2020年08月13日

スマホ時代の動画視聴の3つの特徴-好きなときに、好きなモノを、好きなように-

生活研究部 研究員 廣瀨 涼

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1――はじめに

「令和元年度情報通信白書」によると、個人の「スマートフォン」の保有者の割合が64.7%であった1。また、参考値ではあるがNTTドコモ モバイル社会研究所の「一般向けモバイル動向調査」によるとスマートフォンの年代別保有率では男性15歳~49歳、女性15歳~49歳が9割を超え、特に女性20~24歳は100%2であったなど、スマートフォンは我々の生活に密接な機器となった。15歳から59歳の男女(n=2,712)を対象としたMMD研究所の「2019年版:スマートフォン利用者実態調査」3では一日の利用時間は全体で「2時間以上3時間未満」が21.8%と最も多く、次いで「1時間以上2時間未満」が16.9%だった一方で10代では「3時間以上4時間未満」が最も高く、特に10代の女性では「10時間以上」と回答した割合が1割を超えるなど、若者の利用時間が長い。
図1 スマートフォン利用時間の割合
本レポートでは、特に若者のスマートフォンでの動画視聴に焦点を当て、スマホ時代の動画視聴方法について考える。  

2――スマートフォンと動画

2――スマートフォンと動画

前述したMMD研究所の調査の「スマートフォンの最もよく利用するアプリ」をみると、SNS(28.7%)が最も高く、動画(26.3%)が続く。インストールしているアプリをみると、最も高いのが動画アプリで概ね6割の人がインストールしていることがわかっている。
図2 カテゴリー別 月間スマートフォン利用時間(2018年12月)
さらに、ニールセン デジタル株式会社のスマートフォンの利用状況に関する調査を見ると、「ビデオ/映画」カテゴリーの一人当たりの月間平均利用時間には、全世代で「7時間11分」、18-34歳では「10時間43分」と、最も多くの時間が割かれていることが分かる。以上のことからスマートフォンが動画視聴するうえで多くの役割を担っていると言えるだろう。
図3 平日と休日のテレビ視聴及びネット利用の平均時間 (分)
また、前述した情報通信白書の主なメディアの利用時間によると、全体ではテレビ視聴の時間がネット利用時間より長い一方で、10代においては平日、休日問わずネット利用時間がテレビ視聴時間を上回っている。もちろん全てが動画視聴に利用されているわけではないが、10代においては、テレビを見る時間よりもスマートフォンのスクリーンを眺めている時間の方が長いと言えるだろう。
 

3――スマホ時代の動画視聴における3つの特徴

3――スマホ時代の動画視聴における3つの特徴-「好きな時に」、「好きな物を」、「好きなように」

例えばゴールデンタイムのバラエティやドラマは、CMを含め1時間で構成されることが普通である。また、子供向けのアニメは30分、お昼のワイドショーは2時間といったように、テレビ番組の放送時間の長さに対して我々視聴者は一種の体感のようなものを抱いている。もちろんこれは、テレビ局サイドの番組表編成の都合であるのだが、暗黙の了解として視聴者は動画の長さを受け入れてきた。また、テレビ視聴は、番組放送の時間に我々視聴者が合わせることで視聴が可能になる。言うならば、テレビ局が放送する映像の流れの一地点を“捕まえる”ことで娯楽を得ているのだ。そのため、「月曜の夜は街からOLが消える」と言われた『東京ラブストーリー』現象のように、番組表に視聴者の時間がコントロールされているのである。

しかし、スマートフォンの登場により、我々のコンテンツとの向き合い方は大きく変化した。通勤通学中に、サブスクリプションサービスを用いて映画やドラマを視聴したり、YouTubeのような動画視聴サイトを使用することは一般的になっている。テレビが動画視聴の中心であった時代では、視聴場所、時間に制限があり、前述した通り視聴者が媒体(テレビ)に合わせる必要があったが、スマートフォンによる動画視聴は視聴者が主体であり、「好きな時に」、「好きな物を」、「好きなように」見ることができるのである。この変化に伴い、コンテンツ視聴に対する意識が、特に若者世代で大きく変化しているようである。以下では、「好きな時に」、「好きな物を」、「好きなように」の3つのスマホ時代の動画視聴の特徴について考えていく。

