コラム
2020年06月02日

超高齢社会のモビリティと道路空間を考える~「ゆっくり・安全」志向の超小型EVと専用レーンの導入を~

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任   坊 美生子

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2020年1月7日から10日にかけて、米国ネバダ州ラスベガスで開かれた見本市「CES2020」で、トヨタ自動車(以下、トヨタ)が発表した大規模プロジェクト「コネクティッド・シティ」が世界の耳目を集めた。同社が静岡県裾野市に所有している工場跡地に、IoTやAIなどの技術を駆使して、人や建物、車などあらゆるモノとサービスが情報でつながる実証都市を作るというものである。初期には、従業員やプロジェクト関係者ら2,000人程度が実際に居住し、自動運転、MaaS(Mobility as a Servive)1、パーソナルモビリティ、ロボット­­、スマートホーム技術等を導入・実証するという。都市の範囲は最終的に70.8万m2になるという。

開発と実証を迅速に行う舞台として街を丸ごと作るというスケールの大きさには筆者も舌を巻いたが、超高齢化し­た未来のモビリティを考える上で最も心を惹かれたのは、道路空間のコンセプトである。

同社によると、コネクティッド・シティでは道を以下の三つに分類し、それらが網の目のように織り込まれた街を作るという2

・スピードが速い車両専用の道として、「e-Palette」など、完全自動運転かつゼロエミッションのモビリティのみが走行する道
・歩行者とスピードが遅いパーソナルモビリティが共存するプロムナードのような道
・歩行者専用の公園内歩道のような道

筆者が着目したのは二つ目である。スピードが遅いパーソナルモビリティを、スピードが速い車両、要するに通常の自動車と分けて、走行する道を整備する点である。未来の都市の在り方として、モビリティでゆっくり走行することを道路空間の主要な利用方法の一つと位置付け、専用の道を提案している点が興味深い。
 
筆者は今後、道路空間の利用方法には大きな変化が起きると思っている。近年、自動車の走行量の減少に伴い、車線を減らして歩道を拡幅するなど、「車中心」から「人中心」へとコンセプトを変えようとする動きがある3。今後はさらに、「人」のうち高齢者層のボリュームが急拡大することに応じて、コンセプトを深化させる必要があるだろう。具体的には、高速で走る「車」と低速で歩く「人」の中間、すなわち「ゆっくり走る車」というカテゴリーを設け、専用空間を整備することである。一口に高齢者といっても運動や運転の能力には差があり、高齢者だからと言って一律に低速走行を勧めるものではないが、早く目的地に到着することよりも、ゆっくり安全な移動を優先したい高齢者は多いのではないだろうか。因みに、導入の背景は異なるが、全国で整備が進められている自転車通行空間も、速度ごとのカテゴリーで考えれば、同じグループにあてはまる。
 
そこで「ゆっくり走る車」として具体的に何が想定できるのかというと、トヨタ車体の「コムス」や日産自動車の「日産 ニューモビリティコンセプト」、ホンダ「MC-β」などの、超小型モビリティを活用することが考えられる。従来の超小型モビリティはいずれも交通の流れに乗れるように、最高時速が60㎞以上に設定されていたが、速度抑制装置を用いるなどして、これを時速30km程度で利用してはどうだろうか。

ここで超小型モビリティの概要について説明しておきたい。国土交通省の整理によると、一人乗りか二人乗り程度の電動車両で、車体は原付二輪車より大きく、軽自動車より小さい。エネルギー消費量はガソリンの6分の1程度である。道路運送車両法における車両区分は、一人乗りで定格出力0.6kW以下のものは第一種原動機付自転車、二人乗り以下で定格出力8kW­以下のものは軽自動車に分類される4。原付区分のものは個人でも購入でき、高速道路以外の公道を走行できる。軽自動車区分のものは、主に自治体や企業の実証実験向けに作られており、運輸局長から保安基準緩和の認定を受ければ、公道走行(高速道路を除く)が許可される。走行エリアは自治体が指定した区域に限られている。自動車取得税は非課税で、自動車重量税が免税となる「エコカー減税」等の対象となっている。これまで、企業が宅配や訪問看護等に利用している他、自治体による公用車としての使用、観光用などに用いられてきており、2017年11月時点の累積生産台数は8,500台に上る5

