コラム
2021年01月28日

新型コロナ「特措法改正案」何が変わるのか-重点措置と過料の導入、財政支援の明記

保険研究部 常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長・ジェロントロジー推進室研究理事兼任   松澤 登

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2021年1月25日、厚生労働省HPにおいて新型インフルエンザ対策特別措置法(特措法)改正案(以下、改正法案)が掲示された1。本稿ではこれをもとに、改正法案の概要を解説することとしたい。主な改正点は図表1の通りである。
【図表1】改正法案の主なポイント
まず、①の定義の改正であるが、現在、新型コロナは法律の附則により特措法適用が行われており、時限的にのみ適用されるものとなっている。改正法案では新型コロナも定義上「新型インフルエンザ等」に含まれるものとされ、恒久的に特措法を適用できる(改正法案第2条第1項第1号)。

以下、本稿で新型インフルエンザというときは、新型コロナを含む。

②であるが、新型インフルエンザ等をめぐる差別が生じないように、国および地方公共団体(都道府県・市区町村)の情報収集・啓もう活動を義務付けるものである(改正法案第13条第2項)。新型コロナをめぐる差別により、患者の自殺や医療従事者の退職などが発生しているとの報道がある。この点、国や地方公共団体の活動だけではなく、我々自らの意識の積極的な向上も求められるであろう。

③の臨時の医療施設の設置であるが、この規定は現行特措法上、緊急事態宣言の発出を前提としている(第48条)。改正法案では、政府対策本部が設置されている間2であれば、緊急事態宣言の発出の有無にかかわらず、臨時の医療施設を設置できるとしている(改正法案第31条の2)。
 
④新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置は、今回の改正法案の柱の一つである。まん延防止等重点措置の公示と緊急事態宣言の公示(発出)にあたっての相違は、図表2の通りである。
【図表2】公示にあたってのまん延防止等重点措置と緊急事態宣言の要件
まん延防止等重点措置の公示と緊急事態宣言の公示(発出)との実質的な違いは、感染症のまん延の区域が地域にとどまるか、全国規模かだけである。これまでも都道府県独自の「緊急事態宣言」が知事により宣言されてきたが、今後は、全国的なまん延を前提とする緊急事態宣言という高いハードルを超えなくとも、地域限定の感染防止措置が行える。ただ、まん延防止等重点措置であっても、政府対策本部長(首相)の公示が必要であるため、国と都道府県の間の情報の密接な連携が求められる。

次に⑤まん延防止等重点措置として、都道府県知事が行える協力要請措置・命令を見てみる。図表3では緊急事態宣言における措置と比較している。なお、この図表は改正法案による⑥緊急事態宣言における措置を講ずべき命令および命令違反に対する過料条項の導入を反映した後のものである。
【図表3】重点措置と緊急事態宣言の措置内容
まん延防止等重点措置においては、緊急事態宣言と比べ、協力要請できる範囲と内容がかなり限定されている。改正法案を見る限りでは、飲食店などが夜間時短営業するようなケースなどに限り要請ができる(改正法案第31条の6第1項)。住民には外出自粛要請ではなく、時短営業に従わない店舗等に時間外にみだりに立ち入らないことが要請される(同条第2項、違反に対する罰則なし)。時短営業に協力をしない事業者に対しては措置を講ずるよう命令を行った(同条第3項)うえで、さらに従わない場合は30万円以下の過料を課すことができる(改正法案第80条)3。これらの要請・命令にあたっては学識経験者の意見を聞き(改正法案第31条の6第4項)、命令を行ったときは、その旨を公表することができる(同条第5項)。なお、都道府県知事には命令を出すにあたっての報告徴収、立入検査等の調査権限が認められる(改正法案第72条)。緊急事態宣言のもとで命令を出すにあたっても同様に調査権限が認められる(同条)。

このまん延防止等重点措置は、現時点(2021年1月末)で発出されている、緊急事態宣言のもとでの措置とあまり変わりがない。この改正の背景には感染拡大防止を図りつつも、経済を止めないという政策判断が背景にあると考えられる。つまり、時短営業等の要請を行う地域や業種等の範囲を限定する代わりに、時短営業等が求められる事業者にはペナルティを課すことできちんと守ってもらうということであろう。

