2020年01月21日

EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関するCPを公表(9)-自己資本-

文字サイズ

1―はじめに

ソルベンシーIIに関しては、レビューの第2段階として、ソルベンシーIIの枠組みの見直しが2021年までに行われる予定となっており、その検討が既にスタートしている。欧州委員会は、EIOPA(欧州保険年金監督局)に対して、2019年2月11日に指令2009/138/EC2(ソルベンシーII)のレビューに関する助言要請1を行った。これを受けて、EIOPAが検討を進めていたが、2019年10月15日に、ソルベンシーIIの2020年レビューにおける技術的助言に関するコンサルテーション・ペーパー(以下、「今回のCP」という)を公表2した。

これまで6回のレポートで、今回のCPの具体的内容について報告してきており、前回までのレポートでLTG(長期保証)措置及び株式リスク措置、さらに技術的準備金に関する内容を報告してきた。

今回のレポートでは、「自己資本」に関する項目について報告する。  

2―「自己資本」に関する欧州委員会からの助言要請

2―「自己資本」に関する欧州委員会からの助言要請

ここでは、「自己資本」に関する欧州委員会からの助言要請について、報告する。これまでのレポートでの報告様式とは異なり、「欧州委員会からの助言要請」については、この章で一括して報告し、次の章以下で、これらの助言要請に対する検討内容及びその助言内容について、報告する。
 

3.18.単体レベルの自己資本
ソルベンシーIIの枠組みにおける自己資本の階層構造は、指令2013/36/EU及び規則(EU)No 575/2013の下で適用されるものとは大きく異なる。

したがって、EIOPAは以下の事項について報告を求められ、必要に応じて助言を求められる。

・保険フレームワークと銀行フレームワークの間の階層化アプローチの違いが、2つのセクターのビジネスモデルの違いによって正当化されるか否か3

・ソルベンシーIIの枠組みにおける自己資本の階層化構造が、自己資本の過度のボラティリティを発生させる程度

・自己資本の利用可能性の判断基準が十分に明確かつ適切であるか。

加えて、現在ソルベンシーIIの自己資本に含まれている項目が、永久的な利用可能性と劣後性の特性に応じて適切に階層に帰属されているかどうかを評価するようEIOPAに依頼する。

 
3 例えば、銀行規制はTier3の自己資本を含まず、Tier2の自己資本項目に上限を設けていない。
 

3―「階層化と付随的自己資本」について

3―「階層化と付随的自己資本」について

ここでは、「階層と付随的自己資本」に関する項目として、階層の数と構成及び付随的自己資本(ancillary own funds:AOFs)への変更についての検討内容及びその助言内容を報告する。

1|以前の助言内容
階層の数
2018年にEIOPAは、ソルベンシーII委任規則の特定項目に関する第2の助言セット(EIOPA-BoS-18/075)を欧州委員会に提出した。そのセクション19では、保険及び銀行セクターにおける自己資本の比較をカバーしている。EIOPAは次のことを求められた。

「フレームワーク間で適格な項目を比較し、その分類の違いを評価し、それぞれの違いについて、2つのセクターのビジネスモデルの違い、自己資本要件の決定における要素の相違、又はその他の理由により正当化されるかどうかを評価する。」

ディスカッション・ペーパーで確認された主な相違点は、銀行制度における追加Tier1とソルベンシーII委任規制における制限付きTier1(restricted Tier 1:rT1)の相違に関するものである。特に(1)PLAM(元本損失吸収メカニズム)の運営、(2)rT1の償却に対する税効果、の2つの話題があった。

EIOPAは、rT1資本の特徴は修正されるべきではなく、PLAMは資本の質を提供し、元本価値はトリガー時に損失を吸収するものであり、資本商品をトリガーする主な目的は規制資本の違反を是正することではないと回答した。

2018年のEIOPAによるPLAMに関する勧告では、3か月のSCR(ソルベンシー資本要件)違反の強制トリガーに達した場合でも、75%のSCR違反とMCR(最低資本要件)違反トリガーが発生した場合に限り、部分的な償却を許可するよう勧告した。最低、rT1は、75%のSCR違反があった場合には完全に償却されるように、定額法で償却されることが推奨された。MCRに違反した場合は、rT1をすぐに完全に償却する必要がある。

