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ご当地VTuber「沢ところ」に2回目のインタビューをしてみた-今日もまたエンタメの話でも。(第6話)

生活研究部 研究員 廣瀬 涼
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今回の取材先
埼玉県所沢市ご当地VTuber 沢ところ
実施日:2025年3月14日(金)
1――1回目のインタビューの振り返り
2年前のある日、突然届いた一通のメール。それが、埼玉県所沢市のご当地VTuber「沢ところ」との出会いだった。ちょうど筆者がVTuberに関するレポートを執筆していた時期であり、興味を惹かれてすぐにコンタクトを取ってみた。VTuberとは、2Dもしくは3Dのアバターを用いてYouTube上で活動するYouTuberのことを指すが、その中には、「ご当地VTuber」と呼ばれるグループがあり、彼らは、地域の魅力をPRし、地元の情報を発信することを主な目的として活動している。
ご当地VTuberは、大手事務所に所属するVTuberや企業によるプロデュースVTuberと比べて知名度こそ高くないが、地元を愛し、その魅力を伝えようとする熱意には目を見張るものがある。筆者は、今後ご当地VTuberが「ゆるキャラ」のように地域に根ざし、観光振興や地域活性化に大きく貢献していく存在になると確信している。
「沢ところ」も、そんなご当地VTuberの一人である。彼女は2021年11月にデビューし、以来、埼玉県所沢市のグルメ、観光、イベント情報などを精力的に発信している。前回2023年に執筆したレポート1では、なぜ彼女はご当地VTuberを始めることになったのか、実際どのような活動をしているのか、といったインタビュー記事が中心であった。当時の彼女は、埼玉りそな銀行と電子通貨のコラボレーション、地元のラジオや所沢に店舗を構えるディスカウントストアのドン・キホーテの公認VTuberに就任、家電量販店のビックカメラの所沢駅店オリジナルキャラクターとコラボレーションなど、地元に密着しながら多岐にわたって活動の幅を広げていた。
その中でも、ひときわ異色なのがメールにも書いてあった「ご当地VTuber図鑑」のWebサイト開設であった。
ご当地VTuberは地元の魅力を伝えるにはどうすればいいのかという点に大きな目的や使命感を抱いているだけに、地方出身の私としては、この「ご当地VTuber図鑑」が、企業とご当地VTuberとの接点となり、活動の幅を広げるプラットフォームになってほしいと強く思ったものである。
1 廣瀬涼「「ご当地」VTuberの可能性-ご当地VTuber「沢ところ」へのインタビューから見えてきたコト」
基礎研レポート2023年04月06日 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=74426?site=nli
2――「ご当地VTuber図鑑」の書籍化
廣瀬:お久しぶりです!この2年間での大きな変化はコロナ禍の影響が無くなったという点だと思いますが、VTuber界でもコロナがあけて大きな変化はありましたか?
沢ところ:コロナ過はインターネット空間でのイベントが中心でしたが、現在は有観客のリアルイベントが各地で開催されています。コラボカフェやコラボショップ、トークイベント、VTuber活用に関する講演会など、実際に多くの人が1つの場所に集まって、VTuberを間近に感じられるイベントが増えています。
沢ところ自身の活動も、より現実世界と密着した活動が増えている。2024年12月には『所沢警察署犯罪抑止広報大使』に就任。埼玉県内での「VTuber×警察署」の企画ははじめての試みであると同時に、沢ところ自身にとっても初の公的機関コラボであった。警察署が毎年配布している犯罪抑止カレンダーデザインに起用され、所沢の神社や、警察署主催のイベントで配布された。また、埼玉県警の公式YouTubeにオリジナルコンテンツを投稿するなど、VTuberならではの啓発活動も行っている。
廣瀬:画面越しにどうやって添削とか指導するんですか?
沢ところ:リモートじゃ無理だから、自分で衣装を作って、リアルの世界でも見える姿でイベントを開催致しました!!!
廣瀨:は?
それはもうVTuberではないのでは???と思ったが、確かに彼女のように個人で活動しているVTuberは、大手の事務所に所属している人気VTuberと異なりできることに限界がある。なにより、彼女のアバターは彼女自身が自ら作成したモノであり、技術面でも実現が難しい事の方が多いように思われる。ある意味姿を見せないことがVTuberの人気の理由でもあり、生身の姿を見せることがVTuberのイメージにも影響を与えかねないというリスクでもある。それでも彼女は笑いながら「子どもたちのために何かしたかったので実現できてよかったです!!」と話してくれた。
最後に「ご当地VTuber図鑑」の書籍化について話を聞いてみた。
廣瀨:どのような経緯で出版化が決まったのですか?
沢ところ:「サイト『ご当地VTuber図鑑』を立ち上げた2022年11月当初から書籍化の夢を抱いていました。2023年から、様々な出版社に書籍化の企画を持ち込み、その中でアニメ・コミック・ゲーム関連商品の販売チェーン店を運営する株式会社アニメイトさんに興味を持っていただき、子会社である株式会社メロンブックスさんから協力を得ることができました。」
本著は、100名以上のご当地VTuber情報に加え、観光地・グルメ情報・方言なども盛り込んだ観光誌となっている。「るるぶ」や「まっぷる」を意識しているそうだ。また、沢ところの特技が書道であったように、イラストや漫画を描くこと・写真を撮ることが特技である者、専門的知識を持っている者、英語が話せる者など、ご当地VTuberの特技は十人十色だ。併せてリアルイベントを開催している者、警察署とコラボをされている者、自治体公認で活動している者など、ご当地VTuberが実際にどのような活動をしていて、どんな地域貢献ができているのか、どんな活用方法があるのか、どんな活躍の場があるのかを、ファン・自治体・企業など、それぞれの視点から参考になるような特集が組まれている。
3――ご当地VTuberの可能性
このように、ご当地VTuberは、エンターテインメント性と地域密着性を両立させた新しい地域PRの担い手として成長しつつあるが、これから地域再生や地域の魅力発信において大きな可能性を秘めていると思われる。若年層に親和性の高い動画やSNSを通じ、従来の広報手段では届きにくかった層に対しても効果的に情報を届けることができる。また、地域への愛着を持った個人による自発的な活動である点からも、共感を呼びやすく、地元住民を巻き込んだ活性化の起点となり得るのである。
その中でも、「沢ところ」は、ご当地VTuberを可視化・ネットワーク化することで、企業や自治体との新たな接点を創出してきた。実際に彼女は、同図鑑を出版後、国会図書館をはじめ、全国の観光課や図書館へ地道に献本活動を行っている。中でも「内閣官房 新しい地方経済・生活環境創生本部事務局」への献本を実現し、地域のために活動する若い世代が確かに存在していることを行政関係者に伝える機会を得たことに、大きな手応えと意義を感じているという。
こうした取り組みは、単なる個人活動にとどまらず、今後の地域創生政策や地域ブランディング戦略における新たなモデルの一つとして位置づけられるべきである。ご当地VTuberは、デジタル時代における「地域の顔」として、観光・文化・産業の活性化に貢献する次世代型の地域人材であり、その存在価値は今後さらに高まっていくだろう。
(2025年06月10日「研究員の眼」)

03-3512-1776
- 【経歴】
2019年 大学院博士課程を経て、
ニッセイ基礎研究所入社
・公益社団法人日本マーケティング協会 第17回マーケティング大賞 選考委員
・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員
【加入団体等】
・経済社会学会
・コンテンツ文化史学会
・余暇ツーリズム学会
・コンテンツ教育学会
・総合観光学会
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