2020年08月24日

ウィズコロナ時代における高齢家族と同居する人の不安・行動の変化

第1回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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新型コロナウイルス感染症は6月半ば以降、再流行を続けている。

再流行開始当初は、無症状や軽症の若年の陽性者が増えているとされていたが、最近では、高齢の感染者が増えていると報じられており、重症者の増加が懸念されている。お盆の実家への帰省や旅行において、高齢者に感染を広げないための注意が呼び掛けられているが、経済活動を期待されている現役世代と高齢者が同居している場合も少なくない。

そこで、本稿では、高齢家族と同居する人のコロナに対する不安や日常生活における制約の現状を分析する。分析に使用したのは、ニッセイ基礎研究所が6月に行った「第1回新型コロナによる暮らしの変化に関する調査1」である。
 
1 2020年6月26~29日に実施。インターネット調査。対象は、全国に住む20~69歳の男女(株式会社マクロミルのモニタ)。有効回答2,062。
 

1――高齢家族と同居する人は1割程度

1――高齢家族と同居する人は1割程度

図表1 高齢家族をもつ人の割合 今回の調査対象は20~69歳である。現在、新型コロナのリスクが特に高いと考えられているのはおおむね70歳以上であることから、本稿では、45歳以上の回答者の親(義親を含む)、または全回答者の祖父母を「高齢家族」と定義した。

この定義による高齢家族と同居している人の割合は全体の10.9%、同居はせず、高齢家族と別居している人の割合は49.3%だった(図表1)。同居する10.9%のうち、10.3%は別居する高齢家族がおらず、0.6%は同居する高齢家族も別居する高齢家族もいる。年齢別にみると、40~50歳代では、15%以上が同居する高齢家族をもつ。地域別にみると、幸いなことに、現状で相対的に感染が広がっていない東北地方で高齢者と同居している割合が高い。





 

2――高齢家族と同居する人の不安と日常生活の変容

2――高齢家族と同居する人の不安と日常生活の変化

1|高齢家族と同居する人の不安は多岐にわたる
高齢家族と同居する人にとって不安なことは、家庭に新型コロナウイルスを持ち込むこと、生活リズムが変わること等によって高齢家族が別の要因で体調を壊すこと、運動不足やコミュニケーション不足によって身体機能や認知機能が低下することなど多岐にわたると考えられる。また、高齢家族との自粛生活は、子どもとの自粛生活とはまた異なったストレスがあると推測される。

そこで、まず、高齢家族の存在や同居・別居の別が、新型コロナに関する各種不安の有無に影響しているかどうかを分析した。新型コロナや自粛生活における不安は、性・年齢のほか、地域や収入、家族構成など多くの要因が関連すると思われることから、被説明変数は各種不安の有無、説明変数は高齢家族との同居・別居状況のほか、性、年齢、未既婚、子どもの有無、居住する都道府県、世帯収入として、多重ロジスティック回帰分析を行った。説明変数間の相関係数は中程度以下であり、多重共線性の問題はないと考えた。

その結果、高齢家族と同居する人は、高齢家族の生活の維持、老化や身体機能の低下、コミュニケーションの機会の減少による認知機能の低下、介護サービスなどの利用による感染リスクといった、高齢者特有の項目で特に不安を感じているのは当然のこと、自分や家族の感染、適切な検査や治療を受けること等、感染そのものへの不安も、高齢家族を持たない人と比べて不安を感じる傾向があることがわかった。

さらに、高齢家族と同居していると、家族と一緒に過ごす時間が増えることで、ストレスが溜まることへの不安を感じているほか、店舗での買い物、通院、理美容院など日常的なサービス利用にも不安を感じる傾向があった。

一方、別居する高齢家族がいる場合は、検査や治療に対する感染そのものへの不安、高齢者特有の不安は感じていたが、店舗での買い物、通院、理美容院の利用での不安は、高齢家族を持たない人と大きな差はなかった。
図表2 不安の有無と高齢家族との同居・別居(高齢家族をもたない人との比較)
2|介護サービスの利用が減り、介護・看護時間が増加。高齢家族と同居する人では、家族や自分の通院も減らす傾向
つづいて、高齢家族の存在や同居・別居の別が、行動変化に影響しているかどうかを分析した。図表3では、各種行動の実施が1月頃と比べて減っているかどうかを被説明変数とする多重ロジスティック回帰分析を行った結果を示す。

その結果、高齢家族と同居している人は、高齢家族のディサービスやショートステイといった介護サービスの利用のほか、家族や自分の通院も減らしていた。図表2で示したとおり、高齢家族と同居する人は、理美容院の利用や店舗での買い物、外食へ不安を感じる傾向があったが、実際の行動では、高齢家族をもたない人と差はなかった。スーパーでの買い物をはじめ、不安があっても、日常生活の維持のためには、実施せざるを得ないからだろう。
図表3 減った行動と高齢家族との同居・別居(高齢家族をもたない人との比較)
また、図表4では、行動時間が1月頃と比べて増えているかどうかを被説明変数とする多重ロジスティック回帰分析を行った結果を示す。

