2017年05月09日

米国では、人々はどのように生命保険に加入しているのか(5)-リムラ&ライフハプンズの保険バロメータースタディより-健康増進を支援する保険は人々の支持を得るか-

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2|生保会社と健康情報・活動情報を共有することに対する反応
それでは消費者は、「アクティビティ・トラッカーやスマートスケールが収集した自分の活動記録や健康関連情報が、これらの装置を通じて恒常的に生保会社に伝達され、その報酬として保険料の値引き等が受け取れる」という状況につき、どう感じるのだろうか。

下のグラフ2は、健康増進を支援する保険というコンセプトの下、生保会社と活動情報・健康関連情報を共有することに対して、どう考えるかという質問に対する回答の分布である。

左端の「総合」で見ると、「非常にあり得る」と答えた人が14%、「とてもあり得る」と答えた人が17%いて、両者をあわせた前向きな回答を寄せた人の割合は31%となった。

これに対し、「ぜったいにあり得ない」と答えた人が29%、「あまりあり得ない」と答えた人が18%おり、両者をあわせた懐疑的な回答を寄せた人の割合は47%となって、前向きの回答31%を大きく上回った。こうした傾向は基本的には、男女差、年齢差、世帯年収差にかかわらずほぼ一定である。
グラフ2 生保会社と活動情報・健康関連情報を共有することについてどう考えるか
グラフ3 情報共有に前向きな回答と模擬的な回答(グラフ2を変形) しかし、ここでもやはり「18歳~35歳」のミレニアル層、「世帯年収10万ドル以上」の富裕層では、情報共有に前向きの意見が懐疑的な意見を上回るという現象が起きている。

右のグラフ3は、グラフ2を「非常にあり得る」と「とてもあり得る」と答えた前向きな人の割合と、「ぜったいにあり得ない」と「あまりあり得ない」と答えた懐疑的な人の割合を対比したものだが、「18歳~35歳」のミレニアル層、「世帯年収10万ドル以上」の富裕層だけが、前向きの人の割合(青い棒グラフ)が後ろ向きの人の割合(ピンクの棒グラフ)を上回っている。
3|生保会社と健康情報・活動情報を共有することの主な誘因
では、生保会社との情報共有に前向きな人々は、健康増進を支援する保険のどの部分に魅力に感じるのだろうか。グラフ4は、グラフ3で前向きな回答を寄せた人々に、何を魅力と感じて生保会社との情報共有に前向きであるのかを聞いた質問への回答の状況である。

情報共有に前向きな人々のほとんどが、金銭的な貯蓄・節約(例えば保険料の引き下げ、あるいは旅行、ショッピング、エンターテイメントといったインセンティブ)を第一の魅力と答え、健康上の目標設定・より健康的な選択の機会を、2番目の魅力としてあげている。
グラフ4 人々が健康情報および活動情報を生保会社と共有する理由
「アクティビティ・トラッカーを装着して生保会社とその結果情報を共有すること」について聞いた別の質問に対しては、アクティビティ・トラッカーが無償で配布されるので共有に応じると答える人もそれなりの割合があった。
4|生保会社と健康情報・活動情報を共有することの主な障害
一方、生保会社との情報共有に懐疑的な人々は、健康増進を支援する保険のどの部分に懸念を感じるのだろうか。グラフ5は、グラフ2の質問で懐疑的な回答を寄せた人々に、懸念点は何かを聞いた質問への回答の状況である。

健康増進を支援する保険のコンセプトに懸念を感じる人のほとんどは、プライバシーの問題を深刻にとらえている。左端の「総合」で見ると、「より多くの個人情報を共有しすぎ」であると感じる人が63%、「プライバシー上の懸念」があると答えた人が62%存在する。

また「私はジムに行かず予防接種を受けない」と自分がそれほど健康維持に気を配るタイプではないと答える人の割合が25%、歳をとっても「健康で活動的である状態を維持する自分の能力に懸念」があるとする回答が16%、歳をとって「病気やけがで健康で活動的である状態を維持できなくなる懸念」があるとする人が15%いる。
グラフ5 人々が保険会社と健康情報および活動情報を共有したくない理由

さいごに

さいごに

実は筆者は、弊社ホームページ上の研究員のエッセイコーナーに、2016年08月31日付けで「健康増進型保険はIOT時代の生命保険となるか」と題する一文を掲載している1。筆者はその中で、健康増進保険への期待とともに懸念点を述べたつもりだったが、どうやらそれは当バロメータースタディ回答者中の懐疑的な回答を寄せた消費者の意見と同様であったようだ。

健康増進を支援する保険は、生保会社の将来展望として明るい未来を描きうるすばらしい概念である。しかしそのすばらしいコンセプトがきれいな花を咲かせるためには、懸念されるプライバシー問題を払拭できるだけのセーフティーガード、ファイヤーウォールを設置し、「プライバシーを預けてもだいじょうぶ、生保会社は私の健康状態を知って健康維持に力添えしてくれ、私のために保険契約を最新・最適の状態に管理してくれている」と思われるだけの強い信頼を獲得する必要がある。そうでなければ、健康増進を支援する保険は、一部の健康指向の強い層の人にだけ訴求する特化商品で終わってしまう。

健康増進を支援する保険の今後に注目していきたい。

【リムラ&ライフハプンズのバロメータースタディを使用した「米国では、人々はどのように生命保険に加入しているのか」シリーズは今回で最終回とさせていただきます。ご愛読ありがとうございました。】
 
1 松岡『健康増進型保険はIOT時代の生命保険となるか』 http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=53741?site=nli
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松岡 博司

研究・専門分野

(2017年05月09日「保険・年金フォーカス」)

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