2020年01月21日

EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関するCPを公表(9)-自己資本-

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4―「過度な変動」について

ここでは、「過度な変動」に関して、制限付きTier1やTier2及びTier3への限度についての検討内容及び助言内容を報告する。

1|以前の助言内容
階層化制限に関しては、EIOPAの前回の勧告では、制限なしTier1自己資本に対比しての20%の制限にだけ関係していた。

「EIOPAは、保険契約者と受益者を適切に保護するために必要なTier1自己資本の健全性を保護するために、20%の上限を維持するよう欧州委員会に勧告する。EIOPAは、ハイブリッド金融商品がTier1の全て又は最も重要な部分を代表するような制度を支援することはできないと考えている。もし20%が廃止された場合、EIOPAは、結果として生じる資本の質の低下を十分に緩和するようなハイブリッド金融商品の特徴に対する何らの変更もないと考えている。」

2|関連法規
ソルベンシーII指令第98条及び委任規則第82条に各階層に適用される適格性と制限について規定されている。

3|課題の特定及び分析
政策課題2::現在の階層化制限によって生じる過度なボラティリティ(rT1の制限の計算基準の変更)
景気循環への影響として、SCRではなく、Tier1自己資本項目の合計に占める割合で表される制限付きTier1自己資本項目の上限から、制限無しTier1自己資本の額が減少することにより、制限付きTier1自己資本の適格額も減少することになる。

これに対する解決策として、以下の2つのオプションが検討された。

オプション1:制限付きTier1の制限に変更なし

オプション2:制限付きTier1の制限値を変更し、それをSCRのパーセンテージ(SCRの20%、以前はTier1項目の総額の20%)で表し、Tier1自己資本項目の最低限度を60%に引き上げる。

4|助言内容
分析の結果として、EIOPAは、以下のように提案している。
 

rT1の限界値の算出根拠について、EIOPAは欧州委員会に対し、これを変更しないよう勧告する。

T2+T3制限の変更の可能性に関して、EIOPAは欧州委員会に対し、下位階層に対する50%制限を削除しないよう勧告する。

 

5―「利用可能性基準の明確さ」について

5―「利用可能性基準の明確さ」について

ここでは、「利用可能性基準の明確さ」、特にダブルレバレッジの概念に関しての検討内容及び助言内容を報告する。

1|以前の助言内容
 以前の欧州委員会からの問題に対する分析から、以下の問題が特定され、委任規則の改正等によって欧州委員会によって考慮されてきた。

・PLAM(元本損失吸収メカニズム)の運用
・rT1評価損の税効果
・最初の5年間における払戻又は償還の取扱い

2|関連法規
ソルベンシーII指令第93条に自己資本を階層別に分類する際の特性と特徴、第94条に階層への分類に対する主要な基準、が規定されており、さらに委任規則第70条及び第71条、EIOPAによる自己資本の分類に関するガイドラインがある。

銀行規制については、CRRに関連する規定がある。

3|課題の特定及び分析
殆ど全てのNSAsの利用可能性基準は十分に明確で適切であるが、EIOPAは、分類を決定する特徴に合致しない自己資本の懸念がある「ダブルレバレッジ比率100%超」の会社の事例を分析するのが有用であると判断した。

政策課題4:過剰な(100%超の)ダブルレバレッジ比率
「ダブルレバレッジ」は、グループ内の親会社が、外部で発行された親の非Tier1資本によって資金提供される子会社にTier1資本サポートを提供する場合に発生する。監督当局が注目すべき点は、親会社が自身のTier1項目に比較して、子会社に対する親会社のTier1自己資本の比率が100%を超える場合、すなわち「過剰な」ダブルレバレッジである。

2つのオプションを示している。

オプション1
ソルベンシーII指令で、グループ監督者がダブルレバレッジの水準を評価し、ダブルレバレッジが過度(例えば、レバレッジ比率が100%を超えている)の場合に措置を講じるべきことを明確化する。これは、ソルベンシーII指令第258条の延長とみることができ、同指令は、特にグループ内取引が保険会社と再保険会社の財政状態に対する脅威である場合に、グループの監督当局が全ての必要な措置を取ることを認めている。

オプション2
規制対象会社に、親会社の財務及びソルベンシーの状況を評価し、ダブルレバレッジ比率が100%を超える場合に生じるリスクを軽減するように(第2の柱の要件として)要求する(例えば、適格な親会社が負うキャッシュ・フロー・リスク、親会社の金利債務を満たすために収入が不足した場合の流動性リスク、会社がダブルレバレッジのリスクを管理するためにとる可能性のある経営行動を評価する等)。

4|助言内容
分析の結果として、EIOPAは、以下のように提案している。
 

EIOPAは欧州委員会に対し、グループ監督者がダブルレバレッジの水準を評価し、ダブルレバレッジが過度である場合(例えば、レバレッジ比率が100%を超えている場合)に措置を講じるべきであることを明確にするために、ソルベンシーII指令第258条を改正するよう勧告する(オプション1)。

 

6―「項目の正しい属性」について

6―「項目の正しい属性」について

ここでは、「項目の正しい属性」ということで、永久的な利用可能性と劣後性の特性に従う階層への自己資本項目の帰属の適切性に関するオプションを含む検討内容及び助言内容を報告する。

1|以前の助言内容
以前の欧州委員会からの課題に対する分析から、以下の課題が特定され、委任規則の改正等によって欧州委員会によって考慮されてきた。

・PLAM(元本損失吸収メカニズム)の運用
・rT1評価損の税効果
・最初の5年間における払戻又は償還の取扱い

2|関連法規
ソルベンシーII指令第93条に自己資本を階層別に分類する際の特性と特徴、第94条に階層への分類に対する主要な基準、が規定されており、さらに委任規則第70条及び第71条、EIOPAによる自己資本の分類に関するガイドラインがある。

銀行規制については、CRRに関連する規定がある。

3|課題の特定と分析
政策課題5EPIFPsTier1への帰属
NSAsは、この調査結果から、劣後性の特性に応じた階層への項目の帰属に関する課題を特に取り上げていない。

ただし、議論の余地があるのは、EPIFP(Expected Profits Included in Future Premiums:将来保険料からの期待利益)が最も質の高い自己資本であるuT1に分類されるために想定される特徴を備えているかどうかであるとして、具体的には以下の観点からの分析を行っている。

1.EPIFPは倒産を加速させるのか?
2.EPIFPは損失を吸収するために直ちに利用可能か?
3.IFRS第17号保険契約におけるEPIFPと契約サービスマージンの比較

PIFPの性質を考慮し、会社の資本の質を確保する目的を考慮し、以下のオプションが特定されている。

オプション1:自己資本規制の変更(指令2009/138/EC第37条の修正)なし
オプション2:rT1自己資本としてのEPIFPの認識の制限
オプション3:EPIFPの階層化のダウングレード 

4|助言内容
分析の結果として、EIOPAは、以下のように提案している。
 

EIOPAは、EPIFPsのTier1への帰属を変更しないよう勧告する。EIOPAはEPIFPsの取扱に関する作業を継続する。

 

7―まとめ

7―まとめ

以上、今回のレポートでは、ソルベンシーIIの2020年のレビューに関するCPのうちの、「自己資本」に関する項目について報告した。

次回のこのシリーズのレポートでは、「SCR(ソルベンシー資本要件)」について報告する。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2020年01月21日「保険・年金フォーカス」)

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