- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 政策提言 >
- 規制・制度改革 >
- 緊急事態宣言解除の条件とは-ゴールデンウイークの外出自粛徹底を
緊急事態宣言解除の条件とは-ゴールデンウイークの外出自粛徹底を
保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登
テレワーク等で自宅にこもり、気晴らしの娯楽も自粛が要請され、自粛疲れも報道される中で、いつまでこの状態が続くのかを知りたいと思うのは自然なことであろう。
筆者は感染症の専門家ではないので、緊急事態宣言がいつまで継続されるのかの判断はつかない。ただ、どのような条件が満たされると、緊急事態宣言が解除されるのかを、法律および政府の基本方針をもとに考えてみたい。
まず、特措法および施行令によれば、緊急事態宣言は、「新型コロナウイルス感染症が国内で発生し、その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼしているとき、または、そのおそれがあるものとして感染経路が特定できない、あるいは感染が拡大していると疑うに足りる正当な理由があるとき」(特措法第32条、施行令第6条)に、期間、区域、概要を定めて発出される。
したがって、国民生活等に重大な影響を及ぼすおそれがあるものとされる「感染経路が特定できない、あるいは感染が拡大していると疑うに足りる正当な理由」がなくなれば、緊急事態宣言の発出理由もなくなるということができる。そして、その場合は、速やかに緊急事態解除宣言をして国会に報告しなければならない(特措法第32条第5項)。
この点、政府の行動計画1によると、具体的には、たとえば以下の3つのいずれかに該当する場合などに、総合的に判断して解除宣言を行うとされている。
(1) 患者数、ワクチン接種者数等から、国民の多くが新型コロナに対する免疫を獲得したと考えられる場合
(2) 患者数が減少し、医療提供の限界内に収まり、社会経済活動が通常ベースで営まれるようになった場合
(3) 症例が積み重なってきた段階で、当初想定したよりも、新規患者数、重症化・死亡する患者数が少なく、医療提供の限界内に抑えられる見込みがたった場合
上記(1)については、新型コロナに対して、いまだ有効なワクチンがない。また、(3)については米国や欧州の例を引くまでもなく、国内においても、新規患者数、重症化・死亡する患者数が当初想定より少ないとは言えない。そうすると、(2)の「患者数が減少し、医療提供の限界内に収まる…」ことが解除宣言の発出事由になるものと思われる。
以上から、感染者数が一定程度収まると同時に、新たな感染者についても感染経路が追えている状態にまでならないと解除宣言は出すことできない。そのため、このような状態となるまでは、特に感染者の多い13の特定警戒都道府県2では、外出自粛および営業停止要請対象の施設・店舗の営業停止の徹底は必須である。
難しいのは、ゴールデンウイークを控えて、東京等からの移動を抑制するために対象とした、感染がない・少ない地域への対応である。仮に、13の特定警戒都道府県については、5月6日で解除宣言が出ないとする。その場合に、13都道府県以外で感染が拡大しなかった県に対して、解除宣言を出すのかどうか。また、仮に解除宣言を出すとしても、感染リスクの高い業種(たとえば接待を伴う飲食店)の再開を認めるのか、という問題がある3。長期に休業を要請すると、長期の補償を考える必要があることも視野に入れなくてはならない。
この点、直近の経験としては、3月後半の3連休で緊張がゆるみ、その後、2週間で感染が急拡大したことがあった。解除宣言が「安全宣言」として捉えられるとすると、大変問題である。緊急事態宣言の延長は専門的かつ政治的な判断が求められるが、可能な限り、広めに網をかけておくことが必要に思う。
ちなみに、この点に関連してだが、政府の行動計画では、緊急事態解除宣言後を「小康期」と呼び、第二波の可能性やそれに備える必要性につき、情報提供するとしている。「小康期」と呼ぶのは、順次経済活動等は回復されるものの、再度感染が広がりかねない状態での回復であることによるものである。
緊急事態宣言が出てから「重大局面」という言葉を聞くことがむしろ減ったように思えるが、解除宣言を出すための「重大局面」が、ゴールデンウイークであることは間違いない。報道によれば、すでに医療現場で医療従事者がかなりの程度、疲弊している。医療崩壊を防ぐためにも、このゴールデンウイークは家で過ごすことが特に重要と考える。
1 https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/dl/jichitai20131118-02u.pdf 参照。なお、特措法附則第1条の2第3項で新型インフルエンザに関する行動計画が新型コロナ感染症に関する行動計画とみなされている。
2 北海道、茨城、埼玉、千葉、東京、神奈川、石川、岐阜、愛知、京都、大阪、兵庫、福岡
3 緊急事態宣言が発出されていなくても、特措法第24条第9項に基づく営業自粛要請は可能である。
(2020年04月30日「研究員の眼」)
03-3512-1866
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2024年4月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
松澤 登のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2024/09/18 | TikTokによる児童の個人情報違法収集事件-米国連邦政府による提訴 | 松澤 登 | 基礎研レポート |
2024/09/02 | 改正ベトナム保険事業法(11)-設立と運営免許(その2) | 松澤 登 | 保険・年金フォーカス |
2024/08/27 | 改正ベトナム保険事業法(10)-設立と運営免許(その1) | 松澤 登 | 保険・年金フォーカス |
2024/08/06 | MUFGにおけるファイアウォール問題 | 松澤 登 | 基礎研レター |
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年09月24日
今週のレポート・コラムまとめ【9/17-9/20発行分】 -
2024年09月20日
英国金融政策(9月MPC公表)-今回は政策金利を据え置き -
2024年09月20日
消費者物価(全国24年8月)-既往の円安の影響で食料(生鮮食品を除く)の伸びが1年3ヵ月ぶりに拡大 -
2024年09月19日
米FOMC(24年9月)-政策金利▲0.5%引き下げを決定。20年以来となる利下げを開始 -
2024年09月19日
資金循環統計(24年4-6月期)~個人金融資産は前年比98兆円増の2212兆円と過去最高に、リスク性資産への投資が進む
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
-
2024年02月19日
News Release
【緊急事態宣言解除の条件とは-ゴールデンウイークの外出自粛徹底を】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
緊急事態宣言解除の条件とは-ゴールデンウイークの外出自粛徹底をのレポート Topへ