2020年11月10日

アフター・コロナの「移動」の形とモビリティの在り方を考える~定型的な輸送業務から、高付加価値化した移動サービスへ~

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任   坊 美生子

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1――はじめに

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、人、モノ、サービスの「移動」が変容している。密を避けるために、人々が外出する機会が減った。代わりに新しい生活様式として、オンラインでのショッピングや交流、娯楽等が増えた。ビジネスでも、出社や出張を伴っていた仕事が、在宅勤務やzoom等を用いたオンライン会議などに置き換えられ始めている。人々が実際に外出して移動する時間、距離、回数は減った。一方で、モノを自宅に届ける宅配は、巣籠もり需要に応じて増加している。さらに、フードトラックなど、移動の機能を持たせたサービスも増加している。海外では、感染症対策としての需要に押されて、検体を輸送する自動運転車両( )や医療従事者専用のオンデマンドバスなど2、AIを用いた新しいタイプの輸送サービスも登場している。

今後、新型コロナウイルスの治療薬が流通しても、いったん変化した生活様式や働き方が元通りになるとは考えにくい。人々の行動が元に戻らなければ、移動も元には戻らないだろう。未来の社会において、移動はどのように変容し、どのような移動サービスが求められるのだろうか。本稿では、今後の移動サービスの在り方について、事業者目線で考察していきたい。
 
 
1 「マクニカ」HPコラム (https://www.macnica.co.jp/business/maas/columns/134322/)
2 日経産業新聞2020年4月28日付
 

2――新型コロナウイルスがもたらした「移動」の減少

2――新型コロナウイルスがもたらした「移動」の減少

1|交通機関の乗客の減少
新型コロナウイルスが感染拡大した後、人々の外出自粛とインバウンド消滅の影響で、各交通機関の利用は大きく落ち込んだ。国土交通省の調査によると、全国に緊急事態宣言が出されていた4~5月、JR6社と民鉄の乗客数は前年同月に比べて4~5割減少した(次ページ図表1)。一般路線バスは半減、タクシーは6~7割減となり、いずれも大幅下落となった。高速バス等に至っては9割近く減少した。緊急事態宣言解除後は少し回復したが、7月以降も2~7割減の状態が続いている。各交通事業者は経営を圧迫され、公共交通事業者の倒産も相次いでいる。
図表1 新型コロナウイルス感染拡大後の各交通機関の輸送人員の推移(前年同月比)
それでは、このような乗客の大幅な減少は、新型コロナの感染拡大がなければ避けられたのだろうか。人口減少や東京一極集中、モータリゼーションなどの影響で、従前から地方では電車やバス等の乗客は減少していた。鉄道事業者やバス事業者、タクシー事業者の倒産、撤退、路線廃止等は相次いでいた。

今後も人口減少は続き、2045年には、全国7割の自治体で、2015年に比べて人口が2割以上減ると推計されている3。仮にインバウンドが回復し、交通機関への需要を一部取り戻すことができても、いずれにせよ、長期的には乗客は大きく減少し続けると考えられる。
 
3 国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口 2018年推計」
2|生活様式と働き方の変化による移動の減少
次に、新型コロナ感染拡大後に起きた生活様式と働き方の変化のうち、移動に関連するものについてみていきたい。

ニッセイ基礎研究所が9月、全国の20~69歳の男女約2,000人を対象に実施したインターネット調査「第2回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」4によると、新型コロナウイルス感染拡大前の1月頃にべて、感染拡大後は様々なオンラインサービスの利用が増加したことが分かった。

