2018年07月04日

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4環境配慮など地域コミュニティと共生する視点
(1) CSR実践に向けた地域コミュニティとの共生
前述した通り、企業はCRE戦略を実践する上でCSRを踏まえなければならない。CSRを踏まえたCRE戦略では、各種のワークプレイスやファシリティが立地する地域社会との共生を図り、良き企業市民として地域活性化に貢献することが重要だ。

不動産は外部性を持つため、社会性に配慮した利活用が欠かせない。特に土地は地域に根ざした公共財的な性格を持ち、再生産することができない経営資源である。企業がそこに研究拠点や工場、営業店舗、本社などを構築し、土地を開発・使用する段階において、地域社会の自然環境や景観に何らかの影響を与えるため、事業を行う上で地域コミュニティの理解と協力が欠かせない。そこでCRE戦略が果たすべき役割としては、地域社会の信頼を勝ち得るために、まずは自然環境や景観に配慮した適切な不動産管理が不可欠だ。

企業は、不動産の利活用が地域社会の自然環境や景観に及ぼす「外部不経済」をしっかりと抑制・解消する一方で、そのような環境・景観に配慮した物的な不動産管理にとどまらず、交通・物流網や産業構造の転換・高度化、地域の雇用拡大など、不動産の利活用が地域社会に生み出す「外部経済効果」を最大限に引き出すことに取り組むことが求められる。CREは、事業を通じた地域活性化や社会課題解決など「社会的価値(social value)の創出」を経済的リターンに対する「上位概念」ととらえる、「社会的ミッション起点のCSR経営」を実践するためのプラットフォームの役割を果たすべきである14

例えば、企業がある地域に研究拠点を構築した場合、その研究拠点が地域社会で創出し得る社会的価値としては、地域の大学・高等専門学校(高専)・公設試験研究機関(公設試)や行政関連機関との産学官連携や、地域の中堅・中小企業との企業間連携による共同研究開発の推進を通じた、社会変革につながる新技術・新事業の創出や地域人材の育成が挙げられる。さらに、研究開発施設や試作施設などのファシリティを産学官連携や企業間連携におけるオープンイノベーションの場として活用したり、場合によっては、そのためのファシリティの新増設を行うことも考えられよう。
 
14 拙稿「CSRとCRE戦略」ニッセイ基礎研究所『基礎研レポート』2015年3月31日を参照されたい。
(2) 地球環境・景観に配慮する視点
持続可能な社会の構築に向けて、企業による環境問題への対応が強く求められる中、世界が直面する喫緊の課題である地球温暖化防止に向けた省エネ・温暖化ガス削減の取り組みは、引き続き重要だ。我が国のCO2排出量のうち、オフィスビル等の業務部門(他に商業施設等も含まれる)が2割超を占め、長期的に増加傾向にあるため、オフィスビルでの省エネ対策の重要性は一段と高まっている15

オフィスビルでの省エネ対策として、例えば、吹き抜けによる自然採光・自然換気などの施策を講じると、コスト削減に直接つながるとともに、室内環境改善により従業員の快適性・健康が向上し、また環境貢献への満足度が高まれば、業務の生産性・品質の向上や優秀な人材の確保につながるだろう。優秀な若手人材の中には環境意識・社会貢献意識の高い人材が増えていると思われ、このようなポジティブな効果が大いに見込めると思われる。前出のキユーピーが開設した仙川キユーポートでは、「六角形の建物の中央に大きな吹き抜けの中庭があり、これが自然採光と自然換気のための『風の通り道』でもある。省エネを追求することは、居室の快適性を極限まで検討することにほかならない」16

我が国でも、従来のオフィスビルに比べ光熱費の大幅な削減を図るグリーンビルディングが構築され、環境配慮の取り組みが積極的に進められている。空調や照明などの最新鋭の省エネ機器の導入や、それらを備えたオフィスの新設に加え、既存の機器の効率運転や省エネに向けた従業員の意識付け・働き方の変革など、運用面の抜本的な見直し・工夫も極めて重要だ。

ハイスペックを備えた最新鋭のオフィスビルは、最新鋭の省エネ性能を備えたグリーンビルディングであることが多い。また、最近我が国で新設された先進的な研究所は、4~7階の低層のものが多く見られる。低層の建物は近隣への圧迫感を軽減し、地域社会の景観に調和する効果がある。
 
15 業務部門のCO2排出量(2015年度2.65億トン)は、足下では2014年度以降減少に転じているものの、2005年度対比では11.1%増と部門で唯一増加している(業務部門以外の部門は産業部門、運輸部門、家庭部門等)。
16 東京都環境局地球環境エネルギー部計画課「グリーンビル事例〈仙川キユーポート(キユーピー株式会社)〉」『東京グリーンビルレポート2015』2015年7月より引用。
5従業員の安全やBCP(事業継続計画)など安全性に配慮する視点
我が国でのオフィスビルの選択基準において、所有・賃借を問わず、東日本大震災以降、ビルの耐震性能、省エネ性能、自家発電機能の装備、地盤の強さなど、従業員の安全確保やBCPの遂行が重要な条件として追加され、これまでより強く意識されるようになったとみられる。

