に二極化している。
(景気の上振れ)
緊急事態宣言解除後の経済活動の持ち直しが想定を上回るペースで進んでいることも、失業率の上昇が限定的にとどまっている理由である。
緊急事態宣言解除後の経済活動の持ち直しが想定を上回るペースで進んでいることも、失業率の上昇が限定的にとどまっている理由である。

当研究所が推計した需給ギャップ(実質GDP-潜在GDP)は、緊急事態宣下で過去最大のマイナス成長を記録した2020年4-6月期には▲9.9%(GDP比)とリーマン・ショック時を超えるマイナスとなったが、7-9月期、10-12月期と大幅プラス成長が続いたことにより▲2.1%までマイナス幅が縮小した(図表11)。
経済活動の水準が予想を上回るペースで回復していることで、雇用調整圧力は大きく緩和されている。
3 実質GDPの直近のピークは消費税率引き上げ前の2019年7-9月期で、これと比較すると2020年10-12月期の水準は▲2.9%低い
(宿泊・飲食サービス業は高い転職率を維持)
全体の雇用調整圧力が和らぎつつある中で、極めて厳しい状態が続いているのが、宿泊・飲食サービス業である。宿泊・飲食サービス業は中小企業、非正規雇用の比率が高いため、需要の減少が雇用の減少に直結しやすいという特徴がある。その一方で、流動性が相対的に高い非正規雇用が多いため、他産業への転職が進みやすい側面もある。
総務省統計局の「労働力調査(詳細集計)」を用いて、産業別の転職率を計算すると、宿泊・飲食サービス業は、もともと他産業に比べて転職率、特に他産業への転職率が高かったが、雇用情勢が厳しかった2020年についても高水準が維持されていることが確認された。2020年の宿泊・飲食サービス業の転職率は9.4%(自産業への転職が3.0%、他産業への転職が6.4%)となり、2015~2019年平均の9.9%(自産業への転職が3.5%、他産業への転職が6.4%)に比べれば若干低下したものの、他産業との比較では高い水準となっている(図表12)。
転職先の産業としては、卸売・小売業が最も多く全体の3割強を占めており、製造業、生活関連サービス娯楽業、医療・福祉業がそれぞれ1割弱となっている。雇用調整圧力の高い宿泊・飲食サービス業から他産業への転職が進むことによって、失業者の増加が一定程度抑制されていると考えられる(図表13)。
全体の雇用調整圧力が和らぎつつある中で、極めて厳しい状態が続いているのが、宿泊・飲食サービス業である。宿泊・飲食サービス業は中小企業、非正規雇用の比率が高いため、需要の減少が雇用の減少に直結しやすいという特徴がある。その一方で、流動性が相対的に高い非正規雇用が多いため、他産業への転職が進みやすい側面もある。
総務省統計局の「労働力調査(詳細集計)」を用いて、産業別の転職率を計算すると、宿泊・飲食サービス業は、もともと他産業に比べて転職率、特に他産業への転職率が高かったが、雇用情勢が厳しかった2020年についても高水準が維持されていることが確認された。2020年の宿泊・飲食サービス業の転職率は9.4%(自産業への転職が3.0%、他産業への転職が6.4%)となり、2015~2019年平均の9.9%(自産業への転職が3.5%、他産業への転職が6.4%)に比べれば若干低下したものの、他産業との比較では高い水準となっている(図表12)。
転職先の産業としては、卸売・小売業が最も多く全体の3割強を占めており、製造業、生活関連サービス娯楽業、医療・福祉業がそれぞれ1割弱となっている。雇用調整圧力の高い宿泊・飲食サービス業から他産業への転職が進むことによって、失業者の増加が一定程度抑制されていると考えられる(図表13)。
(2021年02月26日「基礎研レポート」)

03-3512-1836
経歴
- ・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職
・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員
斎藤 太郎のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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