まず「好きな時に」であるが、スマートフォンという媒体のおかげで我々は、時間と場所に制限されることなく動画が視聴可能となり、文字通り好きな時に動画を楽しむことができる。好きな時に視聴できるということもあり、通勤通学、休み時間、待ち合わせ中などの隙間時間に視聴されることも多い。このような背景から昨今“コンテンツの短尺化”の傾向がみられる。動画視聴サイトといえばまず、YouTubeが想起されるのではないだろうか。2018年前後ではYouTubeに投稿される動画が長尺化し、テレビ番組化が加速するといった傾向も見られたが、近年では動画の短尺化の傾向が強い。実際に動画の収益化に対する規約も変化しており、例えば動画の最中にCMを入れる「ミッドロール広告」は、従来は10分以上の動画が対象であったが、2020年7月から8分以上の動画が対象となった。明確な理由は述べられてはいないが、視聴者が短尺のコンテンツをすすんで視聴していることが要因であると筆者は考えている。前述した通り、隙間時間に動画が消費されるようになったことで、動画の尺(長さ)が動画選択時に考慮されているようなのである。YouTubeにおいては、動画選択時のサムネイルに動画の長さが表記されている。通学中の電車や休み時間等決められた時間の範疇で終わる動画を選択していると仮定すると、長すぎる動画は敬遠される。視聴者が意識しているか否かは別として、動画視聴を終わらせるタイミングを考慮に入れコンテンツを選択するという点は、テレビ視聴の性質と大きく異なる点と言えるだろう。

また、そもそも尺の短い動画が若者に好まれる土壌は以前から作られていた。2017年にサービスを終了した動画視聴アプリ「Vine」は、6秒間ループされる動画を投稿できるサービスであり、2014年のデータではあるが「Vine」の認知度は10代で22.5%、20代で6.5%、30代で4.2%と、他の世代と比較して10代の認知度が高かった。以前紹介したKemio4や人気YouTuberの大関れいか、ブライアンは、このアプリ出身であり、彼らは現在もVineとは異なる媒体で短めのネタやいくつものネタをまとめた動画のスタイルで、若者からの支持を得ている。Vineのサービスが終了した後も、昨今ではTiktok(動画投稿の長さが最大15秒5)という違った形で短い動画が次々と消費されている。YouTubeにしても、他の動画アプリにしても端的に、そしてわかりやすく快楽(楽しさ)を得ることが求められているのかもしれない。

次に「好きな物を」であるが、様々な動画サブスクリプションの登場により、例えば洋画好きなら「Netflix」、スポーツなら「DAZN」といったように自身の好きなジャンルの動画を見ることが可能となった。フィールドワークスと映像メディア総合研究所の「映像メディアユーザー実態調査2020」6によると、Amazon PrimeやNetflixといったSVOD(定額制見放題)の利用率は18.2%であり、前年比で約4ポイント増加していたという。定額制で好きなモノを選んで視聴するという消費スタイルが定着しつつあると言えるだろう。しかし、これはテレビにおいても、以前よりケーブルテレビのように専門チャンネルが存在していたため、スマートフォンにおける動画視聴の特性とは言えない。それでは、従来のケーブルテレビと比べて、なぜWEB動画の普及が急速にすすんだのであろうか。

スマホ時代の動画視聴ではSNSの担う役割が多く、例えば若者においては、Twitterで自身の興味のあるカテゴリーごとにアカウントを作成することが一般的であり、Twitterのタイムラインには常に誰かが投稿した自身の興味あるジャンルの動画がリアルタイムに流れていくのである。2018年のデータではあるが、モバーシャル株式会社の「2018年スマートフォンの動画視聴実態調査」をみると、動画視聴のプラットホームとして、Twitterが25.3%(2016年8月:11.2%)、Instagramが22.3%(2016年8月:6.0%)と2割以上がSNSを動画視聴のプラットホームとして捉えていることがわかる。同調査では、Web動画を視聴するきっかけにおいて、SNSを経由して視聴する人が、2016年8月(11.2%)より約3倍増加(29.9%)していることがわかっており、SNSをきっかけにWeb動画を視聴する傾向が高まっていると言えるだろう。
図4 動画視聴のプラットホーム
また、InstagramやYouTubeにおいても、レコメンド機能というユーザー自身の好きな傾向の動画が自動的にお勧めされる仕組みがあり、文字通り「好きな動画」を自ら探さなくとも遭遇することが可能なのである。Pew Research Centerの調査によると、約80%もの視聴者が、YouTubeのアルゴリズムによっておすすめされた動画を定期的、もしくは時々視聴している7
図5 YouTubeにおすすめされた動画を視聴する割合
最後に「好きなように」だが、若者のスマートフォンでの動画視聴方法は、物理的な意味でも特徴がある。前述したモバーシャル株式会社の調査では、スマートフォンでの動画視聴時の機器の向きについてアンケートをとっている。同調査によると、「タテ向きのみ」で視聴する人は32.6%、「ヨコ向きのみ」は29.9%、「両方」と回答した人は37.6%であったという。また、年代別にみると20代では概ね4割が「タテ向きのみ」と回答したという。
図6 スマートフォンでの動画視聴時の機器の向き
では、なぜ若者は「タテ向き」で動画を視聴するのだろうか。筆者は、昨今の動画投稿のプラットホームが要因であると考えている。そもそも、スマートフォンを使う際、我々は「タテ向き」で使用しており、ヨコ向きにするという行為は、視聴者に手間を与える。また、タテ向きで使用する際とは、異なる持ち方を強いられる。しかし、例えばYouTubeをタテ向きで使用する時を想起すると、動画は、スクリーンの3分の1ほどしか使われていないので、見にくい。もともと、ネット上の動画の多くは、パソコンで見ることを前提としてアップロードされている。諸説あるが、ブラウン管テレビの画面の主流は縦横比4:3であったが、横長のビスタサイズ等の映画を表示しやすくするために、液晶やプラズマテレビが16:9の比率になっている。その系譜を踏んで、パソコンも16:9のスクリーンが採用されることが多い8。そのため、動画はスクリーンの比率に合わせて「ヨコ向き」であることが自然の成り行きであった。

