2019年11月14日

韓国における日本製品の不買運動の現状は?-年齢、支持政党、地域により大きな差が…-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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今年の7月、日本政府が韓国向け輸出管理の運用の見直しを発表してから、韓国では日本製品に対する不買運動が広がっており、3ヶ月が過ぎた今も、衰える気配を見せていない。

1――韓国における不買運動の現状

韓国の世論調査会社「リアルメーター」は、7月から不買運動の参加率を調査しており、9月19日時点まで合計6回の調査が行われた。不買運動の参加率は、第1回目の調査(7月10日)の48.0%から上昇し続け、第6回目の調査(9月19日)では65.7%まで上昇している。一方、参加していない人の割合は同期間に45.6%から25.5%に大きく低下した(図表1)。
図表1 不買運動参加率の推移
男女別には女性が67.1%で男性の64.3%より高く、地域別には江原道が77.0%で最も高い一方、京畿道・仁川は59.9%で最も低く、地域間の差がはっきり現れた(図表2)。年齢別には文在寅大統領の支持層が多い40代(73.7%)や50代(73.6%)の参加率が高い反面、60歳以上の参加率は57.3%で、40代や50代の参加率を大きく下回った。支持政党別には、進歩系野党の「正義党」や与党の「共に民主党」の支持層の参加率が、それぞれ91.0%と88.6%で高いことに比べて、最大野党の「自由韓国党」と保守系野党の「正しい未来党」の参加率は、それぞれ46.1%と44.5%で低かった(図表3)。
図表2 地域別不買運動の参加率
図表3 支持政党別不買運動の参加率

2――不買運動の影響

2――不買運動の影響

では、不買運動が日本製品の販売や日本への観光客に与えた影響を見てみよう。まず、韓国国内での日本車の販売台数は、不買運動前の6月の3,946台から7月には2,674台、8月には1,398台、さらに9月には1,103台まで減少した。輸入車に占める日本車の占有率は6月の20.35%から9月には5.36%まで下落した。また、アサヒビールの売上は前年同月に比べて99%も減少し、9月の韓国からの訪日客数は20万1200人で、前年同月の47万9733人に比べて58.1%も減少した。
図表4 2019年の日本車の販売台数と輸入車に占める占有率の推移
一方、ユニクロの売上も7月以降急減している。ユニクロは2005年に韓国市場に進出し、2015年には韓国国内の単一ブランドとしては初めて売り上げが1兆ウォンを超え、2018年の営業利益が2,000億ウォンに達するなど、韓国での業績は好調であった。しかしながら、不買運動が始まってから、ユニクロの売上は減少し始めた。さらに、7月16日に「不買運動の影響は長期継続するとは考えていない」とのユニクロ役員の発言があったことが火をつけて、ユニクロに対する不買運動は加速化することになった。但し、ユニクロが、韓国進出15周年を記念して、10月3日から最大で半額になる感謝セールを実施すると、店舗には買い物客が押し寄せ、オンラインストアでは一部の人気商品が売り切れるなど、少し回復の気配を見せ始めた。しかしながら、その後、ユニクロがYouTube上で公開したCM動画の表現に対して韓国で批判が寄せられており、「不買運動」を超えて「退出運動」まで起きることになった。問題になったCMは、13歳の女性が98歳の女性に「How did you used to dress when you were my age?(私の年齢の時は、どんな格好をしてたの?)」と尋ねると、98歳の女性が「Oh my god, I can't remember that far back(あれほど昔のことは覚えていない)」と答える。但し、なぜか韓国語の字幕は「80年前のことは覚えていない」と意訳されたものがつけられていた。80年前の1939年は、日本の朝鮮半島統治の後期に当たる時期であるので、このコマーシャルの字幕は韓国で猛烈な反発を招き、韓国国内のユニクロ店舗前では抗議デモまで行われた。
 

3――日韓両国にとってマイナスの影響が

3――日韓両国にとってマイナスの影響が

このような不買運動は日韓両国の経済にマイナスの影響を与えている。9月の日本の韓国への輸出額は、前年同月に比べて15.9%減り、貿易収支の黒字額も25.5%減少した。半導体の製造などに使われる化学製品3品目に関して日本政府が韓国への輸出規制を厳格化したことにより関連製品の輸出ができなかったことや、韓国での日本製品の不買運動が影響を与えた可能性が高い。さらに、米中貿易戦争の長期化などの影響もあり、9月の全体輸出額は5.2%減少した6兆3685億円、輸入額は1.5%減少した6兆4915億円にとどまった。この結果輸出は10カ月連続、輸入は5カ月連続減少している。

