2024年03月12日

主要国の生保相互会社の状況-各国で株式会社と相互会社の競争と共存が定常化-デジタル化等の流れを受けた新しい萌芽も登場-

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■要旨

相互会社は、顧客である保険契約者が株式会社の株主にあてはまる地位をあわせ持つ、保険事業に特有の会社形態である。

わが国では戦後半世紀ほど、上位生保会社のほとんどが相互会社という期間が続いたが、1980年代以降、相互会社数は減少し、今日では5社(日本生命、明治安田生命、住友生命、富国生命、朝日生命)となっている。

欧米の主要国でも、1980年代までは、上位生保会社の多くが相互会社であった。しかし、金融他業態や他国の生保会社との競合が激化し、M&Aを活用した合従連衡が盛んになるにつれ、資本調達が行いやすく、株式交換によるM&Aも行いやすい株式会社形態の方が競争に有利との判断から株式会社に転換する会社が現れ、相互会社数は減少した。

各国の状況
米国・・・日本と同様、大手生保会社の中に複数の相互会社が残っている。損保業界にも規模の大きい相互会社が存在する。独自の形態である相互持株会社に転換した会社もある。

英国・・・大手生保会社の中に相互会社は1社あるのみである。

ドイツ・・・日本と同様、大手生保会社の中に複数の相互会社が残っている。中堅以下の会社にも相互会社がある。

フランス・・・相互会社の株式会社転換に関する法律の条文はなく、相互会社が相互保険グループを形成してその構成メンバーとなる枠組(SGAM)を可能にする規定が存在し、複数の相互保険グループが存在する。

オーストラリア・・・大手生保会社の中に相互会社は残っていない。

カナダ・・・大手生保会社の中に相互会社は1社あるのみである。

近年、経営問題を引き起こした相互会社
世界初の相互会社であった英国のエクイタブル生命は、逆ざや問題から経営不振に陥り、政府が補償を行う事態となった。

インドネシア唯一の相互会社であるブミプトラ1912は、保険監督刷新の中で埒外の存在となり、経営が放漫化、債務超過状態に陥った。現在も経営再建中であるが、再建の進展は遅い。

新しい動き
中国で2017年に事業開始した生保相互会社が、IT、AIをフル活用した経営を展開して、2020年に黒字化、2022年に累積黒字を達成した。

web3の時代の組織形態であるDAOには相互会社との近親性がある。英国でスマートコントラクトに関する金銭的損失からユーザーを保護することを事業とするネクサスミューチュアルは、ミューチュアルを名乗り、相互会社に似たガバナンス体系を有している。

世界各国で、相互会社の数は減ってきているが、今日の状態は、ある種、安定期に入っており、株式会社と相互会社の競合と共存が果たされている。

また、デジタル化の進展は相互会社のあり方にも大きくインパクトを与えることになりそうである。

■目次

1――はじめに
2――欧米主要国の相互会社の状況
  1|米国の状況
  2|欧州の状況
  3|その他
3――最近の相互会社の経営危機
  1|世界最古の相互会社エクイタブル(英国)の経営危機
  2|インドネシア唯一の相互会社ブミプトラ1912(インドネシア)の経営不祥事
4――相互会社に関連する新たな動き
  1|中国で新たに相互保険組織が発足
  2|新たなデジタル化 web3の中で、発足したミューチュアルを名乗る組織
5――さいごに
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松岡 博司

研究・専門分野

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