一度の充電で走行できる距離は40~10km程度。一度の充電に3~7時間かかるため、長距離移動には適していないが、全幅1.5m以下のものが多く、コンパクトで小回りが利くことから、高齢者の日常利用には適している。知事連合からも、高齢者にやさしい自動車開発のプロジェクトで、高齢者1万人超にアンケートを実施した結果として、小型の二人乗り自動車の開発・実用化が提案されており6、これにも近いものである。

今後は量産化を目指し、同省が道路運送車両法に超小型モビリティ用の新たな規格を設ける予定だ。新規格ができれば、認定を受けなくても、個人が自由に購入し、高速道路以外の公道を走行できるようになる。この新規格に合わせて、トヨタも今冬に新たな超小型EVを市場に投入する予定だ。
 
筆者は、このように期待が集まる超小型モビリティについて、最高時速30km程度に抑えると、高齢者にとってより安心して乗れる車になり、活用の幅も広がると考えている7。時速30kmは、衝突交通事故が減少し、発生した場合においても致死率がぐっと低下する値と考えられている。まず衝突事故が減少する理由は、歩行者は自動車が近づいてきたとき10m以内の距離で気が付き、自動車は走行速度が時速28kmの場合、急ブレーキをかけると10m以内で止まることができるため、衝突を回避しやすいというものである8。次に、致死率が下がる理由は、物体の運動エネルギーは走行速度の2乗に比例するため、自動車の衝突速度が遅いほど歩行者が死亡する確率が著しく低下するというものである。例えば、時速50㎞で走行する車両にはねられた場合の生存率は20%だが、時速30kmでは生存率は90%にまで上昇する9。実際には、時速30km走行でも、衝突時にはブレーキを踏むことにより走行速度がより減少している場合がほとんどであり、生存率はさらに大きく上昇する。

そこで住宅地の生活道路では、子供や高齢者の通行が多いエリアを指定し、最高速度を時速30kmに制限する「ゾーン30」が整備されてきた10

今後は、高齢者らがゆっくり安全に運転できるように、生活道路等においてゾーン30を拡充するとともに、幹線道路にも低速車両の専用レーンを設けて、低速で周遊できるネットワークを整備してはどうだろうか。冒頭のコネクティッド・シティの「歩行者とスピードが遅いパーソナルモビリティが共存するプロムナードのような道」に通じるコンセプトである。

国土交通省社会資本整備審議会道路分科会が、今後目指すべき道路政策の在り方について2017年8月にまとめた建議11の中でも、「少子高齢化や環境意識の高まりから、新たな交通手段として期待の高い低速モビリティの社会実装に向けては、走行速度に応じた車線の確保(中略)等の観点から取り組む必要がある」と指摘されている。

無論、トヨタのコネクティッド・シティのようにこれから道路を新たに建設する場合と違い、すでに全国に約130万km整備された道路に、今から新しいレーンを追加するのは非現実的である。そこで、例えば都市部では、現在整備が進められている自転車通行空間を活用してはどうだろうか。2017年3月時点の自転車通行空間の総延長は約1,700kmである12。現時点では、車道と混在して幅員が1.5m以下のものもあるが、2019年4月には原則として幅1.5m以上の「自転車通行帯」を設置促進する政令改正が行われている。これを低速モビリティにも利用可能なレーンとして、一体的に整備していく方法が考えられる。

一方で、山間部などで交通量が少ない道路においては、超小型モビリティがゆっくり走行しても後続車は追い越すことができるので、専用レーンを新設しなくても走行できるだろう。

また、現在各自動車メーカーがしのぎを削って開発に取り組んでいる自動運転についても、低速モビリティから先行させ、低速レーン限定で使用すれば、実証実験と公道走行がより早く実現すると考えられる13
 
国内の65歳以上の高齢者は2030年には3,716万人(高齢化率31.2%)、2040年には3,921万人(同35.3%)に増加すると推計されている14。高齢者が起こす交通事故は、今後増加する可能性があり、あらゆる観点から対策を練らなければならない。自動車免許を自主返納すれば、加害者となることは回避できるが、外出の機会が減って、要介護や認知症のリスクを高める恐れがある。ゆっくり安全に運転する手段と環境があれば、高齢になっても一定期間は自ら運転して外出することができ、自信を失わずに生き生きと暮らすことにつながるだろう。もちろん、視力や認知能力等は次第に衰えるものであるから、ずっと運転を続けられる訳ではないが、「運転を続けるか、免許を自主返納するか」の二択を迫る前に、本人の状態によっては「低速のモビリティに乗り換える」いう第三の選択肢を用意したいというのが筆者の願いである。

