2020年05月27日

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1. はじめに

新型コロナウィルスの感染拡大に伴う外出自粛要請並びに緊急事態宣言の発令は、民間消費や建設投資、設備投資など経済活動に対して広範囲にわたって甚大な影響をもたらしている。本稿では、東京都心部Aクラスビル1の現況を概観した上で、新型コロナウィルスの感染拡大がオフィス市況に及ぼす影響を踏まえて、2024年までの賃料と空室率の見通しを改定する。
 
1 本稿ではAクラスビルとして三幸エステートの定義を用いる。三幸エステートでは、エリア(都心5区主要オフィス地区とその他オフィス集積地域)から延床面積(1万坪以上)、基準階床面積(300坪以上)、築年数(15年以内)および設備などのガイドラインを満たすビルからAクラスビルを選定している。また、基準階床面積が200坪以上でAクラスビル以外のビルなどからガイドラインに従いBクラスビルを、同100坪以上200坪未満のビルからCクラスビルを設定している詳細は三幸エステート「オフィスレントデータ2020」を参照のこと。なお、オフィスレント・インデックスは月坪当りの共益費を除く成約賃料。
 

2. 東京オフィス市場の現況

2. 東京オフィス市場の現況

東京都心部Aクラスビルの空室率は、2018年第4四半期以降6期連続で1%を下回る水準で推移しており、2020年第1四半期末は0.6%となった。これに対して、2020年第1四半期のAクラスビルの成約賃料(オフィスレント・インデックス )は38,739円/月・坪(前期比▲8.3%、前年同期比±0.0%)となり、リーマン・ショック後の最高値を更新した前期(42,242円)から下落した(図表-1)。需給の逼迫が続く一方で、4万円を超える水準では借り手側の賃料負担力に上限もあり天井感がみられる。
図表-1 都心部A クラスビルの空室率と成約賃料
また、東京都心部ではBクラスおよびCクラスビルでも空室が非常に少ない状況にある。2020年第1四半期末の空室率は、Bクラスビルで0.4%、Cクラスビルで0.6%と、ともに1%を下回る低水準で推移している(図表-2)。また、2020年第1四半期のBクラスビルの成約賃料は21,941円(前期比▲2.6%、前年同期比+3.0%)、Cクラスビルの成約賃料は21,152円(前期比+5.1%、前年同期比+12.7%)となった。前年同期比でみると、Bクラスビル・Cクラスビルともに賃料の上昇傾向が続いている(図表-3)。
図表-2 東京都心部の空室率/図表-3 東京都心部の成約賃料

3. 新型コロナウィルスの感染拡大がオフィス需要に及ぼす影響

3. 新型コロナウィルスの感染拡大がオフィス需要に及ぼす影響

東京オフィス市場では旺盛な需要が新規供給を上回り、依然として空室率は過去最低水準で推移している。こうしたオフィス需要を牽引する要因として、(1) 情報通信・ITやプロフェッショナルサービスを中心としたオフィスワーカー数の増加、(2) 働き方改革を背景としたオフィス環境の改善に対する意識の高まり、(3) 市場拡大が続くサードプレイスオフィスの3点が挙げられる2。以下では、新型コロナウィルスの感染拡大がこれらの要因に今後どのような影響を及ぼすのか、考察したい。
(1) ITやプロフェッショナルサービスを中心としたオフィスワーカー数の増加
これまでは「情報通信業」や「学術研究,専門・技術サービス業」(プロフェッショナルサービス)を中心としたオフィスワーカー数の増加が、オフィス需要の拡大を支えてきた。

財務省財務総合政策研究所「法人企業景気予測調査」によれば、従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」の割合を引いた「従業員数判断BSI」(全産業)は、2020年第1四半期で+21.9となった(図表-4)。これは、リーマンショック前の2007年までの景気回復期を上回る水準であり、足もとでも人手不足感が強い状況に変わりはなかった。業種別にみると、「製造業」の「従業員数判断BSI」は+11.0(前期比▲1.5)とやや低下した一方で、オフィスワーカーの比率が高い「非製造業」は+27.2(前期比+1.5)と上昇していた。

また、内閣府「労働力調査」によれば、2020 年3 月の失業率は2.5%と前月から▲0.1%の悪化にとどまった。ただし、就業者数の増加ペースは大きく鈍化し、調査期間中に仕事をした「従業者」に限れば、2020 年3 月は前年比▲18 万人と2015 年11 月以来、4 年4 カ月ぶりに減少した。しかし、今後は、経済の急激な落ち込みによって雇用状況の悪化は避けられない見通しである。ニッセイ基礎研究所3では、失業率は2020 年10-12 月期に4.1%へと上昇し、失業者数(季節調整値)は285 万人へと現時点から100 万人以上増加すると予想する。したがって、これまでオフィス需要を支えてきたオフィスワーカー数は減少に向かう可能性がかなり高いと思われる。
図表-4 従業員数判断BSI
(2) 働き方改革を背景としたオフィス環境の改善に対する意識の高まり
1) オフィス環境改善の取り組み
2016年より始まった「働き方改革」に多くの企業が積極的に取り組んでいる。デロイトトーマツ「働き方改革の実態調査」によれば、「働き方改革を推進中」もしくは「実施した」を回答した企業の割合は、約9割に達した。「働き方改革」の一環でオフィス環境の整備に取り組む企業は多い。従業員満足度の向上、人材採用時の優位性確保などを目的に、リフレッシュルームなどの共用部や充実した打ち合わせスペースを備えるオフィスへの移転を検討する企業は増えていた。

