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会社の歓迎会は「開く側」と「開いてもらう側」で受け取り方に違いはあるのだろうか

生活研究部 研究員 廣瀬 涼
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1――2025年「お花見」「歓迎会・懇親会」の開催率は?
1 東京商工リサーチ「「お花見、歓迎会」開催は、企業の23.8% コロナ禍後で最低、かつての慣習戻らず~2025年「お花見、歓迎会・懇親会に関するアンケート」調査~」2025/04/12
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1201270_1527.html
2――職場における人間関係はより“淡白”に
筆者は2023年に執筆した『あの新入社員はなぜ歓迎会に参加しないのか3』の中で、「若者が飲み会に参加しない理由」について次のように論じた。――満足のいく給与が得られていなかったり、やりがいのある仕事でなければ、労働は“生活のために仕方なく行うもの”であり、基本的にはネガティブな行為として認識される。そんな労働に対して、自身の貴重な時間やお金をさらに投じる必要があるだろうか。むしろ、それらを“嫌な労働に耐えるためのモチベーション”となるような消費行動や、自己充足のための活動に回すことが合理的である――と。このように、合理性を重視する若年層を中心に、職場における人間関係はより“淡白”なものへと移行しつつあるのだ。
なにより、SHIBUYA109 labが行った調査である「Z世代の仕事に関する意識調査4」 においては、上司を含めた会社の飲み会は好きかどうかについて「好き」が33.4%、「苦手」が66.7%となる一方で、同期や同世代の同僚との会社の飲み会が好きかについては「好き」が50.8%、「苦手」が49.1%と、上司ほどは嫌ではないが、半数近くが同期や同僚と飲む事に対しても前向きではないことがわかっている。
このような会社での飲み会反対派が増えている中で、昨年のレポート5では、飲み会に代わるコミュニケーション施策として、業務時間内にランチ会を実施する企業の事例を紹介したが、前述の東京商工リサーチの調査でも飲み会参加へのハードルを下げるための意図か、「お花見・歓迎会・懇親会」を「開催する」と回答した企業のうち、18.5%がそれらを労働時間内に実施すると回答している。しかし、業務時間内に開催されるお花見や飲み会では、「上司と勤務中に酒席を共にしなければならない」という義務感が発生する。形式上は“歓迎”や“親睦”を目的とした場であっても、労働時間に組み込まれることで実質的には“業務の一部”としての拘束力を帯びる。そうなると、上司の愚痴や自慢話に相槌を打つことや、先輩へのお酌といった行為さえも、「業務だから仕方ないよね」と受け入れざるを得なくなってしまう。
その結果、本来は社員同士の交流やモチベーション向上といった建前で行われる場が、むしろ意味の不明瞭な益々「やらされ感」に満ちたイベントとなりかねない。コミュニケーションの機会を設けること自体は重要だが、その設計にはより繊細な配慮が求められるだろう。
2 株式会社産労総合研究所「独自調査:飲みニケーションは好きですか?」2021/02/05
https://www.e-sanro.net/research/research_jinji/jijiromu/nominication/pr2102-1.html
3 廣瀨涼(2023)『あの新入社員はなぜ歓迎会に参加しないのか: Z世代を読み解く』金融財政事情研究会 https://store.kinzai.jp/public/item/book/B/14243/
4 SHIBUYA109 lab. 「Z世代の仕事に関する意識調査」2023/02/22 https://shibuya109lab.jp/article/230222.html
5 廣瀨涼(2024)「あの“同期”はなぜ飲み会に参加しないのか-Z世代のアルコールに対するスタンスについて考える」2024/09/24 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=79717?site=nli
3――若者は本当に飲み会が嫌いなのか
さらに、新型コロナウイルスに感染することで、自分自身の行動が制限されたり、重い症状に苦しむリスクを負うことになる。そのようなリスクを抱えてまで、会社側が「例年行っているから」「せっかくだから」といった理由で、従業員に歓迎会の参加を提案する姿勢は、無責任に映ることもあっただろう。「たかが会社の飲み会のために、自分の健康や生活が軽んじられてしまうのか」という不信や怒りを覚えた人も少なくないはずだ。
また、CSR(企業の社会的責任)の観点から見ても、当時のような状況下で不用意に飲み会を開催すれば、世間から「感染対策を軽視している企業」としての印象を持たれかねない。実際にそのような行為が明るみに出れば、企業の評判や信頼を損なうリスクもあった。そうした社会的影響を十分に考慮せずに「とりあえず毎年やっているから」と、従来の慣習に従って提案してきた会社に対し、失望や反発の声が上がったのも無理はない。