森ビルが、主に東京23区に本社が立地する企業で資本金上位の約1万社を対象に実施したアンケート調査によれば、オフィスの新規賃借予定のある企業が新規賃借する理由の中で、「耐震性の優れたビルに移りたい」との回答数の多さの順番は、2010年調査での7番目から、東日本大震災が発生した2011年調査で3番目、2012年調査で1番目まで急上昇し、その後は3~5番目に位置している17(図表4)。
図表4 主に東京23区に本社が立地する企業:オフィスを新規賃借する理由
オフィスビルのBCP強化施策メニューとしては、①耐震補強・省エネのための改修や②非常用発電機および燃料タンクの装備など既存ビルでの施策、③老朽化した自社ビルのBCPに対応できる設備仕様を備えたオフィスビルへの建替え(既存ビルの敷地内での建替えだけでなく、新規立地へ移転して建て替えるケースも想定され得る)、④老朽化した自社ビルの売却およびBCPに対応できる設備仕様・立地条件を備えた賃貸ビルへの移転、⑤バックアップオフィスの確保(所有または賃借)、⑥食料・水・防災用品の常時備蓄、⑦バックアップ構築を含めた堅牢なITインフラの整備、などが挙げられ、不動産との関わりが大きいものが多い(図表5)。

このためCRE部門は、経営企画部門、人事部門、IT部門、財務部門、事業部門など社内の関連部署との連携を図りつつ、外部の不動産サービスベンダーも戦略的に活用することにより、主導的な立場に立ってオフィスビルのBCP強化施策を経営トップに提案し、実施していくことが求められる。

最近我が国で新設された先進的な研究所は、強力なBCP機能を備えていることが多いため、災害時のBCPとして本社のサブオフィス機能を担わせることも一法だろう(図表5)。
図表5 本社オフィスにおけるBCP強化の施策メニューとCRE戦略との関わり
 
17 直近の同調査(2017年12月20日)では、5位となっている。
6「健康経営」を実践する視点(従業員の心身の健康に配慮する視点)
「『健康経営』とは、従業員等の健康保持・増進の取り組みが、将来的に企業の収益性等を高める投資であるとの考えの下、従業員等の健康管理を経営的な視点から考え、戦略的に取り組むことである。健康経営の推進は、従業員の活力や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績や企業価値の向上につながると期待される。経済産業省と東京証券取引所は、アベノミクスの成長戦略に位置付けられた『国民の健康寿命の延伸』に対する取り組みの一環として、『健康経営銘柄』を選定している」18

また、世界最大の資産運用会社である米ブラックロックは、企業の長期的成長には働き方改革による従業員の働きがい・満足度の向上が不可欠であると考えている。

このように健康経営や働き方改革の推進を通じた、従業員の活力や働きがいの向上は、企業の環境、社会、企業統治への取り組みを重視して株式の投資銘柄を選別する「ESG投資」の拡大とも相まって、資本市場での企業価値評価においても重要なポイントになりつつある。

一方、米国では、WELL認証(WELL Building Standard)19と呼ばれる、入居者の健康や快適性に焦点を当てて建物を評価する世界初の認証制度が、2014年からスタートしている。

このように企業の健康経営や働き方改革の取り組みへの関心が高まる中、経営トップは、創造的なオフィスづくりを健康経営や働き方改革の推進のドライバーに位置付けるべきだ。海外の先進企業では、既にそのような考え方をいち早く取り入れている。
 
18 経済産業省、株式会社日本取引所グループ「健康経営銘柄2017 選定企業紹介レポート」2017年2月21日より引用。
19 建築物の環境性能を評価する認証制度であるLEED(Leadership in Energy & Environmental Design)の認証を手がける、米国の認証機関GBCI(Green Business Certification Inc.)が担う。
 

4――メガプレートを備えた大規模ビルへの戦略的移転・集約

4――メガプレートを備えた大規模ビルへの戦略的移転・集約

我が国で創造的なオフィスづくりに取り組む事例では、本社機能などのオフィス移転・集約を契機に、業務改革やワークスタイル変革を標榜したオフィス改革を新たに断行するケースが散見される。その中で、フロア面積の広いメガプレートを備えた大規模ビルへ、分散していた本社機能などを戦略的に移転・集約する事例が一部で見られる20。その戦略的な狙いは、単純なスペースの見直しや賃料削減などコスト削減だけに終わらせるのではなく、関連性のある複数の部署やグループ会社をワンフロアに集めることにより、社内のインフォーマルなコミュニケーションやコラボレーションの活性化を図り、グループのシナジー創出につなげることだ。これは、前述の「企業内ソーシャル・キャピタルを育む視点」に他ならない。

研究拠点についても、本社ビルと同様に移転・集約を契機に、研究開発組織の刷新や研究開発体制の変革とともに、創造的なオフィスづくりに取り組む先進事例が見られる。また、その際にワンフロア面積の拡大を図り、関連のある複数の部署を集結して研究者・技術者同士のつながりを促進しようとするケースも一部で見られる。例えば、前出のキユーピーが開設した仙川キユーポートは、首都圏に点在するグループ17事業所のオフィス機能を集約したものであり、ワンフロア面積は約6,400㎡と当時都内最大級だった(テナントビルを除く)。

大規模ビルへの戦略的な移転・集約においては、CRE部門は、移転先オフィス物件の選定、移転・集約に関わる一連のプロジェクトマネジメント、既存不動産の売却・転用など移転集約プロジェクトの主要な業務について、外部の不動産サービスベンダーの力も借りながら、主導的な役割を果たすことが求められる。
 
20 主要な事例として、キリンホールディングス、ファーストリテイリング、三菱ケミカルホールディングス等が挙げられる。事例の詳細は、拙稿「コーポレートガバナンス改革・ROE経営とCRE戦略」ニッセイ基礎研究所『基礎研レポート』2017年3月29日を参照されたい。
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社会研究部   上席研究員

百嶋 徹 (ひゃくしま とおる)

研究・専門分野
企業経営、産業競争力、産業政策、イノベーション、企業不動産(CRE)、AI・IOT、スマートシティ、CSR・ESG経営

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