コラム
2020年03月05日

新型コロナ対策、政府はどこまでできる?-政府だよりでない自主的行動を

保険研究部 取締役 研究理事・ジェロントロジー推進室兼任   松澤 登

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新型コロナウイルスはアジア以外にも拡散し、世界的なパンデミックの懸念が強くなってきた。感染率や死亡率などが必ずしもはっきりしていない状況ではあるが、感染防止のための自助努力は怠るべきではないだろう。

さて、政府は小中高校に対して3月2日からの一斉休校を要請した1。学校を休みにするかどうかは公立の学校であれば、各自治体の教育委員会の権限である2。今回は政府が事実上の要請を行うことによって、感染症予防を企図した3。しかし、感染症予防のために国民の権利を制限し、義務を課すには一般的には法的な根拠が必要となる。安倍首相は3月2日の参議院予算委員会でさらなる感染症予防の観点から、既存の新型インフルエンザ等対策特別措置法を新型コロナウイルスにも適用できるよう改正を目指す旨の発言を行った。

そこで、本稿では、現行の法令の下で、何ができて何ができないのかを見てみることとしたい。
 
まずは、水際対策である。すでに国内感染例が300人台(クルーズ船除き。3月5日現在)となっているために、水際対策はさほど意味がないという指摘もあるが、新型コロナウイルスが特に流行している海外地域からの来航制限の有効性を否定することはできないであろう。

島国である日本には、海外から航空機または船舶で入国するが、日本に上陸するには、検疫と入国審査という二つの手続きが必要となる4。若干ややこしいが、入国と上陸とは別の概念であり、航空機や船舶により日本の領空・領海内に事実として入ることを入国、入国審査を受けて国内に滞在するようになることを上陸という。
 
まず、海外から来航する航空機または船舶は、検疫を受けなければ、着陸あるいは入港することができない(検疫法第4条)とされている。事前に検疫を受けていない船舶・航空機は、空港や港に設けられた検疫区域に着陸し、あるいは入港することになる(検疫法第4条但し書き、第8条)。

新型コロナウイルスは2月13日に検疫法の第34条の感染症として政令指定されており、検疫所長は、検疫を受けた者のうち、新型コロナウイルスの患者を指定の病院へ「隔離」すること(検疫法第14条第1項第1号、第15条)、および感染のおそれのある者を指定の病院への入院や、宿泊施設内・船舶内での収容により「停留」(とどめおくこと)することができる(検疫法第14条第1項第2号、第16条第2項)。この対象となる者の国籍は問わない。武漢からの帰国者を千葉のホテルへ停留するようなことや、ダイヤモンドプリンセス号におけるような旅客の停留は本条によることができる5。なお停留の期間については今回のケースでは336時間(14日)と政令で定められた。
 
次に、外国人6に対しては、新型コロナウイルスに感染している場合は入国拒否ができる。具体的には、出入国管理法(正式名称は出入国管理及び難民認定法)では外国人の上陸にあたって、入国審査官の審査を受けなければならないとしている(出入国管理法第6条、第7条)。そして、感染症法(正式名称は感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)に定める感染症の所見のある者は上陸が許されない(出入国管理法第5条第1項第1号、第7条第1項第4号)。この点、新型コロナウイルスは1月28日に感染症法の定める指定感染症として定められたので該当となる。

さらに、1月31日の閣議了解により、中国湖北省における滞在歴がある外国人については出入国管理法第5条第1項第14号の上陸拒否事由に該当するものとされた7。こちらは症状の有無、感染の有無にかかわらず、上陸を拒否できる。

この点についてだが、出入国管理法第5条第1項第14号は「法務大臣において日本国の利益又は公安を害する行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」としている。このような一般的な書きぶりの条文の下では、当時、流行地と考えられていた湖北省以外の中国の各地域からの上陸を全面拒否するということは難しかったのではないかと思われる。今後は、新コロナウイルスのような感染症が海外で発生する場合に備え、特定の国・地域に所在した外国人の上陸を包括的に拒絶できる条文を追加するかどうかも検討していく必要があろう。
 
