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変動金利型住宅ローンの残高増加が家計支出に与える影響
金融研究部 金融調査室長・年金総合リサーチセンター兼任 福本 勇樹
1――残高が伸びる変動金利型住宅ローン
一方で、最長で35年にもなる変動金利型の住宅ローンは、借り手から見ると将来の金利上昇によって利払い負担が増えてしまうリスクを長きにわたって抱えることになる。しかし、変動金利型を選択することで、借り手は当面の「利払いコストの低減」と「元本返済の早期化」のメリットを享受することができる。
低金利環境の長期化がメインシナリオだと仮定した場合、特に後者の「元本返済の早期化」の場合は元本返済による金利リスクの低減スピードを加速することができるため、将来の金利上昇への備えという意味で変動金利型の選択は合理的だと言うこともできる。また、住宅ローン減税(控除)制度のような税制面のサポートも金利リスクを引き受けるリスクバッファの役割を果たしているといえるだろう。
2――金利上昇局面に転換した際に想定される家計への影響
しかしながら、仮に急激な金利上昇というシナリオが発現した際に、変動金利型の借り手が増えることで家計支出に対してどの程度の影響が想定されるのかについて分析を行っておくことはリスク管理の観点で意味があると思われる。
住宅金融支援機構の集計によると、直近の住宅ローンの新規貸出は年間約21兆円である。簡易的に見積もると、変動金利型住宅ローンの新規貸出はその7割の14兆7,000億円程度ということになる。また、住宅ローン残高全体は2019年9月時点で約200兆円である。変動金利型の住宅ローン残高の簡易的な見積額はその64%の約128兆円ということになる。
この住宅ローン残高の中には残存年限の短い債務も長い債務も含まれる。先述の「民間住宅ローン貸出動向調査」によると、完済債権の平均経過期間は約16年である。そこで、すべての住宅ローンが16年で借り入れられているものと仮定する。これらの条件をもとに、各残存年限における変動金利型住宅ローン残高を推定した(図表3)。
この想定の下で全て元利均等返済するものと仮定し、適用金利を0.45%として簡易的なシナリオ計算を行うと、元利返済キャッシュフローの概算は年間15兆6,000億円程度になる(「シフトなし」シナリオ)。
しかしながら、本稿で行った分析は簡易的なものであるため、いくつか追加的に考慮すべき部分はある。例えば、金利上昇局面に転換した場合、変動金利型から固定金利型への借り換えや、繰り上げ返済が促進される可能性が高い。そのため、変動金利型の適用金利が1%上昇した際の元利返済キャッシュフローへの影響は、上記で想定した推計結果よりも大きなものになる。借り換えや繰り上げ返済には一定の手数料がかかることや、変動金利型と固定金利型では少なくとも金利差が0.5%~1.0%あることも考慮に入れる必要がある。将来に金利上昇が期待される際には、イールドカーブもスティープ化するため、この金利差はさらに拡大していると予想される。
また、働き盛りの資産形成層など、住宅ローンの残存年限が長い債務者に金利上昇の悪影響が集中することになる。特に、資産形成層は金融資産規模も小さく賃金からの収入が中心となるため、この世代が享受する資産効果は相対的に小さい。それゆえ、金融政策や財政政策による資産形成層に対する賃金増の効果が十分でない状況で、低金利政策が解除されるようなことになれば、資産形成層は消費を切り詰めるか、資産形成のための貯蓄や投資を減らすかの選択に迫られることになる。
1 変動金利型の場合、適用金利や返済額の変更までに一定のラグがあり、返済額の変更についても上限が定められている。そのため、元利返済キャッシュフローが短期間に増加することはない。
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03-3512-1848
(2020年01月30日「基礎研レター」)
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