財務省財務総合政策研究所「法人企業景気予測調査」によれば、企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」の割合を引いた「国内の景況判断BSI」は、2020年第1四半期時点で▲20.9(前期比▲6.3)となり、景況感が急速に悪化している。一方、設備投資が「不足」と回答した割合から「過大」の割合を引いた「設備投資BSI」は、2020年第1四半期時点で+0.9(前期比▲1.0)となり、大きな変化はみられない(図表-5)。

ただし、前回の世界金融危機時には、景況感が大きく後退した後に設備投資が縮小し、オフィス不動産市況も悪化に向かった。「国内の景況判断BSI」は2007年第4四半期(▲4.1)以降マイナスとなり、2009年第1四半期には▲74.6まで悪化した。「設備投資BSI」は2008年第4四半期(▲5.7)からマイナスとなり、翌2009年第1四半期に▲16.4とボトムを付けた。Aクラスビルの空室率も歩調をあわせて一段と上昇し、2009年第4四半期には7.4%まで上昇した。

足もとでは、新型コロナの感染拡大を受けて企業の事業環境が悪化しており、先行きの不透明感も強まっている。今後、設備投資の縮小とともに、お金をかけてまでオフィス環境を改善しようとする動きはひとまず鈍化する可能性が高い。三幸エステートによれば、新型コロナウィルスの感染拡大を受けて、オフィススペースの使用方法などを見直し、効率化によって床面積の縮小を図ることで賃料コストを削減したいと考えるテナントが増えてきている模様である。
図表-5 「国内の景況判断BSI」、「設備投資BSI」、空室率の推移
2) 在宅勤務の増加
新型コロナウィルス感染拡大への対応で、「在宅勤務」が急速に普及している。パーソル総合研究所の「新型コロナウィルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」によれば、従業員のテレワーク実施率は、2020年3月調査の13%から2020年4月調査では28%へと急速に増加した。特に、東京都でのテレワーク実施率は49%となり半数近くを占めた。東京都心部に通勤する就業者も多い神奈川県では43%、千葉県では38%、埼玉県では34%となっている(図表-6)。
図表-6 従業員のテレワーク実施率
また、野村総合研究所の「新型コロナウィルス感染症拡大と働き方・暮らし方に関する調査」によれば、「新型コロナウィルス感染症拡大以降、初めて在宅勤務を行った人」のうち、「業務上の支障を感じた」(「かなり支障を感じた」と「やや支障を感じた」の合計)との回答が51%となった(図表-7)。その一方で、「今後の在宅勤務の実施意向」について、「緊急時だけでなく平常時でも取り入れた働き方をしたい」との回答も62%を占めている(図表-8)。実際に多くのオフィスワーカーが「在宅勤務」を実際に経験するなかで、業務上の支障を感じながらも「在宅勤務」を取り入れた働き方を希望しており、今後は「在宅勤務」と「オフィス勤務」を組み合わせた新たなワークスタイルが定着していく可能性がある。
図表-7 在宅勤務を実施したことによる支障の有無/図表-8 今後の在宅勤務の実施
なお、先行研究4によると、「在宅勤務」の生産性について、「コミュニケーションの量」が重要な指標となり、管理職や営業職等、対面でのコミュニケーションが求められる職種では、在宅勤務は非効率で生産性が低下すると指摘している。

米国労働省の運営する職業情報データベースである「O*NET」では、約900の職種について、必要とされるスキルや仕事内容、職場環境などの項目を「0~100」の数値で評価している。「図表-9」は「情報通信業」、「図表-10」は「学術研究,専門・技術サービス業」の主な職種における、コミュニケーションに関する5項目5の評価値を示している。

これによると、「情報通信業」では、総じて「外部の顧客への対応」が全業種平均を下回る一方で、「グループやチームでの仕事」が全業種平均を上回っている。また、「学術研究,専門・技術サービス業」では、「グループやチームでの仕事」は全業種平均を下回る一方で、「外部の顧客への対応」が全業種平均を上回る傾向がみられる(図表-10)。「情報通信業」や「学術研究,専門・技術サービス業」においても、何らしかのコミュニケーションが必要とされることから、多くの企業が「オフィス勤務」から「在宅勤務」へ直ちにシフトする蓋然性は低いのではないだろうか。しかし、「オフィス勤務」において、いわゆる「3密」の回避がこれまで以上に求められるなか、「在宅勤務」での円滑なコニュニケーションを確保できる体制が急速に整備される可能性もあり、スペースへのニーズが拡大するのか、縮小するのか、オフィス需要に与える影響を引き続き注視したい。
図表-9 「情報通信業」のコミュニケーションに関する評価
図表-10 「学術研究,専門・技術サービス業」のコミュニケーションに関する評価
 
4 荻島 駿・権 赫旭『新型コロナウィルス以降の職種ごとの在宅勤務の持続可能性について』(独立行政法人経済産業研究所特別コラム、2020 年5 月)
5 (1)「他者とのコンタクト」、(2)「他者との調整または指導」、(3)「外部の顧客への対応」、(4)「対面デスカッション」、(5)「グループやチームでの仕事」の5項目
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

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【「東京都心部Aクラスビル市場」の現況と見通し~新型コロナウィルスの感染拡大を踏まえて見通しを改定】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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