しかし、冒頭で述べた通り、スマートフォンの保有率が6割を超えた現代においては、スマートフォンという環境に合わせたサイズのコンテンツが好まれるようになってきたとしても不思議ではない。2016年のデータではあるが、スマートフォンによる動画撮影で「タテ向き」で撮影する割合は、20代で67.9%、30代で64.8%、40代で55.6%、50代で50.7%となっており、若年層になるほど「タテ向き」の傾向が高かった。現代においては、スマホネイティブであるZ世代(1996年~2012年に生まれた世代)のスマホ保有率も増え、この傾向はより強くなっていると考えられる。

タテ向きでの撮影、視聴が好まれる理由は、向きを変えるという手間が省けるという点だけでなく、画面占有率が大きく影響している。前述した通り、スマートフォンをタテ向きで使用する際にヨコ向きの動画を視聴すると無駄な余白が生まれてしまう。タテ向きのコンテンツではスマートフォンのスクリーン全体に動画が映し出されるため、コンテンツへの没入感が高まると考えられる。

このような背景から、10代~30代の若年層では、「タテ動画」の動画配信(投稿)のプラットホームが支持されている。まず、TikTokを例に挙げると、動画の多くはタテ動画で占められており、「上下」にスワイプすることで別の動画が再生されるなど、タテ向きで使用することを意識したユーザーインターフェイスになっている。Instagramにおいては2016年に開始された「ストーリー」機能が人気を博している。ストーリーとは、通常の投稿(タイムライン)とは別に、より日常的な写真や動画の投稿、ライブ配信が行える機能である。インスタグラム利用者の約70%が利用しており、1日700万件がシェアされている。投稿されるものはタテ向きフルスクリーンで表示されるため、投稿されるコンテンツはタテ向きに撮影されるものがほとんどである。YouTubeにおいてもタテ向き動画の流れは伺える。第62回グラミー賞を受賞したZ世代から絶大な人気を博しているBillie Eilish(ビリー・アイリッシュ)は、「タテ型のミュージックビデオ」をアップロードしており、中でも『You should see me in a crown』は2020年8月現在で2億回再生されている。  

4――「好きなように」がもたらす懸念

4――「好きなように」がもたらす懸念

本レポートでは、スマホ時代の動画視聴の特徴を「好きな時に」、「好きな物を」、「好きなように」の3つの視点から考察した。動画の視聴方法が変わることで、動画視聴の文化が変化しているのである。しかし、この文化のすべてを肯定できるわけではない。例えば「好きなように」という視点で言えば、コンテンツの短尺化により、動画をテレビで言うザッピング(CMや番組の最中にチャンネルを変えること)しながら、まるでビュッフェのように消費していく様は、コンテンツのインスタント化に拍車をかける。また、コンテンツの著作権に対して意識が低い者も多く、無断転載や違法アップロードがSNSに溢れている。これを、「好きなように動画を楽しんでいるだけ」で済ますことができるだろうか。コンテンツのインスタント化やコンテンツの著作権に対する意識の希薄化に関しては、今後の筆者自身の研究テーマとしてより考えを深めていきたいと考えている。
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生活研究部   研究員

廣瀨 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化、マーケティング、ブランド論、サブカルチャー、テーマパーク、ノスタルジア

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
          ニッセイ基礎研究所入社

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

(2020年08月13日「基礎研レポート」)

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