会社は、SCRへの適合性が回復するまで、3ヶ月ごとにSCRカバレッジを再計算し、その後3か月ごとにSCRカバレッジの悪化をさらに評価する必要がある。

EIOPAは、PLAMのトリガーを銀行制度と整合させるのではなく、発行時にrT1金融商品の元本額を完全に認識することを推奨している。しかし、NSAs(各国監督当局)は、会社が権利放棄を要求する場合には、書面への記載又は転換の要件から追加的な権利放棄を適用することを認めており、また、法人の法定監査人がこれを確認し、75%の SCRの強制的トリガーがない限り、書面への記載又は転換の課税効果が当該会社のソルベンシーポジションを弱める可能性が高いことを証明している。

EIOPAはまた、ソルベンシーIIを税制や規制の要請に関連してCRR4に近づけるための変更を勧告した。

rT1に関する20%の制限が検討されたが、そこから生じる複雑さはごくわずかで、EIOPAは利害関係者の主張が制限の撤廃を正当化するとは認めなかった。EIOPAは、rT1の20%の制限を維持するよう欧州委員会に勧告した。
 
4 CRR(Capital Requirements Regulation)は、信用機関や投資会社に対する資本規制

AOFs
AOFsに関してEIOPAはこれまで勧告していない。
2|関連法規
ソルベンシーII指令の第89条、第90条、第93条から第99条等に加えて、EIOPAによる自己資本区分に関するガイドライン等がある。

さらに、銀行に関する規制としては、CRRやCRD5Vパッケージにおけるレバレッジ比率規制(Tier1資本の3%)等が挙げられる。
 
5 CRD(Capital Requirements Directive)
3|課題の特定及び分析
銀行と保険のフレームワーク間の階層化アプローチの主な違いは、次のように要約される。

・CRRは、信用リスク、市場リスク、オペレーショナル・リスクをカバーするための最低資本要件を定めている。保険会社と同様に、信用機関もリスクをカバーし、損失を吸収するための十分な自己資本を保有しなければならない。

・銀行業務フレームワーク内の自己資本は、2つの階層の資本に分類される。Tier1は特に継続企業向けであり、Tier2は特に清算時に保有することが求められる。

・ソルベンシーIIでは、SCR及びMCRの計算に適格な資本として3段階の資本を保有できる。全ての階層は、清算能力と共に、継続企業時の損失吸収能力がなければならない。

・銀行のフレームワークでは、階層化は資本対リスク・ウェイト資産(保有資産はウェイト付けされる)の比率として計算される。比率はTier1とTier2の両方で計算される。

・保険の枠組みの中では、自己資本は負債に対する資産の超過部分であり、SCR又はMCRの計算に向けて、特徴に従って各階層に分類され、各階層にパーセンテージが付与される。

・銀行では、最小普通株式Tier1(Common Equity Tier 1:CET1)比率、T1比率及び合計自己資本比率が課される。主な監視トリガーはCET1比率に基づいている。保険では、監督上の介入は(SCRとMCRのカバーするための)自己資本比率に基づいているが、ソルベンシーIIでは、制限無しTier1(Unrestricted Tier 1:uT1)に最低、他の階層に上限要件を課している。

・監督上のトリガーは2つの比率に基づく。一方はSCRに対する自己資本の合計の比率に基づき、もう一方はMCRに対する自己資本のサブセット(Tier3を除く)に基づいている。

・CRRはCET1に対して、主に当年度損失、無形資産、繰延税金を特別控除する。将来の収益性に依存する繰延税金資産については、CRR第48条において強制的な控除の免除が規定されている。ただし、いかなる場合においても自己資本に含めることができる限度額はCET1の10%に制限されている。ソルベンシーIIでは、前述の各要素の適格性を自己資本計算に対して評価する。また、無形固定資産(ITA)についても、同様にTier3の算入をSCRの15%まで認め、MCRに対しては認めないこととしている。

保険フレームワークと銀行フレームワークの間の階層化アプローチの違いは、主に以下の理由から、両者のビジネスモデルの違いによって正当化される。

・様々なタイプのリスク
銀行は短期負債(当座預金と短期預金)と長期資産(貸付)を保有し、保険部門(特に生命保険)では長期負債を支えるために保険料が支払われる。

・保険部門の商品サイクルの転回及び事前に認識されない利益

・保険ソルベンシー・フレームワークの特徴:ソルベンシーIIは、全ての資産と負債を市場価値で評価し、自己資本を資産超過額として算出する、市場全体で一貫したバランスシート・アプローチに基づいている。これは、取得原価と発生主義会計を使用する傾向がある銀行規制とは対照的である。

