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2020年、コロナ禍中の米国における個人生命保険、個人年金販売-ソーシャルディスタンスと対面販売(3)-
松岡 博司
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はじめに
そこで本稿では、新型コロナパンデミック渦中の米国生保業界の動向を、2020年という括りの中で、販売面を中心に、改めて振り返ってみることとしたい1。
なお、新型コロナパンデミックは、現在も猛威を振るっている。冬場になって感染拡大の勢いが増し、再度のロックダウンに踏み切った欧米諸国も多い。わが国でも2021年1月7日に11都府県を対象に第2次の緊急事態宣言が出され、2月9日現在も10都府県がその対象となっている。
ワクチンの接種が進みはじめた国もあるが、一方で変異したウイルスも猛威を奮い始めている。
なお2月8日現在、米国の新型コロナ累計感染者数は2,700万人超、累計死者数は46万3,000人で、いずれも世界最大である2。コロナ対策を重視するバイデン大統領が就任し、世界の先陣を切ってワクチンの接種が進んでいるなど、明るい要素も多い。しかし1月のピーク時に比べれば半減したとは言え、いまだ1日あたりの新規感染者数が11万人、1日あたりの死者数が3,000人を超えている。米国の人口3億人とわが国の人口1億人で、単純に3分の1して15万人以上の死者が発生した社会を想像したとき、生保会社はどのように振る舞えばいいのか、ちょっと想像しづらい。
今回も使用する主なデータは、米国における生命保険マーケティングの調査・教育機関であるリムラ(LIMRA)の調査結果と米国とカナダの生保・医療保険会社を構成員とする医的情報交換機関であるMIBが発表する申込み状況に関するデータである。
1 当保険・年金フォーカスでは2020年中にも以下の4回、その時々の米国生保の状況をレポートしている。4月22日「新型コロナウイルス禍中の米国での医療保険・生命保険業界の顧客保護策」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=64278?site=nli、5月14日「コロナウイルス禍中の米国生保会社の個人生命保険販売-ソーシャルディスタンスと対面販売-」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=64438?site=nli、9月9日「(続)コロナウイルス禍中の米国生保会社の個人生命保険販売-ソーシャルディスタンスと対面販売-」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=65429?site=nli、11月10日「新型コロナ禍と米国個人年金販売-パンデミックからの回復には時間がかかるとの慎重な見方-」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=66058?site=nli
2 (資料)日本経済新聞社「チャートで見る世界の感染状況 新型コロナウイルス」https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/coronavirus-chart-list/より
1――個人生命保険販売は回復が認められるが保険料の面では不安要素もある
一方、「60歳以上」の年配層は対前年マイナス1.7%となっている。こちらはパンデミック後はほぼマイナスのまま、2020年が過ぎた。コロナ感染症のインパクトを最も受けるのが高齢層ということもあり、それまでの、高齢層にも死亡保障商品を販売しようという米国生保業界のスタンスに大きくブレーキがかかった感じである。
このように、若い層からの申込みが増えた状況の背景には、米国の生保会社が、オンライン上で申込みを完結でき、引受け可否の判定もオンライン上でできる体制を整えたことが大きい。下のページの表3に見られるように、申込み経路別に申込み数がどう変化したかというアンケート結果でも、「対面申込み」では減少したと答える会社の割合が一定程度以下に減らないのと対照的に、「オンライン/モバイル申込み」では、減少したと答える会社の割合はごくわずかで、増加したと答える会社の割合が安定的に大きい。
3 Conning “The Conning Commentary December 2020”
シンプルな販売プロセスだけでは販売することが難しいユニバーサル保険のような商品の販売には、やはり対面プロセスが必要と思われる。生保業界全体として、それをソーシャルディスタンスの時代に沿うように改良できていないことが、現時点の問題であろう。
2020年後半の販売商品小口化のトレンドは、オンライン販売の1つの帰結とも言える商品のコモデティ化をもたらすかもしれず、米国生保市場の特徴である、葬儀費用を賄うために生命保険に加入するという傾向だけを助長しないとも限らない。
そうなると、米国生保業界が望んでいる遺族保障としての生命保険の発展には結びつかない。対面販売とオンラインの具合のいい統合された販売プロセスの普及が待たれるところである。
2――個人年金の販売業績はいまだ回復途上
下の表6は、リムラが公表した2020年第4四半期の速報ベースの個人年金販売業績結果である。
2020年の個人年金販売の合計額は2,191億ドルで、2019年の2,417億ドルから9.4%のマイナスとなった。定額年金の減少幅が大きくてマイナス14.0%、変額年金はマイナス2.9%である。
リムラはもともと個人年金については、2022年になるまで、2019年水準までの回復は達成されないだろうと予測していたので、まさに想定の範囲内ということになる。ただし四半期単位で見ると、2020年の第4四半期の587億ドルは2019年第4四半期の576億ドルをわずかに上回って、プラス1.9%の進展を達成している。回復の足取りを見ることができるようでもある。
とはいえ、個人年金の販売には、新型コロナパンデミックから来る、景気の悪化、低金利、株価の変動、失業率の上昇等、マイナスの影響を与えかねない要因が多い。それらは決して楽観できるものではない。
3――米国生保の決算動向
そこで米国の保険格付・調査機関であるAMベスト社が11月に公表した、2020年9月末までの統計を、決算動向を示唆するものとして紹介することにしたい。
「ファーストルック:2020年1~9月の生保・年金会社の財務状況」と題するこのレポートは、2020年11月23日までの間にAMベストが受領した各保険会社の1~9月業績数値を集計したものである。AMベストは、集計に含まれた保険会社は、保険料ベースで業界全体の94%を占めると推定されるとしている。
「生命保険・年金業界の純利益は、2020年の9ヶ月間に半減した」と見出しをうつ、このレポートによれば、2020年当初9ヶ月間の米国生命保険・年金業界の保険料収入は、パンデミックの中でも対2019年当初9ヶ月間で微減(マイナス0.9%)にとどまった。
ただしその内訳は、本稿の対象である個人生命保険と個人年金の保険料はそれなりに減少した一方で、団体生命保険と団体年金の保険料が増加して、結果的に保険料収入の合計数値で前年度数値に近いものになったというものである。団体年金では、経済情勢が厳しい中、確定給付年金の責任を生保会社が企業から肩代わりする年金リスク移転が行われたことが大きい。
この保険料収入のわずかな減少を投資収入のわずかの増加(1.1%増)等が補い、2019年の当初9ヶ月間とほぼ同水準の経常収益となった。
支出面では、パンデミックの影響で、死亡保険金の支払いが12.2%増加した。高齢化の中、年金給付金も4.4%増加した。一方で、パンデミックにもかかわらず、解約返戻金が5.8%減少し、一般経費その他の費用も減少した。
それらの結果、税引前純営業利益は前期比60.4%減となったが、税負担の減少と実現キャピタルゲインの増加により、この影響はわずかに緩和され、純利益は2019年の当初9ヶ月と比べて56.6%の減少となった。パンデミックの中、利益が減少するのはやむを得ないことであろう。
死亡保険金の支払いは増加したが、増加幅は対前年同期比で12.2%ということで、十分対応できる水準であった。一方で、パンデミックの中でも、解約を控える動きがあるのは興味深いことである。
さいごに
ワクチンの接種動向等によっては、この2021年の間に状況は大きく変わるかもしれない。しかし、2020年に起こった変化のいくつかは今後、持続していくだろう。
その中で、持続的な成長を目指すためには、生保業界においては、オンラインをうまく活用した対面販売の刷新こそが、その第1の課題と思われる。
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(2021年02月10日「保険・年金フォーカス」)
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