コラム
2020年03月10日

新型コロナに関する水際対策の抜本的見直し-ビザの効力停止など強力な措置も採用

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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筆者は3月5日に、新型コロナウイルス対策で政府はどこまでできるのかについて、解説を行った(「新型コロナ対策、政府はどこまでできる?-政府だよりでない自主的行動を」)1。その中で、水際対策についても取り上げたが、翌3月6日の閣議了解で水際対策の抜本的見直しがされた。この点、触れておきたい。

見直し前の対策はおおむね、以下の通りである。
  • 入国時の検疫による、感染者の隔離、および感染のおそれのある者の停留(国籍を問わない)
  • 外国人2である感染者の入国拒否
  • 中国湖北省・浙江省や韓国大邱市等の滞在歴のある外国人、および湖北省・浙江省で発行された旅券を持つ外国人の入国拒否
 
今回の変更点は、
上記①(隔離・停留)については、中国・韓国からの入国者に対して、14日間の停留(自宅またはホテルでの待機、移動時の公共交通機関利用の自粛)を求める(3月9日午前0時より)3。また、
上記③(滞在歴による入国拒否)について、該当地域を韓国慶尚北道の韓国の一部地域や、イラン・コム州などイランの一部地域まで拡大した(3月7日午前0時より)4

また、新たに、
  • 中国(香港・マカオ含む。以下同じ)内および韓国内の日本国大使館または総領事館で発給された査証(ビザ)の効力の停止(3月9日午前0時より)
  • 香港・マカオ、または韓国の旅券を保有している者に対するビザ免除措置の停止(3月9日午前0時より)
が行われた5。【図表】
水際対策の抜本的見直し
以下、解説を行う。まず①について、見直し前の対策では、事実上、武漢からのチャーター便での帰国者や、ダイヤモンドプリンセス号の乗客など、特定された入国者などに限って停留することしかできなかったが、今後は中国・韓国からの入国者全員を停留することとなる。後述の通り、中国・韓国の旅券保有者は上陸許可が下りないので、この運用は日本国籍者が中国・韓国から帰国する場合や、中国・韓国以外の国の旅券保有者が中国・韓国経由で日本に上陸しようとする場合に適用がある。なお、感染症状があれば「隔離」となり、病院への入院が求められる。

次の②は従前通りである。

③は範囲が拡大されたが、もともと、旅券の発行地はともかく、滞在歴については、あくまでも入国しようとする人の自己申告に過ぎなかった6。この点、政府は中国・韓国に限って、当該国内の日本大使館等で発行されたビザの効力の停止等をすることとした(④⑤)。

そもそもビザとは、入国審査にあたって提出が必要とされているものである(出入国管理法第6条)7。ビザは、外国にある日本国大使館等が、外国人の旅券の有効性および日本への入国が可能であることを確認し、ビザの条件下において、日本への入国及び滞在が適当であるとの推薦する趣旨のものとされている。また、一定の国・地域の旅券保有者は、商用、会議、観光、親族・知人訪問等を目的とする場合には,ビザを取得する必要はない8。この点、香港、マカオ、韓国の旅券保有者に対しては、90日以内の滞在についてビザが免除されている。

3月9日午前0時からのビザ免除措置停止およびビザの効力停止により、中国および韓国の旅券で日本に上陸しようする人は、通常は航空会社や旅客船会社の出発前のカウンターで搭乗を拒否されることとなる。

日本では、国民の出国の自由は憲法で保障されており(憲法第22条)、感染流行地に関しても渡航禁止はできない9。したがって、感染流行地以外であっても今後海外渡航する計画がある人は、渡航先の情報に注意する必要がある。ちなみに、日本からの入国・入域制限を行っている国・地域が27あり、入国後の行動制限も含めると90の国・地域が何らかの制限をとっている10ので、これに関しても情報確認をしておく必要がある。

報道を見ると、イタリアをはじめとして欧米でも新型コロナウイルスの感染者が急増している。入国制限が中国・韓国だけでよいのかなどは情勢を見つつ、決めていかざるを得ない。また、ヒトやモノが動かなくなることにより、経済に与える影響も深刻である。政府・立法府には迅速かつ丁寧な対応を期待するところである。
 
1 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=63888?site=nli
2 特別永住者を除く。以下、本稿の述べる範囲に関しては、特別永住者は日本国籍者と同じ取り扱いである。
3 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/covid19_qa_kanrenkigyou_00001.html
4 http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/20200131comment.html
5 https://www.mofa.go.jp/mofaj/ca/fna/page4_005119.html
6 在中国日本大使館HP  https://www.cn.emb-japan.go.jp/itpr_ja/00_000387.html
7 入国した後は在留資格が問題とはなりうるものの、在留するためにビザが必要とされるわけではないため、すでに入国している滞在者は関係がない。
8 外務省HP https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/visa/tanki/novisa.html
9 海外渡航情報が、一番危険度が高い国でも退避勧告までなのはこの自由が保障されているからである。
10 外務省HP https://www.anzen.mofa.go.jp/covid19/pdfhistory_world.html 
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保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

(2020年03月10日「研究員の眼」)

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