その結果、高齢家族と同居する人の「介護・看護時間」は増加していた。図表3で、ディサービスやショートステイ等のサービスの利用を控えた分、家族でケアすることが増えた可能性がある。

また、睡眠時間、家事時間、交際時間等の基本的な生活時間に変化はないが、高齢家族を持たない人と比べて「家族と過ごす時間」が増えている傾向があった。
図表4 増えた行動と高齢家族との同居・別居(高齢家族をもたない人との比較)

3――どうやって高齢家族を守り…

3――どうやって高齢家族を守り、高齢家族と同居する人の経済活動を後押しすればいいのか

1|結果のまとめ
本稿では、高齢家族を持つ人の新型コロナや新型コロナにともなう新しい生活における各種不安や行動の変化を、高齢家族を持たない人と比較した。

その結果、高齢家族を持たない人(同居も、別居もしていない人)と比べて、高齢家族をもつ人は、同居・別居いずれも高齢家族の生活の維持、老化や身体機能の低下、コミュニケーションの機会の減少による認知機能の低下、介護サービスなどの利用による感染リスクといった、高齢者特有の項目で特に不安を感じているのは当然のこと、自分や家族の感染、適切な検査や治療を受けること等、感染そのものへの不安も、高齢家族を持たない人と比べて不安を感じる傾向があることがわかった。さらに、高齢家族と同居している人は、別居している人や高齢家族を持たない人と異なり、家族と一緒に過ごす時間が増えることで、ストレスが溜まることへの不安を感じているほか、店舗での買い物、通院、理美容院など日常的なサービス利用にも不安を感じていた。

また、新型コロナ感染拡大にともなって、1月頃と比べて行動にどのような変化があったか分析した結果、高齢家族と同居している人は、高齢家族のディサービスやショートステイといった介護サービスの利用のほか、家族や自分の通院も減らしている傾向があった。ディサービスやショートステイ等のサービスの利用を控えた分、家族でケアすることが増えた可能性がある。また、高齢家族と同居している人は、理美容院の利用や店舗での買い物、外食へ不安を感じる傾向があったが、実際の行動では、高齢家族をもたない人と差はなかった。不安があっても、日常生活の維持のためには、実施せざるを得ないからだろう。睡眠時間、家事時間、交際時間等の基本的な生活時間に変化はないが、高齢家族を持たない人と比べて「家族と過ごす時間」が増えていると感じており、ストレスも多いことが推測できた。
2|得られた示唆
新型コロナウイルスに感染した場合、多くが無症状あるいは軽症であるのに対し、高齢者や高血圧や糖尿病等の基礎疾患がある人で重症化しやすいとされている2。東京都が公表した年齢別死亡率は、80代以上で3割を超えるとされ、高齢者にとっては、感染したら死を覚悟しなくてはいけない感染症だ。ところが、現状では、手洗いの徹底、換気、他人と距離を保つこと、人混みを避けることぐらいしか予防法がなく、多少の体調不良では、すぐに検査が受けられるとは限らない。

一方で、多くが軽症であることから、感染拡大そのものはある程度許容されており、経済活動の再開も喫緊の課題とされている。感染が特に拡大している地域を除いて日々の経済活動や旅行も、高齢者に感染を広げないことを留意しつつ、基本的な感染症対策をとれば、実施可能との判断がなされている。

現在、子どもの保育園閉園や学校の休校にともない、各企業の、子を持つ親への勤務場所・時間の緩和対応は進んでいるようであるが、高齢者と同居する人への対応も必要だろう。

また、高齢者やリスクの高い基礎疾患を有する人を家族に持つ人についても、経済活動が期待されているが、彼ら自身はリスクの高い人と同居していることで、多くの不安やストレスを感じている。8月になって、介護施設等で働く職員に対して、定期的にPCR検査を実施することを公表する自治体が出てきたが3、PCR検査については、その精度や保健所・医療機関等の負担が課題となって、依然として受けにくい状態が続いている。しかし、経済活動を進めつつ、重症者を増やさないためには、やはり重症化リスクが高い人やその周辺の人を積極的に検査し、感染をなるべく早い段階でとらえる必要があると思われる。重症化リスクの高い人やその周辺の人への対策を強化することが、経済活動を後押しすることにもなるのではないだろうか。
 
2 厚生労働省「新型コロナウイルス感染症への対応について(高齢者の皆さまへ)」等https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/yobou/index_00013.html
3 例えば、東京都千代田区では8月6日以降、重症化リスクの高い高齢者への感染予防として、区内介護施設等の職員全員を対象に独自にPCR検査を実施することを公表している(https://www.city.chiyoda.lg.jp/koho/kuse/koho/pressrelease/r2/r208/20200805.html
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

(2020年08月24日「基礎研レポート」)

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