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スマホ時代の動画視聴の3つの特徴-好きなときに、好きなモノを、好きなように-

生活研究部 研究員 廣瀬 涼
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1――はじめに
1 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r01/html/nd232110.html
2 https://www.moba-ken.jp/project/others/ownership03.pdf
3 https://mmdlabo.jp/investigation/detail_1844.html
2――スマートフォンと動画
3――スマホ時代の動画視聴における3つの特徴-「好きな時に」、「好きな物を」、「好きなように」
しかし、スマートフォンの登場により、我々のコンテンツとの向き合い方は大きく変化した。通勤通学中に、サブスクリプションサービスを用いて映画やドラマを視聴したり、YouTubeのような動画視聴サイトを使用することは一般的になっている。テレビが動画視聴の中心であった時代では、視聴場所、時間に制限があり、前述した通り視聴者が媒体(テレビ)に合わせる必要があったが、スマートフォンによる動画視聴は視聴者が主体であり、「好きな時に」、「好きな物を」、「好きなように」見ることができるのである。この変化に伴い、コンテンツ視聴に対する意識が、特に若者世代で大きく変化しているようである。以下では、「好きな時に」、「好きな物を」、「好きなように」の3つのスマホ時代の動画視聴の特徴について考えていく。
まず「好きな時に」であるが、スマートフォンという媒体のおかげで我々は、時間と場所に制限されることなく動画が視聴可能となり、文字通り好きな時に動画を楽しむことができる。好きな時に視聴できるということもあり、通勤通学、休み時間、待ち合わせ中などの隙間時間に視聴されることも多い。このような背景から昨今“コンテンツの短尺化”の傾向がみられる。動画視聴サイトといえばまず、YouTubeが想起されるのではないだろうか。2018年前後ではYouTubeに投稿される動画が長尺化し、テレビ番組化が加速するといった傾向も見られたが、近年では動画の短尺化の傾向が強い。実際に動画の収益化に対する規約も変化しており、例えば動画の最中にCMを入れる「ミッドロール広告」は、従来は10分以上の動画が対象であったが、2020年7月から8分以上の動画が対象となった。明確な理由は述べられてはいないが、視聴者が短尺のコンテンツをすすんで視聴していることが要因であると筆者は考えている。前述した通り、隙間時間に動画が消費されるようになったことで、動画の尺(長さ)が動画選択時に考慮されているようなのである。YouTubeにおいては、動画選択時のサムネイルに動画の長さが表記されている。通学中の電車や休み時間等決められた時間の範疇で終わる動画を選択していると仮定すると、長すぎる動画は敬遠される。視聴者が意識しているか否かは別として、動画視聴を終わらせるタイミングを考慮に入れコンテンツを選択するという点は、テレビ視聴の性質と大きく異なる点と言えるだろう。
また、そもそも尺の短い動画が若者に好まれる土壌は以前から作られていた。2017年にサービスを終了した動画視聴アプリ「Vine」は、6秒間ループされる動画を投稿できるサービスであり、2014年のデータではあるが「Vine」の認知度は10代で22.5%、20代で6.5%、30代で4.2%と、他の世代と比較して10代の認知度が高かった。以前紹介したKemio4や人気YouTuberの大関れいか、ブライアンは、このアプリ出身であり、彼らは現在もVineとは異なる媒体で短めのネタやいくつものネタをまとめた動画のスタイルで、若者からの支持を得ている。Vineのサービスが終了した後も、昨今ではTiktok(動画投稿の長さが最大15秒5)という違った形で短い動画が次々と消費されている。YouTubeにしても、他の動画アプリにしても端的に、そしてわかりやすく快楽(楽しさ)を得ることが求められているのかもしれない。
次に「好きな物を」であるが、様々な動画サブスクリプションの登場により、例えば洋画好きなら「Netflix」、スポーツなら「DAZN」といったように自身の好きなジャンルの動画を見ることが可能となった。フィールドワークスと映像メディア総合研究所の「映像メディアユーザー実態調査2020」6によると、Amazon PrimeやNetflixといったSVOD(定額制見放題)の利用率は18.2%であり、前年比で約4ポイント増加していたという。定額制で好きなモノを選んで視聴するという消費スタイルが定着しつつあると言えるだろう。しかし、これはテレビにおいても、以前よりケーブルテレビのように専門チャンネルが存在していたため、スマートフォンにおける動画視聴の特性とは言えない。それでは、従来のケーブルテレビと比べて、なぜWEB動画の普及が急速にすすんだのであろうか。