韓国も状況は同じである。9月の韓国の日本への輸出額は、前年同月に比べて6.0%減り、輸入額も8.6%減少した。また、韓国政府が11月1日に発表した10月の全体輸出額は、前年同月に比べて14.7%減少し、11カ月連続でマイナスとなった。これは2016年1月以来の約4年ぶりの大幅減少である。中国向けの輸出が減少したことや半導体価格が下落したことなどが影響を与えている。

一方、韓国からの観光客が多かった九州、大阪など日本の地域の被害も拡大している。

10月2日に釜山海洋水産庁が発表した資料によると、釜山と、長崎県の対馬市、大阪市、山口県の下関市、福岡市の4カ所を結ぶ国際旅客船の9月の乗客数は前年同月に比べて80%も減少した約2万1千人に過ぎなかった。韓国人観光客の急減に対し、対馬市の比田勝尚喜市長は、新たな観光客誘致に向けた宿泊施設整備費や宣伝費への財政支援を要請した状況である。

韓国側の被害も少なくない。韓国国内の居酒屋や和食屋、そして日本向け旅行会社の売上も急減した。長崎県の対馬市で韓国人が運営する食堂やホテルも売上が急減し、廃業や休業が続出している。大韓航空は10月14日、勤続年数満2年以上の社員を対象に自己啓発、家族の世話、再充電などを積極的に支援できるよう短期希望休職制度を実施すると発表した。大韓航空は短期希望休職制度の実施が従業員のワーク・ライフ・バランスを支援するなど業務改善の一環であると発表しているものの、不買運動などの影響で日本への観光客が減少し赤字幅が拡大したことが原因である可能性もある。さらに、大韓航空やアシアナ航空のような航空会社のみならず、ハナツアー、MODETOURなどの旅行会社の株価も大きく下落している。韓国政府は、日本の輸出規制の見直しや景気低迷により売上が減少した旅行・観光業界や、日本製品の不買運動により被害を受けた零細自営業者に、それぞれ1,000億ウォンと100億ウォンの助成金を10月から支援し始めている。

日韓関係の悪化が続く中で10月24日に安倍晋三首相と韓国の李洛淵(イ・ナギョン)首相との会談が21分間行われた。1年ぶりの会談であり、対話の重要性や現状への危機感をともにしたのは評価できるものの、お互いの認識の差異を縮めることはできなかった。

日韓関係が改善されるまでには、思ったより長い時間がかかるのかも知れない。しかし、時間がかかるとしても対話を継続していくことを諦めてはならない。飛行機では約2時間しかかからない距離であるが、日本人と韓国人の考えは大きく異なる。普通に話しても、アクセントの違いにより、誤解が生じることもある。口ではやさしく言ったつもりだが、文章になるとその感情が伝わらなく、本当の気持ちが伝わらない場合もある。また、表現の違いにより誤解されることも多い。従って、今後は、お互いを理解するための更なる努力が必要である。お互いに尊敬し合い、お互いの短所を言いあうよりは、長所を褒め、痛いところを触れないように努力することが大事である。まずは、民間や企業が現在の関係を維持しながら、少しずつ改善していけば、両国の関係は必ず良くなる。

実際、日本政府の輸出規制の見直しが発表される前までの韓国人の日本に対する印象は継続的に上昇傾向であった。つまり、日本に対して「良い印象を持っている/どちらかといえば良い印象を持っている」と答えた割合は、2013年の12.2%から2019年には31.7%まで上昇していた。
図表5 相手国に対する印象の推移
「元徴用工問題に対する日韓の溝埋まる」、「日本政府、輸出規制の見直しを撤回」、「韓国政府、GSOMIAの終了を撤回、日米韓協力の重要性を強調」、「不買運動が終了、日韓の交流が増加」というような、明るいニュースがマスコミから報道される日が来ることを、筆者は首を長くして待っている1
 
1 本稿は、ニューズウィーク日本版に掲載された「韓国における日本製品不買運動の現状──年齢、支持政党、地域により大きな差が...」を修正・ 加筆したものである。https://www.newsweekjapan.jp/kim_m/2019/11/post-4.php
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
労働経済学、社会保障論、日・韓における社会政策や経済の比較分析

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~  日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

(2019年11月14日「基礎研レター」)

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