次に、国内の感染症予防であるが、上述の通り、新型コロナウイルスは政令改正により感染症法における指定感染症とされた。指定感染症に対しては対策基本方針の策定(感染症法第9条)、情報収集・公表(感染症法第12条、第15条、第16条)が行われる。

また、新型コロナウイルスにかかっているとの疑いのある者に健康診断を受けさせ(感染症法第17条)、就業制限を行い(感染症法第18条)、入院させることができる(感染症法第19条)。また、感染者のいた場所や所持物を消毒することなどができる(感染症法第26条の3~第30条)。これらは都道府県知事の権限とされており、政府が行えるのは知事に対する事実上の要請となる。
 
そして、現状で、できないことは次に述べる新型インフルエンザ等対策措置法(以下、措置法)に定めてあることである。措置法では、新型インフルエンザ等が発生・まん延し、国民生活・国民経済に重大な影響を及ぼす事態であって政令に定めるものに該当するに至った場合には「緊急事態宣言」を行うこととされている(措置法第32条)。

この場合、都道府県知事は、住民に対して、生活維持のために必要な場合を除いて、みだりに外出しないよう要請することができる(措置法第45条第1項)。また、学校、社会福祉施設、映画館や野球場等の興行場、その他多数の者が利用する施設等の利用停止を要請することができる(措置法第45条第2項)。

そのほか、住民に予防接種を受けさせ(措置法第46条)、医療や医療品等の確保(措置法第47条)、医療施設のための土地等の強制利用(措置法第49条)などができる。また、マスクや医療品など必要物資の輸送や売渡を要請することができ(措置法第54条、第55条)、価格の安定のための措置を取らなければならない(措置法第59条)。

さらに経済的な対策も行われ、政府金融機関等による緊急融資(措置法第60条)、日本銀行による金融・通貨の安定措置(措置法第61条)、および諸々の財政上の措置等が行われる(措置法第62条~第70条)8
 
措置法に関しては国会審議を待たないとどうなるかは予断できない。さらに言えば、憲法第22条で移動の自由が定められている日本においては、感染者かどうかを問わず一律移動を禁止するといった措置法を超えるような都市封鎖を行うことはできない。

恐れるべきは、感染者の急増による医療崩壊である。会社でもバーチャル会議への移行、テレワークの一層の推進や時差出勤などやるべきことは多くあると思われる。政府の指示や要請があればやりやすいということはあるものの、政府の動きを待たずに、自主的な適切な対策を実施していくべき状況にあると考える。
 
1 https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/202002/27corona.html
2 東京都教育委員会の通知 https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/press/press_release/2020/files/release20200228_02/tuuti_200228.pdf
3 全都道府県に対して一斉に休校を求めたことに批判がある。しかし、どの県を休校にし、どの県は休校にしないかを政府が区別して要請することも難しいのではないかと思われる。
4 本稿とは関係がないが、税関審査も入国時に必要な手続きである。三つを合わせCIQ (Customs, Immigration, Quarantine)と呼ばれる。
5 ただし、政府はいったん新型コロナウイルスを1月29日に検疫法第2条第3号の感染症として指定していた。感染者を隔離、停留する根拠条文(第14条~第16条)の適用がある検疫法第34条の感染症に指定に変更したのは本文の通り、2月13日である。若干、政令改正が後手に回った感はある。
6 法律は日本国籍者以外を外国人としている。なお、日本国籍者以外であっても、特別永住者は第7条第1項第4号の適用がないため、仮に新型コロナウイルスに感染していても再入国にあたって上陸を拒否されることはない。
7 http://www.moj.go.jp/content/001314234.pdf 参照。韓国大邱地域については、http://www.moj.go.jp/content/001315710.pdf 参照。
8 さらには行政上課されている期限の猶予や、法人の破産決定、相続承認の時期などの特例も定められている。
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保険研究部   取締役 研究理事・ジェロントロジー推進室兼任

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
一般法務、企業法務、保険法・保険業法

(2020年03月05日「研究員の眼」)

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