コラム
2023年06月09日

Z世代を1000文字くらいで語りたい(6)-あの新入社員はなぜ歓迎会に参加しないのか

生活研究部 研究員 廣瀨 涼

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1――2022年は歓迎会をしますか?

2023年5月8日、新型コロナウイルス(COVID-19)が感染症法上の位置づけで2類から5類に移行したことで、我々の生活が少しずつBeforeコロナの様式に戻りつつある。移行時期が、ちょうど新年度が始動した頃であったという事もあり、新入社員のための歓迎会を大々的に行う企業も散見された。ちょうど1年前、スリーエム株式会社がインターネットのアンケートサイト『クラウドワークス』を活用して「2022年春は歓迎会をしますか?」という調査1を行っている。結果は、「オフライン(対面)で実施する」が8%、「オンラインで実施する」が10%、「実施しない」が82%と、「実施しない」が8割を超え、世間一般的に歓迎会を自粛するムードであった。
図1 2022年春は歓迎会をしますか?
 
1 スリーエム株式会社「2022年春は歓迎会を行いますか? 参加者の本音とは?」2022年3月28日https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000068.000009321.html

2――歓迎会を欠席する若者たち

そのような中で筆者は、2022年4月に歓迎会に関するあるツイートがトレンドになっているのを目にした。ツイートは以下のような内容であった。
 
「新入社員歓迎会で新入社員全員が欠席を希望し課長が激怒した。新卒よくやった」
 
このツイートから、あなたはどのような印象を持っただろうか。肯定的な意見を持ったのならば、あなたはこの投稿主の様に、自分たちのために開かれる歓迎会に欠席希望の意を示した新入社員の潔い行動に対して理解を示したと言えるだろう。一方、否定的な意見を持った読者は、この投稿でいう激怒した課長サイドのスタンスを示したこととなる。肯定・否定どちらの立場が正しいとは言えないが、少なくとも、自分たちの歓迎会と言えども「行きたくない」という意思をはっきり示すことができる若者がいるという事実がそこにはある。

また、この投稿主の様に当事者ではない先輩社員やSNSを通じて新卒社員の行動を称賛する者がいるなど、それ以前の世代においても、自分たちの歓迎会に出席したくなかったと考える層が一定数いるということも事実である。一般論から言えば、入社して1週間も経っていない“ひよっこ”が、年間スケジュールの中に疑う余地もなく組み込まれている新入社員歓迎会に対して欠席の意思表明をするという、タブーが実際に行われてしまったという見方もできる。そこで、読者の大多数は、「無礼だ」「社会人としての自覚が足りない」「今どきの若者は何を考えているのやら」と思ったに違いない。一方で、この新卒社員の様に歓迎会や普段の飲みニケーション、忘年会、新年会といった会社の人(主に上司)と業務外で杯を交わすことに対して、大なり小なりめんどくさいという感情を抱いたことがある読者も多いのではないだろうか。

これは余談になるが、清少納言の随筆『枕草子』の一節「にくきもの」の中にも、特に身分の高いモノがお酒を飲んで騒いで、口の周りをなで、杯(酒)を人に無理やりとらせる様子が気に食わない2、と記されており、平安時代においてもすでに上司との酒の席やアルコールハラスメントが面倒なモノという認識が存在していたわけだ。
 
2 筆者による意訳。以下原文 「また酒飲みてあめき、口を探り、鬚あるものはそれを撫で、盃、異人に取らするほどのけしき、いみじうにくしと見ゆ。「また飲め」と言ふなるべし、身ぶるひをし、頭ふり、口わきをさへ引き垂れて、童の「こう殿に参りて」など謠ふやうにする。それはしも、誠によき人のし給ひしを見しかば、心づきなしと思ふなり。」

3――あの新入社員はなぜ歓迎会に参加しないのか

しかし、“通常”断ったことで生じる様々な負の影響を考慮し、本当に断ることはなく渋々出席しているのが現状であろう。ここが、このツイートの焦点であり、あまり使いたい言葉ではないが、敢えて言うのならば「今どきの若者」は、それ以前の世代が暗黙の了解として我慢してきた慣習に対して「NO」を突きつけることができるのである。今の若者とそれ以前の世代にどのような違いがあるのだろうか。

この違いに関して、筆者はZ世代の擁する価値観や消費文化の視点から考察し、この度、一般社団法人金融財政事情研究会から『あの新入社員はなぜ歓迎会に参加しないのか: Z世代を読み解く』を出版した。本著では、若者の「消費離れ」や推し活に勤しむ理由、SNSにおける情報処理の仕方など、若者の消費文化を追ってきた筆者がZ世代ならではの価値観、消費行動を深掘りし、彼らが何にプライオリティを置いているのか、なぜ歓迎会に参加したくないのか、論じている。今若者とのコミュニケーションに困っている方、今若者が何を考えているのか手探りをしている方、今すぐにでも若者の消費を促すヒントを欲している方に是非手に取っていただきたい。
図2 『あの新入社員はなぜ歓迎会に参加しないのか: Z世代を読み解く』
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生活研究部   研究員

廣瀨 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化、マーケティング、ブランド論、サブカルチャー、テーマパーク、ノスタルジア

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
         ニッセイ基礎研究所入社

    ・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

(2023年06月09日「研究員の眼」)

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