2020年01月28日

子宮頸がんとHPVワクチンの現状

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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1――感染によるがん

国立がんセンター「がん情報サービス1」によると、日本人のがんの原因の約20%が感染による。B型やC型の肝炎ウイルスによる肝がん、HPV(ヒトパピローマウイルス)による子宮頸がん、ピロリ菌による胃がんがその大半を占めるとされる(図表1)。

現在、ピロリ菌やC型肝炎ウイルスは内服薬で駆除2を、B型肝炎や女性のHPVは予防接種で感染予防3をすることが多い。
図表1 がんの発生に関係するウイルス・細菌
 
1 国立がん研究センター「がん情報サービス(https://ganjoho.jp/public/index.html)」より
2 ピロリ菌は2回目まで保険適用。C型肝炎ウイルスは、根治を目的とする場合は保険適用。場合によっては国の助成制度を利用できる。
3 B型肝炎、HPVはいずれも定期接種として公費で受けることができる。
 

2――子宮頸がんの罹患と死亡

2――子宮頸がんの罹患と死亡

1|国内の状況
子宮頸がん(上皮内がんを除く)の年齢階級別罹患率をみると、罹患時の年齢のピークが若年化していることがわかる(図表2)。

死亡率も、40代以下で高まっている(図表3)。子宮頸がんによる死亡数は、2018年に2800人程度で増加傾向にあり、そのうち40代以下が2割前後となっている。
図表2 全国年齢階級別推定罹患率(対人口10万人)/図表3 全国年齢階級別死亡率(対人口10万人)
2|諸外国の状況
一方、日本産婦人科学会のサイトによると、HPVワクチン接種を早期に取り入れたオーストラリア、イギリス、米国、北欧では、HPV感染や前がん病変の発生が有意に低下していることが報告されている(図表4)。また、これらの国々では、ワクチン接種世代と同じ世代でワクチンを接種していない人のHPV感染も低下しているとのことだ。

WHOが2019年5月に公表した資料では、(1)予防接種の普及、(2)検診受診の増加、(3)罹患後のケアの充実に国が介入することで、子宮頸がんが排除できる可能性を示している。
図表4 2018年の子宮頸がんの全年齢に対する年齢調整罹患率の推計

3――ワクチン接種状況

3――ワクチン接種状況

図表5 ワクチン接種のべ人数の累計 1|国内の状況
国内においては、2013年4月にHPVワクチンの定期接種が開始されたが、接種後に重篤な症状を含む副反応疑い事例が報告された。このため、同6月には、適切な情報提供ができるまでの間、各自治体から対象者への積極的な勧奨は行わないこととなった。この頃までに、およそ338~339万人程度が接種している(図表5)4

2015年には、報告された副反応疑いの2,584件のうち追跡可能だったものは1,739件(全報告の67%)だったが、そのうち9割が回復(回復した/軽快・通院不要)していると報告5されている。しかしながら、国等による積極的勧奨の一時差し控えは継続しており、以降は2019年8月までのおよそ6年間で接種者は4.5万人の増加にとどまっている(図表6)。

一方、自治体レベルでワクチンの有効性を示す研究が示されはじめている6が、現在、定期接種対象者へのワクチンの有効性等に関する情報の提供については、自治体によって対応が区々となっている。
 
4 厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会(1~44回)資料より。2013年7月30日までにのべ890万件の接種があり、一人あたり2.4~2.7回接種したとして推計されている。
5 厚生労働省「副反応追跡調査結果について(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/chousa/index.html)」より
6 日本産婦人科学会のサイト(http://www.jsog.or.jp/modules/jsogpolicy/index.php?content_id=4)がわかりやすい
2|諸外国の状況
HPVによるがんの9割は子宮頸がんと言われ、圧倒的に女性患者が多く、公費による接種も女性が中心だが、図表1のとおり肛門がんや口腔がん等の原因ともなる。ワクチン接種に積極的なアメリカやカナダ、オーストラリアでは、こういった子宮頸部以外のHPVによるがん対策として、男性にも接種を推奨している。男性も接種することで、ワクチンを接種していない女性を子宮頸がんから守る役割も果たす。

また、現在、日本では、子宮頸がん全体の50~70%の原因とされる2種類(16型・18型)について予防接種を行っているが、9%以上の子宮頸がんをカバーするとされる9つの型のワクチンが接種されている国もある。
 

4――ならば検診を

4――ならば検診を

以上のとおり、子宮頸がん罹患者は若年化し、死亡者も増えている。予防接種の有効性は多くの研究で報告されており、副反応疑いとみられる事例のうち重篤なものは確率的にはわずかである。しかし、現在、国内においては、定期接種でありながら、積極的には推奨されていないという特異な状態にあり、たとえわずかな確率であってもリスクを負わせる不安は大きく、接種すべきかどうかの判断に迷うといった声は大きい。

WHOが提唱する(1)予防接種の普及、(2)検診受診の増加、(3)罹患後のケアの充実のうち、(1)予防接種を受けないのであれば、(2)検診を受けることが望ましいと考えられる。ところが、現在、子宮頸がん検診の受診率は、上昇傾向にあるものの49歳以下で年間37.4%(過去2年間で47.5%)と、諸外国と比べても低い(図表6)。

現在、厚生労働省では、わかりやすい情報提供に向けた検討が進んでいる。まずは検診を定期的に受ける努力をするとともに、こういった情報を積極的に収集して、今後予防接種を受けることも視野に入れて考えてみるのがよいだろう。
図表6 子宮がん・子宮頸がん検診受診率
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

(2020年01月28日「保険・年金フォーカス」)

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