コラム
2020年07月14日

Go To Travelによるワーケーションのすすめ-感染防止と両立したウィズ/アフターコロナの働き方を体験する旅を

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

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観光・宿泊業は、新型コロナウイルスの感染拡大により甚大な影響を受けた産業の一つである。2020年5月の日本の延べ宿泊者数は前年同月比▲84.8%、うち日本人は▲81.6%、うち外国人は▲98.6%の減少となった。国内のホテルや旅館の稼働状況は壊滅的な状況である(図表 1)1
図表 1:2020年の日本の延べ宿泊者数の推移(前年同月比)
コロナ禍により急減した日本の観光需要を喚起するために、4月7日に閣議決定された「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」に盛り込まれた施策が「Go To Travel」キャンペーンである2
 
2020年7月10日に公表された観光庁の資料「Go To トラベル事業」によれば、Go To Travelキャンペーンの主な内容は図表 2の通りである。
図表 2:Go To Travelキャンペーンの概要
今回のGo To Travelキャンペーンのポイントは下記の通りだ。
 
  • 国内旅行を対象に旅行代金の50%相当額を支援
  • 上記50%相当額のうち35%を旅行代金割引、15%を旅行先で使える地域振興クーポンとして付与
  • 支援額の上限は1人1泊あたり2万円(日帰り旅行も支援対象で、その場合1万円が上限)
  • 連泊回数や利用回数の制限はなし
  • 既に予約した旅行についても旅行後の申請により割引分を還付
  • 地域振興クーポンは旅行先の都道府県と隣接都道府県で旅行期間中のみ使用可
 
ただし、地域振興クーポンの事業開始に準備を要するため、同キャンペーンは下記2段階に分けて実施される。第1段階の開始が2020年7月22日となり、本格運用となる第2段階の開始日は2020年9月1日以降に公表される予定である。
 
  • 第1段階: 35%支援(35%の旅行代金の割引のみ実施)
  • 第2段階:50%支援(35%の旅行代金の割引+15%地域振興クーポンの付与)
 
団体旅行と個人旅行の双方で、旅行代理店や予約サイトなどを経由して宿泊と交通機関等がセットとなったパック旅行を申し込めば、宿泊と交通機関等が割引対象となる。個人旅行の場合は、宿泊施設から直接予約することもできるが、その場合は宿泊のみが割引対象となる。また、日帰り旅行の場合は、旅行代理店や予約サイトなどを経由して申し込む必要があり、往復の交通と旅行先での食事や観光体験などがセットになったパック旅行を割引の対象としている。
 
ところで、コロナ禍で定着しつつある新しい行動様式が在宅勤務(Work From Home)である。今回初めて在宅勤務を経験し、そのメリットを実感した方も多いだろう。そして、在宅勤務の次に試したい働き方が「ワーケーション」である。ワーケーションとは「働く(Work)」と「休暇(Vacation)」を組み合わせた造語だ。つまり、わざわざリゾート地までいって働くのである。もちろん働くだけでなく、リゾートならではの観光や食事も楽しむ。在宅勤務の一歩先にある働く場所や時間にとらわれない働き方の一つである3
 
ワーケーションという働き方自体は目新しいものではない。三菱地所が2018年8月に和歌山県の南紀白浜でワーケーションオフィスの開設を発表し4、2019年5月にオープンするなど5、大手デベロッパーがすでに事業を展開していた。しかし、在宅勤務と同様にそのメリットは理解されながらも、社会全体に普及するには至っていなかった。
 
ワーケーションには平日に仕事を休まずとも、家族や友人と旅行する時間を確保できるというメリットがある。また、開放的な雰囲気で仕事をすることでクリエイティブな発想が生まれるかもしれない。川端康成など多くの文豪が作品を執筆するために温泉旅館に籠ったことを考えれば、ホテルや旅館は缶詰めになって仕事をするにも悪くない場所のはずだ。観光・宿泊業から見れば、ワーケーションには観光・宿泊需要を休日と平日、ピークとオフピークで均等化するというメリットが期待される。
 
もっとも、国内の新型コロナの感染状況は予断を許さない状況が続いている。東京都の新型コロナウイルス感染症の新規感染者数は7月12日に206人と、4日連続で200人超となっている(図表 3)。感染拡大防止と経済を両立させる、ウィズコロナの時代における旅行の在り方が求められている。
図表 3:東京都の新型コロナウイルス感染症新規患者に関する報告件数の推移
一つの方法として参考になるのが、星野リゾートが提唱する「マイクロツーリズム」である。自宅から30分~1時間ほどの距離の近場で過ごす旅のスタイルだ6。これまでの日常においては、帰宅可能な距離での外出でホテルや旅館に宿泊することは一般的ではなかったが、コロナ禍という非日常が長期化した現在においては、感染拡大に留意しながら旅行を楽しめる新たなスタイルとして注目される。いわば、コロナにより狭まった行動範囲の中で、ちょっとした贅沢を楽しみ、生活に彩りを加える新しい形である。そこで、感染者が多い地域などにおいては、自宅から少し離れたホテルや旅館で「マイクロ・ワーケーション」を試す手もある。テレワーク向けの宿泊プランを提供するなど、マイクロ・ワーケーションができる環境の整った都市型ホテルも増えている7。コロナ禍の出口がなかなか見えない今だからこそ、ウィズ/アフターコロナにおける新しい働き方を試す旅、ワーケーションに出てみてはいかがだろうか8
 
1 なお、2019年の延べ宿泊者数にしめる日本人の割合は81%、外国人は19%である。
2 他にも「Go to Eat」「Go to Event」「Go to 商店街」など、ヒトの流れが止まったことで甚大な打撃を受けた、飲食業やイベント・エンターテイメント業界、商店街の消費を喚起する施策も今後開始される予定である。
3 在宅勤務はオフィスと自宅の境界線を曖昧にした。例えば、仕事の合間に家事をするなど、「ワーク・ライフ・インテグレーション」を一歩進めた。ワーケーションはオフィスとリゾートの境界線を曖昧にし、仕事と生活に一層の統合をもたらすだろう。
4 三菱地所「三菱地所が和歌山県・白浜町においてワーケーション事業に参画~テナント企業の多様な働き方を支援~三菱地所・和歌山県・白浜町の 3 者で進出協定を締結」(2018年8月8日)
5 三菱地所「テナント企業の多様な働き方を支援するワーケーションオフィス「WORK×ation Site南紀白浜」が本日開業~今後の需要を見据え、2019 年度中に新たな「WORK×ation Site」の 3 拠点新設を企図~」(2019年5月7日)
6 星野リゾート「【星野リゾート】星野リゾートが提案する「マイクロツーリズム」~地域の魅力を再発見し、安心安全な旅 Withコロナ期の旅の提案~」(2020年5月29日)
7 JTBの宿泊予約サイトによれば、東京都で「テレワーク・リモートワーク向け」の宿泊プランを提供するホテルや旅館、宿は101件ある(2020年7月13日検索時点)。
8 Go To Travelキャンペーンを利用するにあたっては、旅行先の最新状況確認やマスク着用などの「新しい旅のエチケット」 を心がける、新型コロナウイルス接触確認アプリ(CoCoA)をスマホにインストールするなど、感染防止に努めることが欠かせない。
 
 

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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

経歴
  • 【職歴】  2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)  2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX)  2015年9月 ニッセイ基礎研究所  2019年1月 ラサール不動産投資顧問  2020年5月 ニッセイ基礎研究所  2022年7月より現職 【加入団体等】  ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター  ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2020年07月14日「研究員の眼」)

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