コラム
2020年04月08日

緊急事態宣言下の雇用維持-解雇の前に考えるべきこと

保険研究部 常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長・ジェロントロジー推進室研究理事兼任   松澤 登

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4月7日、新型インフルエンザ特措法に基づいて、7都府県に緊急事態宣言が発出された。これまでは、一般的な協力要請条項に基づく外出自粛要請があっただけだが、現時点では明確な法的根拠に基づく外出自粛要請に加えて、施設や店舗の閉鎖要請が行われる案が示されている(東京都、4月8日現在)。罰則付きではないものの、要請を受けた事業者は施設・店舗の閉鎖を行わざるを得ないであろう。

収入が断たれた、あるいは激減した事業者としては、何とかして資金繰りをつけていかなればならない。政府からの無利子融資など緊急支援は行われるにせよ、営業を行えないのであれば、労働者の解雇という選択肢が視野に入ってくると思われる。そこで、どのような場合に解雇ができうるのか、今一度整理してみる。

まず、大企業や中堅企業で一般的な、期間の定めのない雇用契約についてである1。このような期間の定めのない雇用契約においては、民法ではいつでも解約の申し入れができ、2週間を経過すると雇用契約が終了するとされている(民法第627条)。しかし、この規定が適用される雇用形態は、一般の企業におけるものを対象とはしておらず、ごく限定的2である。通常は労働基準法(労基法)の適用があり、30日前に予告を行わなければならない(労基法第20条)。さらに、解雇理由に合理性があり、かつ社会的相当性を持たなければ、その解雇は権利濫用として無効となる(労働契約法第16条)。雇用によって生計を維持している労働者の保護の観点から、このような規律になっている。

今回の場合のような、経営悪化等による解雇(整理解雇)の相当性についての判断は、4つの要素を勘案してなされる3。(1)人員削減の必要性、(2)整理解雇を選択することの必要性、(3)解雇される人の選定の妥当性、(4)手続きの妥当性である。簡単に言い換えると、(1)として、人員削減が企業経営上やむを得ないといえること、(2)として、職場の配転や一時帰休などで解雇を回避する努力を行ってきたこと、(3)として、整理解雇される人を合理的・客観的に説明できる基準で選択したこと、および(4)として、労働組合や労働者に対して納得性のある説明や協議を行ったことである。
 
ところで、観光業や宿泊業、あるいは夜間営業の飲食店などでは、少なくとも緊急事態宣言が終了するまで営業のめどが立たず、政府措置による緊急融資を受けても、給与は払えないというところもあるかと思われる。ただ、現在、雇用調整助成金の特例適用が打ち出されており4、たとえば、中小企業で解雇を行わない場合には、企業の支払った休業手当の9割が助成対象となる予定である。この休業手当は、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合において、使用者は休業期間中の労働者に対して、平均賃金の6割以上の手当てを支払うものとされているものである(労基法第26条)。

しかし、今回の行政からの要請による休業は、使用者の責に帰すべきものとは言いにくい。この点に関し、休業手当の支払いおよび助成金の考え方について、東日本震災の時の厚労省の見解が参考になる5。いずれ厚労省から正式な見解が出ると思われるが、東日本震災の時のQ&A にもあるような、使用者が責任の有無にかかわらず休業手当を支払い、それについて政府が助成金を支払うという取り扱いをすべきと思われる。

この政府の支援策が実施されることを前提とすれば、事業再開の見通しが直ぐには立たないとしても、上記の解雇の相当性を判断する4要件のうち、特に(2)が満たされない可能性がある。そのため、施設・店舗を開けられないとしても、直ちに解雇するのではなく、従業員を一時休業とし、休業手当の支払いと雇用助成金の給付をまずは検討すべきと考えられる。
 
以下、そのほかの職種についても見ていきたい。まず、パートなど有期の労働者であるが、契約期間中は、やむを得ない事由がある場合でなければ解雇することができない(労働契約法第17条)6。この「やむを得ない事由」は、上述の期間の定めのない労働者に対する解雇の相当性に関する事由よりも、使用者にとって厳格に判断される7。また、有期の労働者に対する期間満了時の更新拒絶についても、過去、契約更新を反復してきたなど一定の条件が満たされる場合には、上述の解雇権濫用法理の類推適用がある。したがって、期間の定めのない雇用契約と同様の取り扱いの検討をすべきである。

最後に、派遣労働者であるが、派遣には登録型と常用型がある。登録型は派遣先企業が決まった段階で、派遣期間だけ派遣元企業と雇用契約を結ぶものである。登録型の労働者は派遣元企業に対して、上述の有期の労働者と同様の立場にたつので、上で述べたところと変わらない。

他方、常用型は通常、派遣元企業と期間の定めのない雇用契約を締結しているものである8。これは、上述の期間の定めのない労働者で述べたところが適用される。
 
以上述べてきたように、日本においては、どのような雇用形態であっても、簡単には解雇をすることはできない。また、労働者の生活維持や事業再開時の人材の確保という観点からも、簡単に解雇をするべきではない。しかし、そもそも事業者が破綻してしまえば、雇用を維持することはできない。政府には、事業に困難をきたす中小事業者を中心として、緊急事態宣言期間を乗り越えられるだけの支援を切に要望したい。
 
1 いわゆる総合職や一般職といった職種に加え、短時間労働者であっても雇用期限が決まっていない職種が含まれる。
2 家内労働者などに限定される。
3 菅野和夫「労働法(第11版補正版)」p746参照。
4 https://www.mhlw.go.jp/content/000615395.pdf なお、雇用調整助成金は本則では雇用保険の被保険者を対象にして支給されるが、今回の特例措置では、被保険者以外の労働者についても支給されることが提案されている。
5 https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000017f9e.html#1-2 Q1―3,A1―3参照。
6 なお、民法第628条はやむ得ない事由がある場合は直ちに契約を解除できるとされているが、この規定は労働者からの解除申し出にのみ適用がある。
7 前掲注3、菅野p334参照。
8 一年以上の有期の雇用契約を締結している場合もあるが、この場合は有期の労働者と同じと考えればよい。
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保険研究部   常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長・ジェロントロジー推進室研究理事兼任

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
一般法務、企業法務、保険法・保険業法

(2020年04月08日「研究員の眼」)

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