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緊急事態宣言の対象が全国に拡大した意味-故郷(いえ)に帰ることはやめよう

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登
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そこで、政府の新型コロナウイルス感染症対策本部が決定した基本方針1を読むと、今回新たに特定警戒地域として発出された6つの道府県を合わせた、合計13の特定警戒都道府県では、感染経路がよくわからない感染者が多く発生している。また、倍化時間(感染者数が2 倍になるまでの時間)が数日~10日程度であるという状況にあるとされている。そのため、新型コロナ感染症を抑え込むには、感染経路をたどりクラスターをしらみつぶしにする疫学調査による対応では不十分である。したがって、感染拡大防止のために、人々の外出や、各種施設での密集を抑制することにより、人同士の接触を減らす以外の手段がないことが明らかであるとされている。
他方、それ以外の県においては、いまだこのような状況にはなく、現時点で緊急事態宣言を出す理由は、13の特定警戒都道府県のものとは異なる。この点、基本方針では、「都市部からの人の移動等によりクラスターが都市部以外の地域でも発生し、感染拡大の傾向が見られる。そのような地域においては、医療提供体制が十分に整っていない場合も多く、感染が拡大すれば、医療が機能不全に陥る可能性が高い。…緊急事態措置を全国に拡大することにより、さらなる国民の行動変容の御協力をお願いする必要がある」とある。なお、適用期間は5月6日までである。
政府が基本方針で示したことを端的に言い換えるとすれば、このゴールデンウィークには、13の特定警戒都道府県以外の県含む、観光地への旅行はもちろん、故郷への帰省も自粛してほしい、ということだと思われる(Stay home. Do not go back to your hometown.)。
すでに帰省した学生や、離島への観光客が、帰省先・観光先で発症した例が報道されている。日ごろの自粛疲れのある人々は、親や友人の顔を見てゆっくりしたいところかもしれないが、今回は我慢である。自分が無自覚感染者である可能性が否定できないことを、十分意識すべきである。
今回の全国への緊急事態宣言発出は、感染者の確認されていない岩手県をはじめとして、感染症例が少なく、かつ感染経路をはっきりさせている県にとっては、意外であったかもしれない。飲食店や遊興施設等への営業自粛要請も各県でばらばらである。県内の感染状況では、事業者の収入途絶を意味する営業自粛要請等まで踏み込む状況に至っているとは言いにくい県もある。政府の対策本部では、各県の実情に合わせて、各県がその独自の裁量で各種要請判断を行うべきものと考えているのであろう。
しかし、各県の緊急事態宣言対応に振り向けられる人的資源等に鑑みれば、国は緊急事態宣言適用地域拡大にあたって、各県に準拠とさせうる一定のガイドラインを示しておく必要があったと思う。すなわち、政府の基本指針の中に、各県がどのような状況になれば、どの程度の営業自粛要請を求めるといった、ある程度の考え方を示しておくべきであったろう。
緊急事態宣言を全国に拡大せざるを得なかったのは、先の研究員の眼「新型コロナ緊急事態宣言で何が変わるか-「ロックダウン」とはどういうものか」で述べた通り、日本における「ロックダウン」は、移動制限を伴わない点で、いわゆる海外で行われているロックダウンとは異なることと関係がある。東京都や大阪府といった、流行地の地域内に対する制限のみで済まないところが、日本の緊急事態対応制度の限界といえなくもない。
安倍首相は3月9日の参院予算委員会で、新型コロナウイルスへの対応を、公文書管理法のガイドラインに基づく「歴史的緊急事態」に指定すると表明した2。今回の対応の決定過程が、記録により後日、検証できるということである。当初想定の通り5月6日に緊急事態宣言が解除され、新型コロナ感染が収束に向かったとしても、感染症との戦いは、それで終わりではない3。人権保護も踏まえつつ、どのような緊急事態対応制度が適切なのか、今回の経緯を踏まえた検討が行われることを期待したい。
1 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000622473.pdf
2 3月10日に閣議決定された。https://www8.cao.go.jp/chosei/koubun/hourei/ryoukai/200310ryoukai.html
3 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律の前文参照。なお、前文にある通り、感染者に対するいわれなき差別や偏見があったことの反省に立つべきことを我々は改めて意識しなければならない(もちろん医療関係者やその家族に対するものも同様である)。https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=79998826&dataType=0&pageNo=1
(2020年04月20日「研究員の眼」)

03-3512-1866
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2024年4月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
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