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アフター・コロナの「移動」の形とモビリティの在り方を考える~定型的な輸送業務から、高付加価値化した移動サービスへ~

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子
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1――はじめに
今後、新型コロナウイルスの治療薬が流通しても、いったん変化した生活様式や働き方が元通りになるとは考えにくい。人々の行動が元に戻らなければ、移動も元には戻らないだろう。未来の社会において、移動はどのように変容し、どのような移動サービスが求められるのだろうか。本稿では、今後の移動サービスの在り方について、事業者目線で考察していきたい。
1 「マクニカ」HPコラム (https://www.macnica.co.jp/business/maas/columns/134322/)
2 日経産業新聞2020年4月28日付
2――新型コロナウイルスがもたらした「移動」の減少
今後も人口減少は続き、2045年には、全国7割の自治体で、2015年に比べて人口が2割以上減ると推計されている3。仮にインバウンドが回復し、交通機関への需要を一部取り戻すことができても、いずれにせよ、長期的には乗客は大きく減少し続けると考えられる。
3 国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口 2018年推計」
次に、新型コロナ感染拡大後に起きた生活様式と働き方の変化のうち、移動に関連するものについてみていきたい。
ニッセイ基礎研究所が9月、全国の20~69歳の男女約2,000人を対象に実施したインターネット調査「第2回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」4によると、新型コロナウイルス感染拡大前の1月頃にべて、感染拡大後は様々なオンラインサービスの利用が増加したことが分かった。
まず買い物関連では、図表2のように、感染拡大前に比べて「スーパー」の利用が「減少」「やや減少」と回答したのは計23.7%、「増加」「やや増加」と回答したのは計12.6%で、減少層が増加層を11.1ポイント上回った。同様に、「デパートやショッピングセンター」は「減少」「やや減少」が合計42.1%、「増加」「やや増加」が合計4.5%で、減少層が増加層を37.6ポイント上回った。これに比べて、「ネットショッピング」は、「増加」「やや増加」の合計が29.3%、「減少」「やや減少」の合計が7.4%で、増加層が減少層を21.9ポイント上回った。以上のことから、実際の外出、移動を伴うスーパーやデパート、ショッピングモール等での買い物が、ネットショッピングによって一部置き換えが進んだとみることができる。
また、自宅で楽しめる動画配信サービスは「増加」「やや増加」の合計(24.6%)が「減少」「やや減少」の合計(7.6%)を17.0ポイント上回った。旅行や映画、友人との交流など、移動を伴う娯楽が、自宅で楽しめる動画配信サービスに一部置き換わった可能性を示している。
4 詳細はニッセイ基礎研究所HP(https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=65735?site=nli)。第1回調査は今年6月に実施した。
これまで述べてきたように、人口減少やデジタル化という社会の変化は従来から発生していたものであり、私たちはいずれ、交通機関の大幅な乗客の落ち込みという現象に直面していたと考えられる。いわば、十年単位でじわじわと対峙するはずだった課題が、新型コロナ発生により、突如、目の前に現れたとも言える。今後、新型コロナウイルスの治療薬が流通し、交通機関の乗客が一部戻ったとしても、人口減少とデジタル化が退行することはなく、減少した移動が元通りの水準まで回復するとは考えにくい。人々の移動は今後も、形を変えていくと考えられる。
そうであるなら、交通事業者自身も移動サービスを変化に適応させていかなければらないだろう。これまで輸送システムの核となってきた公共交通については、筆者は、今後も様々な移動サービスの土台、あるいは結節点としての役割を果たしていくと考えられることから、その骨格部分を選択と集中によって維持していくべきだと考える。しかし、それだけで今後の移動ニーズを満たすことはできないし、交通事業者自身も収益を確保していくことは困難だろう。交通事業者自身が、新しい生活様式や働き方に適応して、新たな移動サービスとビジネスモデルを模索、構築していく必要があるだろう。
(2020年11月10日「基礎研レポート」)
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03-3512-1821
- 【職歴】
2002年 読売新聞大阪本社入社
2017年 ニッセイ基礎研究所入社
【委員活動】
2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
2023年度 日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員
坊 美生子のレポート
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