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新型コロナ 見えない先行き-どうなれば「小康状態」や「終息」といえるのか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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日本でも、集団感染を避けるために、小中高校の臨時休校や在宅勤務、外出自粛などの拡大防止策が取られている。政府は、換気の悪い密閉空間、多数が集まる密集場所、間近で会話や発声をする密接場面、の3つの「密」を避けるよう、注意を促している。こうした措置によって感染拡大のペースは落ち着くのか。そして、どうなれば小康状態に至り、終息宣言が出せるのか。少し考えてみたい。
◆集団感染を防ぐカギは「潜在的な感染者」
これは、発症して医療施設で受診する患者以外にも、潜在的な感染者がいることを想定したものだ。潜在的な感染者には、感染したが発症前の人(発症前感染者)、症状が出ない人(不顕性感染者)、症状は出るが医療施設で受診しなくても軽症で治る人(軽症感染者)がいる。こうした潜在的な感染者も、感染力を持つ場合がある。
その場合、発症して受診した患者を隔離しても、潜在的な感染者からの感染を防げなければ、感染は拡大してしまう。
それでは最近の感染症ではどうだったのか、みてみよう。
まず、2002年11月に流行開始し、2003年7月に終息したSARS(重症急性呼吸器症候群)では、潜伏期間や発症初期の患者の感染力は比較的低かったとみられている。患者が本格的な感染力を持つのは、発症して肺炎に至る約5日後からといわれる。このため、発症前感染者や発症初期の患者の隔離を徹底することで、感染拡大を食い止めることができた。その結果、短期間で感染の終息に至ったとされている。
いっぽう、2012年9月に初めて患者が報告されたMERS(中東呼吸器症候群)の場合は、SARSに比べて重症化しにくく、不顕性感染者や軽症感染者が一定割合いた。不顕性感染者からの感染力がどの程度あるのか、現在もよく分かっていない部分はあるが、とにかく隔離は必要とされてきた。ただ、残念ながら潜在的な感染者からの感染は、いまも続いているようだ。中東地域で、いまだに感染が終息していない背景には、こうしたことがあるとみられている。
インフルエンザの場合も、潜在的な感染者が問題となりやすい。インフルエンザに感染して症状が出ても、通常の風邪と見分けがつきにくい。このため、なかなか病院に行って診療を受けず、少々無理をして会社や学校に来てしまう。こうした行動により、感染が拡大しやすいといわれている。
それでは、今回の新型コロナウイルスはどうか。現状では、不顕性感染者や軽症感染者が一定程度いるとみる研究者が多いようだ。感染拡大のペースを落ち着かせるためには、潜在的な感染者からの集団感染を防ぐことが必要となる。そのため、潜在的な感染者を念頭に置いた拡大防止策が実施されているのが現状である。なお、感染の実態解明に向けては、引き続き、疫学や病理学の調査・研究が進められるだろう。
◆どうなれば小康状態といえるのか?
たとえば、ハーバード大学のマーク・リプシッチ教授は、アメリカの雑誌記事の中で、こう予測している。
〈来年までに、世界の40%から70%の人々が、新型コロナウイルスに感染するだろう。ただし、すべての感染者が重症となるわけではない。感染者の多くは、軽症か不顕性感染となるだろう〉
(The Atlantic誌/2020.2.24)
そこで、現段階では、感染拡大を小康状態に持ち込むことが、当面の目標となる。
政府は2013年に、「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」を公表している。この計画は、今回、新型コロナも適用対象に加えるよう改正された、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づいて作成されているものだ。そこでは、感染症の拡大をいくつかの時期に区分けして、各期に応じた対策を取ることとしている。
まず、海外で感染症が発生した「海外発生期」。次に、国内で初の患者が発生した「国内発生早期」を経て、国内で初めて患者の接触歴が疫学調査で追えなくなった「国内感染期」に入る。この時期には、医療体制を維持しつつ、健康被害を最小限に抑えて、生活や経済への影響をできるだけ小さくすることが、目標となる。
今回の新型コロナウイルスでいうと、2月19日に開かれた政府の専門家会議で、国内の状況としてはすでに感染早期という初期の段階ではなく、拡大感染期に入ったとの意見が出ていた。現在(2020年4月初め)は、感染経路が不明な患者が各地で発生しており、国内感染期に入っているとみることができる。
