コラム
2020年08月28日

ワーケーションが秘める多様な可能性-非日常な場所でのテレワークとしてのワーケーションを考える

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

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新型コロナウイルス感染症の終息が見通せないなか、「ワーケーション」への世間の関心が飛躍的に高まっている(図表 1)。テレワーク1の拡大により可能になった、三密を回避した新しい働き方・旅行のスタイルの1つとして、政府も2020年7月の観光戦略実行会議において、ワーケーションの普及に取り組む方針を示している。
図表 1:日本のメディアで「ワーケーション」について報道された回数
ワーケーションとは、「仕事(Work)」と「休暇(Vacation)」を組み合わせた造語である。語源から考えると、ワーケーションは休暇を取得している期間に一定の仕事をすることを指す。しかし、日本においては、ワーケーションが働き方改革の一環として導入された経緯があり、リゾート地などで業務や研修を行うことや、業務出張の前後に滞在期間を延ばすなどして観光を楽しむブリージャー2も、広義のワーケーションとして捉えられている3。そのため、日本におけるワーケーションは、新しい旅行のスタイルとしてよりも、多様な働き方を可能にするテレワークの一種と捉えた方がわかりやすいかもしれない。テレワークの場所が自宅であれば在宅勤務、非日常な場所であればワーケーションであると解釈できる。そこで、「非日常な場所におけるテレワーク」としてワーケーションを定義した上で、様々なワーケーションの類型を整理したい(図表 2)。
 
まず、ワーケーションは、「旅行目的型」と「仕事目的型」に分類できる。旅行目的型は、非日常な場所に赴いて、旅行を楽しむことをワーケーションの主な目的とする。一方、仕事目的型は、非日常な場所に行くことはあくまでも手段であり、ワーケーションの目的は仕事をすることである。
 
旅行目的型ワーケーションには、休暇取得を伴う「休暇活用型」と、休暇取得を伴わない「休暇非活用型」がある。「旅行目的型×休暇活用型」は、休暇中に重要な会議が急遽入った場合や、長期休暇を取得するために、休暇中の旅行先で一定の仕事をすることである。また、「旅行目的型×休暇非活用型」は、テレワークの普及により、休暇を取得せずに、仕事をしながら、期間を問わずに旅行をすることである。日本各地の住宅や宿泊施設を定額で利用できるサブスクリプションサービスが拡大しており、すでにフリーランスやギグワーカ―と呼ばれる人々の中には、このような旅行を楽しむ人もいる。また、企業に勤める社員も、ユニリーバ・ジャパンのように働く場所や時間を社員が自由に選べる企業4が増えていけば、このような新しい働き方・旅行のスタイルを楽しむことが可能になるかもしれない。
 
一方、仕事目的型ワーケーションには、非日常な場所で缶詰めになる「集中型」と社内外の交流や新しい体験などをする「交流型」がある。「仕事目的型×集中型」には、川端康成など多くの文豪が作品を執筆するために温泉旅館に籠ったように、非日常な場所で集中力や発想力を要する業務を行うものである。また、米マイクロソフトの共同創業者であるビル・ゲイツは、年に2回ほど、「Think Week(考える週)」という1週間を設け、日常業務から離れ、外部との連絡を絶ち、別荘などで読書をしたり、自分の夢を見直したり、長期的な構想を練る時間を過ごすという。このように業務に直結することはないが、インプットや深い思考を行うためのワーケーションもあり得る。さらに、会社の複数人がリゾート地で集中的に作業を行い、商品の開発や改善を行う、開発合宿なども想定される。「仕事目的型×交流型」には、オフサイトミーティングやチームビルディング、研修など、普段の職場から離れて、非日常な環境でコミュニケーション活性化や課題解決に取り組むものがある。また、業務に直結しないものの、地域住民との交流や文化体験などのアクティビティ、ボランティアなどのCSR活動などに重点を置くものもある。なお、ブリージャーもこの分類に含めることができるだろう。
図表 2:ワーケーションの類型
このように「非日常な場所におけるテレワーク」であるワーケーションは、多様な可能性を秘めていることがわかる。また、次稿で紹介するように、ワーケーションのメリットは、企業や観光業、地方自治体など多方面において期待されている。これまでは仕事とプライベートを切り分けて考えるワーク・ライフ・バランスが重視されてきたが、今後はテレワークの拡大に伴い、ワーク・ライフ・インテグレーションを有効に進めていくことが重要になる。コロナ禍により普及した在宅勤務から、次はワーケーションが発展していくことで、多様な働き方が可能になっていくことを期待したい。
 
1 一般社団法人日本テレワーク協会によれば、テレワークは「tele:離れたところ」と「work:働く」を合わせた造語で、ICT技術を活用して、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことを指す。
2 ブリージャーは、ビジネス(Business)にレジャー(Leisure)を組み合わせた造語で、業務出張の前後に滞在を延ばすなどして、観光を楽しむもので、仕事以外の時間に家族や友人と合流して楽しむことを含む
3 田中・石山恒貴(2020)
4 ユニリーバ・ジャパンは、働く場所・時間を社員が自由に選べる人事制度である「WAA」(Work from Anywhere and Anytime)を2016年7月に導入している。

参考文献
  • 笠田 伸樹(2019)「多様なワーケーションを推進しよう」、『MRIマンスリーレビュー2020年5月号』、三菱総合研究所
  • 田中敦・石山恒貴(2020)「日本型ワーケーションの効果と課題(前編)」『TRAVEL JOURNAL』、2020年5月4-11日号、pp.24-29
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2020年08月28日「研究員の眼」)

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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

経歴
  • 【職歴】  2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)  2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX)  2015年9月 ニッセイ基礎研究所  2019年1月 ラサール不動産投資顧問  2020年5月 ニッセイ基礎研究所  2022年7月より現職 【加入団体等】  ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター  ・日本証券アナリスト協会検定会員

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