NEW
2025年06月06日

生命保険の基礎知識はなぜ定着しないのか

基礎研REPORT(冊子版)6月号[vol.339]

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

文字サイズ

1―はじめに

生命保険に関する情報は、マス広告のほか、保険会社からの情報、あるいは友人・知人を通じたクチコミなどから得ることが多い。最近では、情報の多くがインターネット上の資料やクチコミ情報に依存していると考えられる。

インターネットでは、自分が関心を持っていることをより詳しく調べることは容易であるが、知らないことや間違って覚えてしまっていることに気づく機会はあまりない。また、SNSなどで消費者が話題にしている情報には偏りがある可能性がある。

2013年の「消費者調査にみる医療保険に関する誤情報~医療保険に関するクイズ正答率の分析*」では、消費者インタビューから、一度生じた誤解が訂正される機会が少なく、そのまま放置される傾向にあると伺えることを指摘した。

本稿では、インターネットによる情報利用が更に活発になったと思われるその後10年ほどの状況を紹介する。
 
* 村松容子「消費者調査にみる医療保険に関する誤情報~ 医療保険に関するクイズ正答率の分析」
 ニッセイ基礎研究所 基礎研レター(2013年7月11日)
 https://www.nli-research.co.jp/files/topics/40870_ext_18_0.pdf?site=nli

2―生命保険に関する知識

1|クイズの正答率は低下傾向
ニッセイ基礎研究所の「生保マーケット調査」では、生命保険の基本的な仕組みに関する設問をクイズ形式で実施し、回答傾向を分析している[図表1]。
[図表1]クイズの加入者/非加入者別 クイズの正解率の推移
2024年の調査で、最も正答率が高かったのは「(2)医療保険やがん保険などでは、病気の種類や病状によっては、保険金・給付金が受け取れない場合がある」で、加入者73.0%、非加入者38.5%だった。一方、最も低かったのは「(1)定期保険は保障期間満了時に満期金を受け取れる」で、加入者27.8%、非加入者11.0%だった。時系列でみると、この10年ほどで、正答率は低下傾向にあることが確認された。

誤答率をみると「(1)定期保険は保障期間満了時に満期金を受け取れる」は加入者で35.2%、非加入者で19.8%と、それぞれ正答率を上回った[図表2]。時系列では、加入者においては誤答率が上昇傾向にある質問もあった。
[図表2]クイズの加入者/非加入者別 クイズの誤答率の推移
2|生命保険や損害保険についての知識を持っている人では誤答も多い
「生命保険や損害保険についての知識」の自己評価別にみると、「知識がない」と自己評価する層では「わからない」と回答する率が高く、誤答率は低い。一方で、「知識がある」とする層では、正答率も誤答率も高い傾向にある[図表3]。
[図表3]「生命保険や損害保険についての知識」の自己評価別正答率(2024年調査)

3―おわりに

この10年で、インターネットや保険ショップ、比較サイトの普及により、生命保険等に関する情報の入手は容易になった。しかし、基本的な仕組みの理解は改善していなかった。

2022年4月より金融教育が義務化された。授業で他の学生の疑問を共有したり、他の学生の意見を聞くことで、視野が広がる可能性があることが、インターネットによる独学との違いだろう。生命保険を含めて、金融商品への関心が高まり、消費者がより適切に生活設計やリスク管理ができるようになることを期待したい。
 
* 村松容子「消費者調査にみる医療保険に関する誤情報~ 医療保険に関するクイズ正答率の分析」ニッセイ基礎研究所 基礎研レター(2013年7月11日)
 https://www.nli-research.co.jp/files/topics/40870_ext_18_0.pdf?site=nli

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年06月06日「基礎研マンスリー」)

Xでシェアする Facebookでシェアする

保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

週間アクセスランキング

ピックアップ

レポート紹介

【生命保険の基礎知識はなぜ定着しないのか】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

生命保険の基礎知識はなぜ定着しないのかのレポート Topへ