また、道路空間の再編を必要とするのは、高齢者だけではない。近年では、カーシェアリングやオンデマンドバス、相乗りタクシー、シェアサイクルなど、様々な交通サービスが生まれてきている。IoTやAIの進化によって、今後MaaSが実現すれば、ユーザーの利便性が向上し、交通サービスも拡大していくだろう。それに伴い、未来の道路空間には「車道または歩道」という単線的な機能だけではなく、EV車や電動車いすの充電スポット、交通手段の乗り換え拠点、相乗りタクシーやオンデマンドバスの停車所、低速モビリティ専用の追い越しスペース、高齢歩行者向けの休憩所、交流拠点となるカフェスペースなど、様々な機能や装置が必要となるだろう。道路ユーザーの多様化と、道路空間の多機能化である。そのとき、ユーザーの速度と流れの複雑化によって、道路空間が渋滞や閉塞を起こしたり、交通事故が増加したりしないように、まずはユーザーを速度ごとに区分し、利用できるレーンやエリアを整理しておくことが有効ではないだろうか。
 
1 IoTやAIなどの高度技術を活用し、鉄道やバスなどの公共交通から、カーシェアリングや配車サービス、駐車場まで、あらゆる交通関連サービスを統合する仕組み。ユーザーはスマホの専用アプリから目的地を入力すれば、経路の検索、予約、決済まで済ませることができる。2016年にフィンランドで始まってヨーロッパにも波及しつつあり、国内でも官民を挙げて基盤作りの検討や実証実験が進められている
2 トヨタプレスリリースより。
3 例えば大阪市では、メインストリートの御堂筋で、6車線あるうち両端の側道2車線を廃止して歩道を拡幅、自転車専用レーンを設置した。2037年を目標に、全面的に車道を廃止して緑や賑わい作りの空間とするプロジェクトが進んでいる。
4 第一種原動機付自転車区分の超小型モビリティは2000年から市販化されている。軽自動車区分の超小型モビリティは基準緩和の認定制度が創設された2013年から、条件付きで公道走行が可能になった。
5 国土交通省「地域と共生する超小型モビリティ勉強会とりまとめ」より。
6 国土交通省交通政策審議会陸上交通分科会自動車交通部会技術安全ワーキンググループ(第2回)資料より。
7 アーサー・ディ・リトル・ジャパン『モビリティ―進化論 自動運転と交通サービス、変えるのは誰か』(日経BP社)は、時速30㎞程度の低速車両のメリットについて、制動距離が短いため、自動運転でも不測の事態に対して危険を回避しやすいことの他、通常の車よりも衝突エネルギーを減らすことができるため、安全性に求められる要件を下げることが可能になる点、車両の構造が単純であるため、少額の設備投資で地域ごとのニーズに合わせた多品種・少量の車両を現地生産しやすい点などを挙げている。
8 警察庁「生活道路におけるゾーン対策推進調査研究報告書」(2011年3月)
9 内閣府「最高速度違反による交通事故対策検討会」第3回資料より。
10 警察庁HPによると、2019年度末の整備箇所は全国で3,864か所。
11 国土交通省社会資本整備審議会道路分科会「道路・交通イノベーション~『みち』の機能向上・利活用の追求による豊かな暮らしの実現へ~」
12 国土交通省「自転車の活用推進に向けた有識者会議」第1回資料より。
13 百嶋徹「自動運転とAIのフレーム問題―AIの社会実装へのインプリケーション」(当社「基礎研レポート」、2019年11月18日)においても、自動運転システムの社会実装について、複雑な道路・走行環境では、無数の想定外の事象が起きて難易度が高いため、過疎地での低速走行、都市部・市街地の一般道での優先・専用レーンの設定、スマートシティなど限定領域での実装を先行させることを提起している。
14 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口 (平成29年推計)」の出生中位・死亡中位による推計結果。
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
ジェロントロジー、モビリティ、まちづくり、労働

(2020年06月02日「研究員の眼」)

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