・流動性

異なる契約期間が資本の永続性の異なる要件(ソルベンシーIIのTier2は10年、銀行のTier2は5年)の存在を説明している。特定の項目(AOFとしての補完的貢献の要請)は、保険業界に特有の法的形式である変動拠出型の相互又は相互型の組合について正当化される。

破綻処理期間の違いから、銀行にとってより迅速な処理は、ソルベンシーIIの50%よりもTier1が占める自己資本の割合が高いことを正当化する。

共同立法者たちがなぜ保険部門に3段階、銀行部門に2段階を導入したのかは明らかではない。しかし、保険のフレームワークでは2つの資本要件(SCRとMCR)が導入されているが、銀行セクターには実質的に同等のものはない。Tier3は、SCRではなくMCRが破綻した場合にのみ利払い延期のトリガーとなるが、銀行と保険のコンバージェンスは、理論的には、金融機関の債券資本市場の厚みを増すことにつながる。しかし、保険会社が市場の厚みに関連する資本市場にアクセスすることが困難であるという経験的証拠はない。

EIOPAは、ソルベンシーIIからTier3を削除するためには、まず、当該Tierを構成する主な項目、すなわち、期限付劣後債、ネット繰延税金資産及び付随的自己資本を評価する必要があるとして、それぞれの項目を分析している。その結果は、以下の通りである。

(1) 付随的自己資本
AOFsは、コールされた時点でそれぞれTier1とTier2のどちらに転換するかによって、Tier2とTier3に分類される。

Tier3を削除して階層数を銀行規制と整合させた場合、現在Tier3に分類されているAOFsを適格自己資本項目として維持することは、コールの有無にかかわらず、ほぼ不可能となる。しかし、これまでTier3のAOFsは殆ど発行されていないため、この削除による影響は非常に限定的である。また、要求時にコール可能であるため、コールされた場合はTier2の基本自己資本項目になる。

現在Tier2に分類されているAOFsについては、Tier1商品となるか又はコールされた場合にTier1に引き上げられることから、Tier3がフレームワークから削除されても影響を受けない。

(2) ネット繰延税金資産
仮にTier3が削除されたとしても、DTA(Deferred Tax Asset:繰延税金資産)はソルベンシーIIにおける自己資本項目として認識されるべきである。ソルベンシーIIのEIOPAからTier3が削除された場合、EIOPAはDTAsをTier2に再分類することを推奨する。これには、SCRの一定割合(例えば15%)又は自己資本全体の一定割合(例えば、ソルベンシーII指令第98条に基づくTier3自己資本の上限である適格自己資本総額の1/3)として表される特定の限度が含まれるかもしれない。

(3) 期限付劣後債務
Tier3に含まれる劣後ローンについては、Tier1又はTier2に区分される要件を満たしておらず、質が低い。Tier3劣後債の一部の特徴(例えば、当初の満期は5年)は銀行業のTier2の特徴と類似しているが、ビジネスモデルの性質の違いや保険リスクの長期的な特徴から、両者の間のプルデンシャルな収束は正当化されない。したがって、Tier3が削除される場合には、Tier3劣後債を自己資本項目として認識しないことが唯一の選択肢となる。

なお、NSAsの大半は、銀行と保険のフレームワークが大きく異なるという主な理由から、3つの分類から2つの分類への階層構造の変更を支持していない。

以上から、考えられる変更は、Tier3の削除で、この場合、Tier3のAOFs及びTier3の劣後債務は自己資本の項目として認識されなくなる。しかし、DTAsは一定の限度(例えばSCRの15%)まで適格となる。ただし、EIOPAは現時点ではこの変更をサポートしていない。
4|助言内容
 

EIOPAは、保険フレームワークと銀行フレームワークとの間の階層化アプローチと制限アプローチの違いを評価し、特にCRD IV又はソルベンシーIIの下で承認された会社間の異なるビジネスモデルを考慮すると、これらのアプローチは正当であると判断した。資本を保持するための要件と、損失の吸収方法は大きく異なる。

したがって、EIOPAは、ソルベンシーIIの階層構造を変更しないことを勧告する。

Xでシェアする Facebookでシェアする

中村 亮一

研究・専門分野

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関するCPを公表(9)-自己資本-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関するCPを公表(9)-自己資本-のレポート Topへ