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2025年06月12日

金融技術革新の4類型とその波及効果-キャッシュレス化にみる「制度から始まるイノベーション」の形

金融研究部 金融調査室長・年金総合リサーチセンター兼任 福本 勇樹

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■要旨
 
  • 政府が掲げた「2025年6月までにキャッシュレス決済比率を40%程度に引き上げる」という目標は、2024年に前倒しで達成された。
     
  • スマホ決済(QRコード)の普及は、制度的信頼や技術的安全性によるものではなく、「利用経験を通じて信頼が形成された」という逆順現象として捉えられる。
     
  • クレジットカードは制度整備(総量規制・与信管理など)を通じて「危うい後払い」という消費者の認識から「制度化された信用手段」に転換した。
     
  • シュンペーターの「制度・担い手・対象」の三要素モデルは、金融分野の技術革新にも適用可能で、媒介機能の更新を中心に変化を捉えることができる。
     
  • 金融技術革新は、(1)制度の変化に起因する『制度更新型』、(2)担い手の変化による『機能転換型』、(3)対象の拡張を伴う『包摂拡大型』、(4)社会的行動の変化による『社会的受容型』の四つに類型化できる。
     
  • 金融技術革新が社会に定着するかどうかは「制度との接続性」が鍵だが、制度内/外の境界は流動的で、法制度・運用・社会的文脈の三層から影響を受ける。
     
  • キャッシュレス化は「社会的受容型」の技術革新に該当し、個人の消費行動、企業のマーケティング、自治体の地域政策にまで波及して、決済領域を超えた広範な行動変容を促している。
     
  • 金融技術革新の本質は『制度と構造の再設計』にあり、他分野のイノベーションを支える社会基盤としての役割を担っている。


■目次

1――なぜキャッシュレス化は進展したのか:「制度的な信頼の確立」という視点
  1|制度転換としてのキャッシュレス化──政策誘導と社会的要因の複合的作用
  2|スマホ決済の普及と社会的信用の構築にみる逆順現象
  3|クレジットカードと後払い文化の制度内化
  4|金融サービスにおける「信用の制度的確立」の重要性
2――金融分野における技術革新の特徴
  1|三要素モデルによる金融市場の再構成
  2|漸進的革新としての金融イノベーション
3――金融技術革新の4類型
  1|分類の前提と三要素モデルの応用
  2|制度更新型
  3|機能転換型(担い手の拡大・更新)
  4|包摂拡大型(対象の拡大)
  5|社会的受容型
4――金融技術革新を決定づける条件:「制度との接続」
  1|制度内と制度外の境界線
  2|制度的受容を左右する3つの視点
  3|制度との接続に関する事例
5――金融技術革新の波及効果
  1|キャッシュレス化がもたらした行動変容と社会基盤の再構築
  2|金融技術革新に期待される役割

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年06月12日「基礎研レポート」)

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金融研究部   金融調査室長・年金総合リサーチセンター兼任

福本 勇樹 (ふくもと ゆうき)

研究・専門分野
金融・決済・価格評価

経歴
  • 【職歴】
     2005年4月 住友信託銀行株式会社(現 三井住友信託銀行株式会社)入社
     2014年9月 株式会社ニッセイ基礎研究所 入社
     2021年7月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・経済産業省「キャッシュレスの普及加速に向けた基盤強化事業」における検討会委員(2022年)
     ・経済産業省 割賦販売小委員会委員(産業構造審議会臨時委員)(2023年)

    【著書】
     成城大学経済研究所 研究報告No.88
     『日本のキャッシュレス化の進展状況と金融リテラシーの影響』
      著者:ニッセイ基礎研究所 福本勇樹
      出版社:成城大学経済研究所
      発行年月:2020年02月

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レポート紹介

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