コラム
2020年04月30日

緊急事態宣言解除の条件とは-ゴールデンウイークの外出自粛徹底を

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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現在、新型インフルエンザ対策特別措置法(特措法)に基づき、新型コロナに関する緊急事態宣言が、全国を対象地域として発出されている。宣言の期間は5月6日までである。政府や自治体は、特にゴールデンウイーク期間中、里帰り等の移動を控えることを呼びかけ、感染が地方に波及しないように取り組んでいる。他方で、新型コロナ対応が長期にわたることを前提とした、経済的な援助政策や雇用維持施策等も政府・国会で議論されている。

テレワーク等で自宅にこもり、気晴らしの娯楽も自粛が要請され、自粛疲れも報道される中で、いつまでこの状態が続くのかを知りたいと思うのは自然なことであろう。

筆者は感染症の専門家ではないので、緊急事態宣言がいつまで継続されるのかの判断はつかない。ただ、どのような条件が満たされると、緊急事態宣言が解除されるのかを、法律および政府の基本方針をもとに考えてみたい。

まず、特措法および施行令によれば、緊急事態宣言は、「新型コロナウイルス感染症が国内で発生し、その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼしているとき、または、そのおそれがあるものとして感染経路が特定できない、あるいは感染が拡大していると疑うに足りる正当な理由があるとき」(特措法第32条、施行令第6条)に、期間、区域、概要を定めて発出される。

したがって、国民生活等に重大な影響を及ぼすおそれがあるものとされる「感染経路が特定できない、あるいは感染が拡大していると疑うに足りる正当な理由」がなくなれば、緊急事態宣言の発出理由もなくなるということができる。そして、その場合は、速やかに緊急事態解除宣言をして国会に報告しなければならない(特措法第32条第5項)。

この点、政府の行動計画1によると、具体的には、たとえば以下の3つのいずれかに該当する場合などに、総合的に判断して解除宣言を行うとされている。

(1) 患者数、ワクチン接種者数等から、国民の多くが新型コロナに対する免疫を獲得したと考えられる場合

(2) 患者数が減少し、医療提供の限界内に収まり、社会経済活動が通常ベースで営まれるようになった場合

(3) 症例が積み重なってきた段階で、当初想定したよりも、新規患者数、重症化・死亡する患者数が少なく、医療提供の限界内に抑えられる見込みがたった場合

上記(1)については、新型コロナに対して、いまだ有効なワクチンがない。また、(3)については米国や欧州の例を引くまでもなく、国内においても、新規患者数、重症化・死亡する患者数が当初想定より少ないとは言えない。そうすると、(2)の「患者数が減少し、医療提供の限界内に収まる…」ことが解除宣言の発出事由になるものと思われる。

以上から、感染者数が一定程度収まると同時に、新たな感染者についても感染経路が追えている状態にまでならないと解除宣言は出すことできない。そのため、このような状態となるまでは、特に感染者の多い13の特定警戒都道府県2では、外出自粛および営業停止要請対象の施設・店舗の営業停止の徹底は必須である。

難しいのは、ゴールデンウイークを控えて、東京等からの移動を抑制するために対象とした、感染がない・少ない地域への対応である。仮に、13の特定警戒都道府県については、5月6日で解除宣言が出ないとする。その場合に、13都道府県以外で感染が拡大しなかった県に対して、解除宣言を出すのかどうか。また、仮に解除宣言を出すとしても、感染リスクの高い業種(たとえば接待を伴う飲食店)の再開を認めるのか、という問題がある3。長期に休業を要請すると、長期の補償を考える必要があることも視野に入れなくてはならない。

この点、直近の経験としては、3月後半の3連休で緊張がゆるみ、その後、2週間で感染が急拡大したことがあった。解除宣言が「安全宣言」として捉えられるとすると、大変問題である。緊急事態宣言の延長は専門的かつ政治的な判断が求められるが、可能な限り、広めに網をかけておくことが必要に思う。

ちなみに、この点に関連してだが、政府の行動計画では、緊急事態解除宣言後を「小康期」と呼び、第二波の可能性やそれに備える必要性につき、情報提供するとしている。「小康期」と呼ぶのは、順次経済活動等は回復されるものの、再度感染が広がりかねない状態での回復であることによるものである。

緊急事態宣言が出てから「重大局面」という言葉を聞くことがむしろ減ったように思えるが、解除宣言を出すための「重大局面」が、ゴールデンウイークであることは間違いない。報道によれば、すでに医療現場で医療従事者がかなりの程度、疲弊している。医療崩壊を防ぐためにも、このゴールデンウイークは家で過ごすことが特に重要と考える。
 
1 https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/dl/jichitai20131118-02u.pdf 参照。なお、特措法附則第1条の2第3項で新型インフルエンザに関する行動計画が新型コロナ感染症に関する行動計画とみなされている。
2 北海道、茨城、埼玉、千葉、東京、神奈川、石川、岐阜、愛知、京都、大阪、兵庫、福岡
3 緊急事態宣言が発出されていなくても、特措法第24条第9項に基づく営業自粛要請は可能である。
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保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

(2020年04月30日「研究員の眼」)

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