そうだとすると、まん延防止等重点措置が導入されたのちの、緊急事態宣言はどのように位置づけられるであろうか。まん延防止等重点措置と比較すると、緊急事態宣言の下での措置には法律上の制限が少なく、さまざまな業種に対して営業停止を含む強力な措置がとれる(現行特措法第45条第2項)。さらに、改正法案では、要請される措置に協力しない事業者に、措置を講ずるよう命令することができ(改正法案第45条第3項)、命令違反に対して50万円以下の過料が課される(改正法案第79条)こととなる。したがって、仮に今後、米英のように感染爆発と言えるような状態になるおそれがあるときや、全国規模で感染抑制を強力に行う必要があるときに、緊急事態宣言が発出されるべきものと考えられる4

なお、改正法案では、命令違反に対して、刑罰である罰金ではなく、行政上の義務違反者に課される「過料」を課すものとしている。まん延防止等重点措置あるいは緊急事態宣言に基づく措置のいずれにせよ、感染症の拡大を未然に防止するための社会的な予防措置である。予防措置の実効化を期すための過料は、あくまで金銭的な負担を違反事業者に負わせるものにすぎない。またあらかじめ命令が事業者に個別に示されることを考えると、過料を科すことについてペナルティが重すぎるとは言えないと考える。
 
改正法案のもう一つの柱が、⑦事業者支援等である。国や地方公共団体5は、「新型インフルエンザ等及び新型インフルエンザ等のまん延の防止に関する措置が事業者の経営」に「及ぼす影響を緩和」するため、「影響を受けた事業者を支援するために必要な財政上の措置その他の必要な措置を効果的に講ずるもの」(改正法案第63条2第1項)とする。この条文は、一部で主張されていたような自粛要請等に対する損失補填的な文言にはなっていない。むしろ新型インフルエンザ等そのものの影響を受けた事業者に対しても財政上の支援等を行うこととしており、自粛要請等の直接的影響を受ける事業者にとどまらず、広く財政上に支援を行うものとされている。この改正法案であれば、ある程度の一律的な支援金の給付など柔軟な支援が可能になるものと思われる。

なお、同条2項では医療機関・医療関係者への支援が明記されている。これは財政的な支援にとどまらないので、人的支援や、不動産あるいは設備の貸与なども考えうる。
 
⑧は新型インフルエンザ等対策推進会議の設置である。これまでも政府行動計画や基本的対処方針の策定にあたって、「学識経験者」の意見を聞くこととされてきた(現行特措法第6条第5項、第18条第4項)。実際には、新型インフルエンザ等対策閣僚会議の下に、新型インフルエンザ等対策有識者会議が設置され、各種の政治判断にあたって専門家の意見が活用されてきた。ただ、政府と有識者会議との関係がはっきりとせず、混乱もあったようである。改正法案では、正式に法定の組織として、新型インフルエンザ等対策会議が設立され(改正法案第70条の2)、権限も上記の政府行動計画や基本的対処方針の策定への意見陳述など明確化される(改正法案第70条の3)。
 
改正法案は成立すれば、公布の日から10日経過した日から施行される(新型インフルエンザ等対策推進会議は2021年4月1日から)。

緊急事態宣言での措置は、やり方によっては、昨年4月からの宣言下でみられたように、事実上経済運営を止めてしまうこともありうる。改正法案は、緊急事態宣言の前に、影響を受ける事業者への一定の財政支援を前提として、より地域・業種を限定した感染防止対策をより強力にできる手段を与えるものと考えられる。国会での早急な審議の進行を期待したい。
 
1 そのほか、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律と検疫法の改正案も示されている。https://www.mhlw.go.jp/stf/topics/bukyoku/soumu/houritu/204.html
2 新型インフルエンザ等が発生したとき(現行特措法第14条、第15条)から、新型インフルエンザ等がインフルエンザと同程度以下の症状になるか、集団免疫を得るまでなど(現行特措法第21条)である。
3 まん延等重点措置に基づく命令違反については過料が20万円以下、緊急事態宣言に基づく命令違反については過料が30万円以下とするとの与野党合意が成立した(2021年2月1日追記)。
4 ただし、改正法案でも海外のように外出禁止まではできない。外出の自由は移転の自由(憲法23条)、ひいては表現の自由に関係するものであり、公共の利益があるという理由に基づいて、立法により私権制限ができるのかという憲法上の問題を生ずる。また、仮にこのような立法をした場合であっても、エンフォースメント(法の執行)をどうするかの問題も大きな検討課題である。
5 地方公共団体の施策には国の財政措置による支援が行われる(改正法案第70条)。
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保険研究部   常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長・ジェロントロジー推進室研究理事兼任

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

(2021年01月28日「研究員の眼」)

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