スマホ時代の動画視聴ではSNSの担う役割が多く、例えば若者においては、Twitterで自身の興味のあるカテゴリーごとにアカウントを作成することが一般的であり、Twitterのタイムラインには常に誰かが投稿した自身の興味あるジャンルの動画がリアルタイムに流れていくのである。2018年のデータではあるが、モバーシャル株式会社の「2018年スマートフォンの動画視聴実態調査」をみると、動画視聴のプラットホームとして、Twitterが25.3%(2016年8月:11.2%)、Instagramが22.3%(2016年8月:6.0%)と2割以上がSNSを動画視聴のプラットホームとして捉えていることがわかる。同調査では、Web動画を視聴するきっかけにおいて、SNSを経由して視聴する人が、2016年8月(11.2%)より約3倍増加(29.9%)していることがわかっており、SNSをきっかけにWeb動画を視聴する傾向が高まっていると言えるだろう。
しかし、冒頭で述べた通り、スマートフォンの保有率が6割を超えた現代においては、スマートフォンという環境に合わせたサイズのコンテンツが好まれるようになってきたとしても不思議ではない。2016年のデータではあるが、スマートフォンによる動画撮影で「タテ向き」で撮影する割合は、20代で67.9%、30代で64.8%、40代で55.6%、50代で50.7%となっており、若年層になるほど「タテ向き」の傾向が高かった。現代においては、スマホネイティブであるZ世代(1996年~2012年に生まれた世代)のスマホ保有率も増え、この傾向はより強くなっていると考えられる。
タテ向きでの撮影、視聴が好まれる理由は、向きを変えるという手間が省けるという点だけでなく、画面占有率が大きく影響している。前述した通り、スマートフォンをタテ向きで使用する際にヨコ向きの動画を視聴すると無駄な余白が生まれてしまう。タテ向きのコンテンツではスマートフォンのスクリーン全体に動画が映し出されるため、コンテンツへの没入感が高まると考えられる。
このような背景から、10代~30代の若年層では、「タテ動画」の動画配信(投稿)のプラットホームが支持されている。まず、TikTokを例に挙げると、動画の多くはタテ動画で占められており、「上下」にスワイプすることで別の動画が再生されるなど、タテ向きで使用することを意識したユーザーインターフェイスになっている。Instagramにおいては2016年に開始された「ストーリー」機能が人気を博している。ストーリーとは、通常の投稿(タイムライン)とは別に、より日常的な写真や動画の投稿、ライブ配信が行える機能である。インスタグラム利用者の約70%が利用しており、1日700万件がシェアされている。投稿されるものはタテ向きフルスクリーンで表示されるため、投稿されるコンテンツはタテ向きに撮影されるものがほとんどである。YouTubeにおいてもタテ向き動画の流れは伺える。第62回グラミー賞を受賞したZ世代から絶大な人気を博しているBillie Eilish(ビリー・アイリッシュ)は、「タテ型のミュージックビデオ」をアップロードしており、中でも『You should see me in a crown』は2020年8月現在で2億回再生されている。
4 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=63927?site=nli
5 複数の動画をつなぎ合わせることで、最大60秒間の録画が可能
6 https://www.bcnretail.com/market/detail/20200310_161741.html
7 https://www.pewresearch.org/internet/2018/11/07/many-turn-to-youtube-for-childrens-content-news-how-to-lessons/
8 https://pc-plaza.com/pc-monitor-aspect-ratio/
4――「好きなように」がもたらす懸念
(2020年08月13日「基礎研レポート」)

03-3512-1776
- 【経歴】
2019年 大学院博士課程を経て、
ニッセイ基礎研究所入社
・公益社団法人日本マーケティング協会 第17回マーケティング大賞 選考委員
・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員
【加入団体等】
・経済社会学会
・コンテンツ文化史学会
・余暇ツーリズム学会
・コンテンツ教育学会
・総合観光学会
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