そして、患者の発生が減少し、低い水準でとどまっている「小康期」に至れば一段落。大流行は一旦終息している状況だ。小康期には、生活や経済の回復を図り、流行の第二波に備えることとされている。ただし、この小康期に入るための数値基準は示されていない。
◆過去の感染症でみる「小康状態」
【SARS】
SARSは2002年11月に、中国広東省仏山(フォーシャン)市で流行が始まった。当時、WHOには、中国で妙な肺炎が発生している―とのレポートがなされていた。このレポートは中国語で書かれていて、タイトルだけが英語に翻訳されていた。残念ながら当時、情報伝達に用いられていたのは、英語とフランス語だけだったため、レポートの内容が翻訳して読まれることはなく、対応が後手に回ったとされる(※現在は中国語、アラビア語、スペイン語、ロシア語も用いられるようになっている)。
その後、香港、台湾、ベトナム、シンガポール、カナダ、アメリカなどに感染が拡大した。2003年3月に、WHOは警告レベルを引き上げて、感染地域への緊急渡航自粛勧告を発令した。そして、この感染症は「世界規模の健康上の脅威」であると宣言した。
これを受けて、感染地域各国では、徹底した患者の隔離や、海外からの入国者に対する検査が行われた。その結果、5月中旬にピークを迎えた感染は、6月下旬には急激に抑制された。
【韓国でのMERS】
一方、MERSの韓国での感染拡大では、2015年5月中旬から感染した患者が出た。感染していた中東地域からの帰国者が、いくつかの医療機関を受診したうえで入院したことで、あちこちの病院で二次感染が発生したとされる。6月上旬には感染が拡大していった。韓国では、最終的に38人の死亡者が発生した。
このときも、感染者の隔離を徹底したことで、6月下旬には感染拡大のスピードが低下した。また、韓国では感染が医療施設内にとどまり、市中感染には至らなかった。このことも、早期の封じ込めにつながった背景にあるといわれている。
【新型インフルエンザ】
また、2009年の新型インフルエンザの感染拡大では、4月にアメリカやメキシコで、ブタ由来のウイルスが、人から人に感染する例が複数確認された。感染は若年層、特に子どもを中心に拡大した。WHOは世界的な広がりに対して、警戒水準のフェーズ(段階)を引き上げ、6月12日よりパンデミックに移行することを宣言した。
日本でも、5月から感染が始まったが、感染が拡大しつつあった大阪府や兵庫県で公立学校の臨時休校を行うなど、拡大防止措置が徹底されたことで、爆発的な感染拡大には至らなかった。日本では公的医療保険制度が整備されており、発症した人が少ない負担で医療施設を受診できたことも、拡大防止の背景にあったといわれている。
その後、北中米や南米の地域を中心に、世界での感染拡大は続いた。秋には感染者数の把握が困難となり、WHOは12月に感染者数の公表をやめ、死亡者数のみを集計することとした。しかし2010年に入ると、流行の状況は、通常の季節性インフルエンザとそれほど変わらなくなり、死亡者の発生はピークを越えた。8月10日、WHOは世界的な大流行は終結したとして、パンデミックを解除した。
◆コロナで「終息宣言」を出す条件
また、MERSの韓国国内での感染拡大について、韓国政府は2015年12月24日をもって終息宣言を発表した。これも、2~14日間とされる潜伏期間の2倍の期間が経過しても、ウイルス患者が出てこなかったことによるとされる。なお、中東地域では、MERSはまだ終息していない。
今回の新型コロナウイルスでは、WHOは潜伏期間を1~14日と見積もっている(WHOのサイトのQ&Aより/2020.3.9)。この潜伏期間を前提として、SARSやMERSと同じ基準によれば、28日間、新たなウイルス患者が出ないことが終息宣言の条件になると考えられる。
新型コロナウイルスについては、現段階では小康状態や終息は見通せていない。そこで、政府や自治体は、引き続き、さまざまな拡大防止策を進めていくものと考えられる。
一般市民の側でも、一人ひとりが手洗いなどの予防策を取る、集団感染を避ける(換気の悪い密閉空間、多数が集まる密集場所、間近で会話や発声をする密接場面、の3つの「密」を避ける)など、感染を小康状態や終息につなげるよう努力する必要があると思われるが、いかがだろうか。
(2020年04月01日「研究員の眼」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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