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完全没入型テーマパーク“Universal Epic Universe” いよいよ5月22日オープン-今日もまたエンタメの話を。(第3話)

生活研究部 研究員 廣瀬 涼
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1――ユニバーサル・スタジオの完全没入型テーマパーク誕生
中でも、特に注目を集めているのが、「The Wizarding World of Harry Potter — Ministry of Magic」だ。ここでは、人気小説『ハリー・ポッター』シリーズのスピンオフ作品『ファンタスティック・ビースト』に登場する1920年代のパリ魔法省と、『ハリー・ポッター』本編に登場する英国魔法省が融合した、世界初のテーマエリアが展開される。
メディア向けの先行体験会のレポートによれば、新アトラクション「Harry Potter and the Battle at the Ministry(ハリー・ポッターと魔法省の戦い)」では、作中で魔法使いたちが移動手段として使う“フルーパウダー(煙突飛行粉)”をゲスト自身が使用し、魔法省へと入り込む導入から始まる。こうした演出によって、物語の登場人物になったかのような深い没入感を得られる体験が実現されている。なお、このテーマパークは、このハリー・ポッターエリアの他にも、日本で人気を博している「スーパー・ニンテンドー・ワールド」をはじめとした5つのエリアで構成されており、どのエリアにおいても高い没入体験が提供されるとのことだ。
1 “Introducing Universal Epic Universe, the Company’s Most Ambitious Theme Park to Date - Universal Destinations & Experiences”January 31, 2024 https://corporate.universaldestinationsandexperiences.com/introducing-universal-epic-universe-the-companys-most-ambitious-theme-park-to-date/
2――傍観型イマーシブとは
テーマパークの分野でも、精巧なセットや空間演出=ハードを通じて、来園者が作品世界に入り込んだような体験を提供する傾向が強まっている。例えば、東京ディズニーリゾートでは2020年に映画『美女と野獣』をテーマにしたエリアや2024年に『アナと雪の女王』『塔の上のラプンツェル』などをテーマにした「ファンタジースプリングス」が、ユニバーサルスタジオジャパンでは2014年に「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」や、2021年には「スーパー・ニンテンドー・ワールド」など、IP(知的財産)を活用した没入型エリアがこれに当たり、世界中で、来園者自身がその作品の一部になったかのような没入感を得ることができる「場」の提供をメインとしたテーマエリアが建設されている。
3――非傍観型イマーシブとは
このような没入体験は、イマーシブ・シアターやコンセプトカフェといった演出空間で提供されることが多く、近年では日本国内にもその動きが広がっている。中でも注目すべき事例が、2023年に開業した世界初の“完全没入型”を掲げるイマーシブ・テーマパーク「イマーシブ・フォート東京」である。その中のアトラクション「ザ・シャーロック ~ジェームズ・モリアーティの逆襲~」では、従来のようにステージ上で演劇が展開されるのではなく、建物全体が舞台となり、登場人物たちが空間を移動することで場面が展開される。このため、観客はストーリーを追うために、登場人物のあとを自らの足で追いかけていく必要がある。
4――イマーシブ・コンテンツにおける二つの軸
▶左下(自由度低 × 主体性低)には、VR体験や展示型コンテンツなど、主に視覚的な刺激を通じて没入感を得る傍観型コンテンツが位置する。
▶右下(自由度高 × 主体性低)には、世界観を再現したテーマパークやお化け屋敷などのウォークスルー型アトラクションなどが挙げられ、参加者は自分のペースで空間を探索することはできるが、ストーリーの進行や関与は限定的である。
▶左上(自由度低 × 主体性高)には、謎解きやコンカフェなどが位置づけられ、ある程度決められた設定の中で、参加者自身が考えたり演じたりする能動性が求められる体験が該当する。
視覚的演出によって強い没入感が得られる傍観型の体験もあれば、マーダーミステリーのように、自身が特定の役割になりきることで、主体的に物語へ没入する形式もある。一方で、自ら演じることや、空間内を移動することが困難な消費者にとっては、非傍観型のような高い能動性を求められる体験は負担になり得る。したがって、非傍観型、傍観型「どちらがより没入できるか」という議論は本質を捉え損ねており、不毛であると筆者は考える2。
