2020年10月12日

GoToトラベル・イートの利用意向

第2回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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6――GoToトラベル利用積極層の特徴~お金や時間に余裕のある層、不安が弱く、見通しが明るい層

最後に、現在のところ全体の21.3%を占める、GoToトラベルの『利用積極層』(「利用した/予約済み」・「具体的に検討中」)の特徴を捉える。

まず、デモグラフィック属性で見ると、利用積極層は、女性より男性、未婚の若者、既婚で子どものいないシニア・ミドル層、既婚で子どものいる比較的若い年代、居住地域は近畿地方、職業は公務員や正社員・正職員、高所得層で多い(図表6、詳細は付表1)。つまり利用積極層には、比較的、時間や経済的な余裕のある層が多いようだ。なお、利用消極層は、先に見たように、低所得層のほか、男性より女性、未婚の40歳代以上、パート・アルバイトや専業主婦で多い。
図表6 デモグラフィック属性別に見たGoToトラベルの利用積極層の割合
ところで、「感染不安と消費行動のデジタルシフト」2で見た通り、店舗での買い物などの外出行動は、感染不安との関係が深かった。よって、感染に関わる不安の強さ別に見ると、利用積極層は、感染しても適切な治療を受けられない不安や世間からの偏見や中傷への不安、感染によって仕事を失ったり、収入が減少する不安の弱い層で多い(図表7、詳細は付表2)。また、利用積極層は、今後の感染拡大の収束や経済回復への見通しを比較的明るく捉えている層で多い。つまり利用積極層は、感染によって被る不利益などへの不安が弱く、今後の見通しについても楽観的に捉えている傾向がある。
図表7 不安の強さや見通し別に見たGoToトラベルの利用積極層の割合
なお、デモグラフィック属性別に感染不安や今後の見通しの状況を見ると、利用積極層の多いデモグラフィック属性で、必ずしも感染不安が弱く、見通しが明るいわけではない。しかし、一致する部分もあり、例えば、利用積極層の多い若者では、感染しても適切な治療が受けられない不安や世間からの偏見、仕事がなくなることや収入減少に対する不安のない層が多く、感染状況の収束や日本経済の見通しを比較的明るく捉えている層が多い傾向がある(図表8)。また、同様に利用積極層の多い公務員や正社員・正職員では、治療が受けられない不安や収入減少への不安のない層が多く、感染状況の収束の見通しを比較的明るく捉えている層が多い傾向がある(図表9)。そして、世帯年収1,000~1,500万円では全体的に不安のない層が多く、感染による収入減少に対する不安のない層は高所得層ほど多い(図表10)。

一方で、利用積極層の多い、子のいないシニア層では感染に関わる不安のない層は少なく、見通しを明るく捉えているわけではない。また、公務員では感染による世間からの偏見への不安のない層は必ずしも多くなく、日本経済の見通しを明るく捉えているわけではない。
図表8 未既婚・子の有無・年代別に見た感染不安や今後の見通し
図表9 職業別に見た感染不安や今後の見通し
図表10 世帯年収別に見た感染不安や今後の見通し
 
2 久我尚子「感染不安と消費行動のデジタルシフト」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2020/8/18)
 

7――おわりに

7――おわりに~GoTo東京追加でも観光業の劇的な回復は難しいが、企業の創意工夫に期待

10月からGoToトラベルの対象地域に東京も加わり、消費者の需要喚起が一層期待される。しかし、当調査で見た通り、東京在住であることや東京が対象地域でないことを理由に利用をしていない消費者は少数であり、感染がおさまっていないことが最大の理由であった。

現在のところ、新型コロナウイルスのワクチンや特効薬は開発段階にあり、コロナ禍はしばらく続きそうだ。また、秋以降はインフルエンザとの同時流行の懸念もある。よって、GoToトラベルに東京が追加されたとはいえ、短期間での観光業の劇的な回復は期待しにくいだろう。

一方で、コロナ禍における消費者の経験値は上がっている。また、企業の創意工夫も至るところに見られるようになってきた。例えば、参加者や観光地の安心・安全を担保するためにPCR検査付きの旅行プランが登場したり、レストランではソーシャルディスタンスを保つために使わない座席にぬいぐるみを配置するなど、感染対策を楽しく実施する事例も増えてきた。今後とも、十分な感染対策のもとで、消費者の安心感が醸成されるような企業の取り組みに期待したい。

消費喚起策に期待を向ける一方、懸念されるのは低所得層だ。現在、飲食や観光など、新型コロナによって経営に打撃を受けた業種における立場の弱い労働者から、雇い止めなどの影響があらわれている3。GoToキャンペーンを利用したくてもできない、利用するどころではないという生活者も徐々に増えている。これらの層に対しては、消費喚起策とは別途、生活支援策が必要だ。「特別定額給付金」は迅速さの観点から、国民1人当たり一律10万円の給付となったが、今後は生活困窮世帯に対して、就業状況や家族構成などの各自の事情に合わせた手厚い支援策が継続的に必要だろう。

なお、本稿で用いた「新型コロナによる暮らし変化に関する調査」は継続的に実施予定であり、今後ともコロナ禍の消費者動向をタイムリーに捉えていく予定だ。
 
3 久我尚子「家計消費で見る足元の消費」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レター(2020/8/24)


 
付表1 デモグラフィック属性別に見たGoToトラベル利用状況
付表2 不安や今後の見通し別に見たGoToトラベル利用状況
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

(2020年10月12日「基礎研レポート」)

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