まず買い物関連では、図表2のように、感染拡大前に比べて「スーパー」の利用が「減少」「やや減少」と回答したのは計23.7%、「増加」「やや増加」と回答したのは計12.6%で、減少層が増加層を11.1ポイント上回った。同様に、「デパートやショッピングセンター」は「減少」「やや減少」が合計42.1%、「増加」「やや増加」が合計4.5%で、減少層が増加層を37.6ポイント上回った。これに比べて、「ネットショッピング」は、「増加」「やや増加」の合計が29.3%、「減少」「やや減少」の合計が7.4%で、増加層が減少層を21.9ポイント上回った。以上のことから、実際の外出、移動を伴うスーパーやデパート、ショッピングモール等での買い物が、ネットショッピングによって一部置き換えが進んだとみることができる。
図表2 新型コロナウイルス感染拡大前と比べた買い物に関する変化
次に、飲食や娯楽関係を見ていきたい(図表3)。「飲食店の店内での飲食」は「増加」「やや増加」の合計5.5%に対し、「減少」「やや減少」が合計54.4%となり、減少層が48.9ポイント上回る顕著な落ち込みが見られた。これに対し、「オンライン飲み会」は「増加」「やや増加」の合計(8.0%)が「減少」「やや減少」の合計(6.7%)をわずかに上回った。「デリバリーサービス」は「増加」「やや増加」の合計(14.2%)が「減少」「やや減少」の合計(6.0%)を8.2ポイント上回った。以上のことから、人々が移動して外食する機会は大幅に減少したのに対し、オンラインサービスであるオンライン飲み会はわずかに増加、料理が移動するデリバリーサービスは増加したが、外食による減少を補うほどの移動回復には至っていないことが伺えた。

また、自宅で楽しめる動画配信サービスは「増加」「やや増加」の合計(24.6%)が「減少」「やや減少」の合計(7.6%)を17.0ポイント上回った。旅行や映画、友人との交流など、移動を伴う娯楽が、自宅で楽しめる動画配信サービスに一部置き換わった可能性を示している。
図表3 新型コロナウイルス感染拡大前と比べた飲食に関する変化
次に、同じ調査から、働き方の変化についてみていきたい(図表4)。「勤務先への出社」は「減少」「やや減少」の合計(22.2%)が「増加」「やや増加」の合計(8.8%)を13.4ポイント上回った。「在宅勤務などのテレワーク」は「増加」「やや増加」の合計(16.7%)が「減少」「やや減少」の合計(7.2%)を9.5ポイント上回った。テレワークの広がりや出社調整などにより、通勤という大規模で一斉の移動行動が減少したことを示している。また、新幹線利用など長距離移動を支えてきた「出張」についてみると、「減少」「やや減少」の合計(22.3%)が「増加」「やや増加」の合計(2.6%)を19.7ポイント上回った。逆に、移動なしで仕事を済ませる「オンライン会議や打ち合わせ」は「増加」「やや増加」の合計(22.4%)が「減少」「やや減少」の合計(3.1%)を19.3ポイント上回った。仕事の内容によっては、わざわざ時間とお金をかけて出張しなくても、オンラインのやりとりで済ませるビジネススタイルが広がったことを示している。
図表4 新型コロナウイルス感染拡大前と比べた働き方の変化
以上のようなオンラインサービスの利用増加とそれに伴う移動の減少は、新型コロナの感染拡大により急速にサービス供給と利用が拡大したものの、デジタル化が進めば、いずれは発生していた現象だろう。
 
4 詳細はニッセイ基礎研究所HP(https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=65735?site=nli)。第1回調査は今年6月に実施した。
3|小括
これまで述べてきたように、人口減少やデジタル化という社会の変化は従来から発生していたものであり、私たちはいずれ、交通機関の大幅な乗客の落ち込みという現象に直面していたと考えられる。いわば、十年単位でじわじわと対峙するはずだった課題が、新型コロナ発生により、突如、目の前に現れたとも言える。今後、新型コロナウイルスの治療薬が流通し、交通機関の乗客が一部戻ったとしても、人口減少とデジタル化が退行することはなく、減少した移動が元通りの水準まで回復するとは考えにくい。人々の移動は今後も、形を変えていくと考えられる。

そうであるなら、交通事業者自身も移動サービスを変化に適応させていかなければらないだろう。これまで輸送システムの核となってきた公共交通については、筆者は、今後も様々な移動サービスの土台、あるいは結節点としての役割を果たしていくと考えられることから、その骨格部分を選択と集中によって維持していくべきだと考える。しかし、それだけで今後の移動ニーズを満たすことはできないし、交通事業者自身も収益を確保していくことは困難だろう。交通事業者自身が、新しい生活様式や働き方に適応して、新たな移動サービスとビジネスモデルを模索、構築していく必要があるだろう。
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
ジェロントロジー、モビリティ、まちづくり、労働

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