我々が「没入している」と感じる瞬間は、その時々で引き出される要素が異なる。たとえば、圧倒的な映像美に見とれて時間を忘れることもあれば、何かの趣味に熱中したり、夢中で創作活動をしているときにも、没頭する=没入する体験がある。同じ「没入」という言葉で語られる感覚であっても、その質や意味は一様ではない。だからこそ、コンテンツの評価を、単純に主体性や自由度の有無といった軸だけで行うべきではないのである。
たとえば、「Universal Epic Universe」と「イマーシブ・フォート東京」は、いずれも“没入体験”を重視したテーマパークであるが、その没入体験のあり方には大きな違いがある。Universal Epic Universeは、空間全体の作り込みや演出によって、ゲストを物語世界に“入り込ませる”傍観型の没入体験に近い。一方で、イマーシブ・フォート東京では、ゲスト自身が能動的に動き、選択し、物語を“ともに創っていく”非傍観型の体験が中心となる。つまり、どちらも「完全没入型」であるにもかかわらず、求められる主体性のレベルや、体験者の関与の仕方には明確な違いがある。これは、没入感というものが一元的な体験ではなく、構造や演出の設計、そして受け手の関わり方によって大きく性質を変えるものであることを示している。
また、イマーシブ・コンテンツの体験価値には、消費者の向き不向きや、その人が楽しむための前提条件が存在するため、消費者によっては、演じる事や動き回る事など主体性を求められることが、かえって満足度を下げてしまう場合もある。また、「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」のように、細部まで作り込まれたテーマエリアであっても、原作を知らなければ、その世界観やキャラクター体験の価値を十分に味わうことは難しいかもしれない。
さらに、イマーシブ・シアターのように、俳優やキャストがその場で生み出す“ライブ感”が魅力となるコンテンツでは、演者に対するファン的な支持が体験の動機になることも多い。特定の俳優を見るために来場する観客も存在し、コンテンツそのものよりも出演者が主たる関心対象となっているケースもある。加えて、再現度の高いテーマエリアでは、「その空間で写真を撮る」ことそのものが目的となる消費スタイルも見られる。つまり、消費者自身が主役となり、映える場や空間の中で自己表現を行う「舞台性消費」や、消費対象や空間を小道具・背景のように自分を引き立てるために活用する「プロップス消費」を目的とする層も存在する。このように、没入感の源泉が多様であることは、同時にそのニーズの多様性を生み出しており、コンテンツの受容のされ方は、必ずしも提供側の意図通りに一方向ではない。
2 イマーシブと語られている、もしくは没入感を想起させるような謳い文句であっても「傍観的イマーシブ」の視点から言えば高度なデジタルテクノロジーが使われておらずお世辞にも没入感を得られるクォリティではないモノもあるだろうし、「非傍観的イマーシブ」の側面から見れば思った以上に主体的な動きを求められないモノもあるだろう。そのため、コンテンツ間で没入度合を比較することは意味を有さないと論じたが、前向きにコンテンツを消費しようとしたにも拘らずまったく没入感を得なかった場合は「没入感がなかった」と評価すべきだし、「イマーシブ・コンテンツ」を謳っていてもそのクォリティはピンからキリまであることは覚悟しておくべきである。
5――さいごに
ユニバーサル・テーマパークを運営するUniversal Destinations & Experiencesは、2024年1月のプレスリリースの中で、次なる新パークに向けてこう言及している:
“Epic Universe will present a level of theme park immersion that is unmatched…”
(エピック・ユニバースは、他に類を見ないレベルのテーマパークの没入感を提供します)
この一文は、これまで筆者が体験してきたイマーシブ・コンテンツをも超える、全く新しい体験への期待を膨らませるものである。イマーシブの研究者として、そして1人の『ハリー・ポッター』ファンとしても、筆者は今、他に類を見ないその没入感を、一刻も早く自らの五感で確かめに行きたいと強く感じている。
(2025年04月15日「研究員の眼」)

03-3512-1776
- 【経歴】
2019年 大学院博士課程を経て、
ニッセイ基礎研究所入社
・公益社団法人日本マーケティング協会 第17回マーケティング大賞 選考委員
・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員
【加入団体等】
・経済社会学会
・コンテンツ文化史学会
・余暇ツーリズム学会
・コンテンツ教育学会
・総合観光学会
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