このように、2022年当時は「飲み会」という行為そのものに、感染リスクや社会的批判というマイナスの要素が色濃く結びついていた。単なる“職場のコミュニケーション”の一環というよりも、それを提案すること自体が倫理的・社会的な責任を問われる時代だったのである。
一方で、その「新型コロナウイルスの流行」が会社での飲み会に期待する要因となっている層もいる。筆者が行ったヒアリング調査では、2024年に新入社員として入社したZ世代の中には、大学時代にサークルやゼミでの飲み会が「新型コロナ流行」を理由に、ほとんど開催されなかったことから、「会社で初めて本格的な飲み会に参加できる」といった期待感を抱いている者も見受けられた。飲み会文化に対する経験の少なさが、かえって肯定的なイメージにつながっている側面があるといえる。
他にもR&C株式会社が、全国の20~50代の社会人男女1,000人を対象に実施した「飲み会に関する意識調査6」では、「飲み会は好きか嫌いか」聞いているが、職場の飲み会が「好き」と回答した人は38.8%(「好き:16.2%、どちらかといえば好き:22.6%)、「嫌い」と回答した人は31.3%(嫌い:13.8%、どちらかといえば嫌い:17.5%)だった。年代別に見ると、「好き」と「どちらかといえば好き」を合わせたポジティブな意見が最も多いのは20代(46.0%)だった。
この結果からは、「若者=飲み会嫌い」という一元的なイメージは必ずしも当てはまらないことがわかる。むしろ、飲み会に対する経験が少ない若年層ほど、会社の飲み会を新鮮で楽しみなものと感じている傾向もある。また、50代は「嫌い」(16.0%)、「どちらかといえば嫌い」(20.0%)が最も多く、上の世代ほど飲み会文化に慣れているぶん、「コロナ禍でやらなくて済んだなら、このまま続けなくてもいい」と感じたり、自分の時間を優先したいという気持ちが強くなるのかもしれない。
6 R&C株式会社「20代は40~50代よりも飲み会好き!R&Cマガジン「飲み会事情」」2023/07/19 https://news.livedoor.com/article/detail/24636706/
4――歓迎会を「開く側」と「開いてもらう側」
まず「祝う・送る側」に注目すると、全体の約3割が「楽しみにしている」と回答したのに対し、「楽しみにしていない」と答えた人は約4割にのぼり、ネガティブな印象がやや優勢であることがわかった。性別・年代別でみると、10代・20代の男女では「楽しみ」が「楽しみでない」を上回る傾向が見られたが、30代以降になるとその割合は減少し、逆転する。その理由を自由回答から見ると、「お金の負担」に関する理由が目立った。
一方、「祝われる・送られる側」においても、「楽しみにしている」は約3割、「していない」は約4割と、やはりポジティブな評価は少数派にとどまっている。ただし、こちらも10代・20代の男女では「楽しみ」が上回り、年齢が上がるほどに減少傾向にある。「楽しく感じない」理由を見てみると「物価高。みんなにお金の負担を強いるのが申し訳ない」、「(スピーチなどもあり)そういった場面は苦手」、「注目されたくない」といった声が目立つ。
逆に「楽しみにしている」人たちは、歓送迎会を「人生で数少ない主役になれる機会」と捉え、催し物などを含めた“非日常感”をポジティブに評価しているようだった。確かに、転職や異動でもしない限り、自分が“主役”となる歓迎会は、その職場で人生に一度きりのものだ。そう思うと、どこか特別な意味を帯びて見えてくる。たった一度のその機会を経験してみたいと、ポジティブに感じる人がいても、不思議ではないだろう。
7 インテージ「知るギャラリー」「若者も歓送迎会を楽しみたい! ~出会いと交流、感謝だって伝えたい ~生活者スナップショット Vol.10」 2025/03/25
https://gallery.intage.co.jp/ihr-column50/?utm_source=20250325&utm_medium=email
5――世代差ではなく、会社に対するプライオリティの差
こうした傾向に明確な世代差があるとは言いきれない。重要なのは、「会社に時間やエネルギーを費やしてもよい」と感じられるかどうかという、その人にとっての“優先順位”である。会社を単なる労働の場と捉える人にとっては、そこにプライベートな時間やお金を投じること自体が負担となる。逆に、職場を自己実現や居場所として捉える人にとっては、飲み会もまたその延長としてポジティブに受け止められるだろう。つまり、「会社にどこまで自分のリソースを預けたいと思えるか」という軸は、年齢に関係なく、すべての働き手に共通して問われているのだ。
8 あと業界も大きな要因だ。飲み会をすることが「普通」とされる業界ならば、そのような心構えで入社するだろうし、そのような業界にこのような調査を行えば、若者は会社での飲み会が好きという根拠になるような数字が容易に出てくるだろう。
(2025年05月30日「研究員の眼」)

03-3512-1776
- 【経歴】
2019年 大学院博士課程を経て、
ニッセイ基礎研究所入社
・公益社団法人日本マーケティング協会 第17回マーケティング大賞 選考委員
・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員
【加入団体等】
・経済社会学会
・コンテンツ文化史学会
・余暇ツーリズム学会
・コンテンツ教育学会
・総合観光学会
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